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敗北

 宇宙人に負けてしまった。

 これから人類はどうなってしまうのだろうか。



 タイムオーバーだ、人類が敗北した。

 テレビ中継の中の巨大なモノリスは、真っ赤な色から元の鈍いグレーに戻り、表面の文字が変わった。


『グリニッジ王立天文台、会見まで後1時間59分』


 また宇宙人が会見を開くらしい。


 テレビはスタジオからの中継に戻る。


「これから人類はどのようになってしまうのでしょうか。専門家の意見を聞いてみたいと思います」


 重々しい雰囲気の中、『人類の行く末』というテーマで討論が始まったが、専門家の口数が少ない。

 宇宙人が、人類に対してどのような要求を突きつけてくるか分かるはずがないからだ。



 なんとも歯切れの悪い討論が始まってしばらくすると家のチャイムが鳴った。


 僕が玄関のドアを開けると、ミサキが飛び込んできた。


「負けちゃった、どうしよう。これからどうなるの?」


 今にも泣きそうな顔をしている。

 こんな顔をしているミサキに僕はどうしたら良いのか分からない。


「ええと、宇宙人は『支配する』と言ったから、僕らは殺される訳じゃない。

 一時的には宇宙人に支配されるけど、そのうち弱点を見つけて、反撃して追い出してやればいいんだ」


 弱点も追い出す方法も何も分からないが、安心させるために僕は適当なことを言う。


「そう、それならいいね」


 ミサキは少し安心したようだ。口元がすこしだけ笑顔になった。



 居間から姉ちゃんが顔を出して、僕らの会話に割り込んできた。


「これから宇宙人の会見が開くから、二人で弟ちゃんの部屋のテレビで会見をみたらどうだい?」


 なんで僕の部屋なんだろう、僕の部屋のテレビは20インチと小型だ。

 居間のテレビは50型と、居間のテレビのほうがでかいのに、姉ちゃんはアホなのだろうか。

 僕はミサキに意見を聞いてみる。


「居間のテレビの方が大きくて見やすいから居間の方がいいよね?」


「ええ、そうね。私は居間でもいいわ」


 ミサキもやはり居間の方がいいらしい。


 どうせ会見を見るなら大きなテレビの方が良いだろう。

 居間へと移動し、テレビの前のソファーに、姉ちゃんとミサキと僕の三人で座った。


「ごめんねミサキちゃん、馬鹿な弟で」


 姉ちゃんがいきなり僕の悪口を言ってきた。


「いいえ、大丈夫です慣れてますから」


「僕が何か馬鹿な発言をした?」


「なんでもないよ、いつもどおりだよ」


 ミサキが少し焦った様子で返事をしてきた。

 なんだろう、この二人は?



 テレビをのぞき込むと、専門家たちは独自の持論を出し始めていた。


 こんな悲観的な状況でも、番組を盛り上げるため、大げさにまくし立てる。



 これまで比較的に中立的な立場だった人たちは、


「領土の割譲(かつじょう)戦争賠償(せんそうばいしょう)の支払い」

「宇宙人による言論弾圧や放送規制、電波法の改正による言論統制」

「関税や消費税などによる税金の搾取。希少金属、プラチナ、金、銀などの没収」


 といった現実的な支配を言ってきた。



 宇宙人に批判的だった人が過激な意見をしてきた。


「人権が廃止され、全人類は奴隷のような生活を強いられる」

「洗脳による人格破壊、絶対的な支配」

「大量殺戮をして人口を間引きする」


 という身の毛もよだつ意見を出してきた。



 宇宙人を救世主だと言っていた、宇宙人信奉者は、ここにきてもまだ宇宙人を支持をしている。


「人類をよりよき方向に向かわせる為に、人類を支配してくださる」

「彼らの魂のステージが、人類の魂のステージより上なので、これは当然の出来事なのです」

「遠い過去、人類は彼ら宇宙人によって創られました、もともと彼らは神と呼ぶべき存在なのです」


 と、ますますカルト的な事を言い出した。



 これらの意見が正しいか分かるはずが無い。

 無駄とも思える討論を繰り返していると、あっという間に時間が過ぎて会見の30分前になる。



 中継がグリニッジ王立天文台のモノリスへと映る。

 すると、前回の会見でも出てきたロボットがモノリス中から出てきた。


 今回も集まったマスコミ関係者に翻訳機を配り始める。


 僕らはその様子を黙って眺めていた。



「ちょっとチャンネル回すね」


 姉ちゃんが重苦しい雰囲気に耐えられなくなり、リモコンを取ってチャンネルを変えた。

 チャンネルを変えるが、もちろんどこも同じような番組だ。


 だが、こんな状況にもかかわらず、ただ一つだけアニメ番組を放送している局があった。

 緊急事態を表すテロップは出ているものの、メインの放送の内容はいつも通りの子供向けのアニメだった。


「すごいね」


 それまで口を閉じていたミサキが思わず本音をもらす。


「ああ、すごい」


 僕もその意見には同意する。この局は狂っている。

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