ちょっとだけ帰ってきたレオ吉くん 2
僕はシャワーを浴びている。
レオ吉くんに言われて、臭いがあるのか気になってしょうがない。
いつもより念入りに体を洗うと、ラフな格好に着替えて台所に向った。
台所では姉ちゃんとレオ吉くんが飲んでいた。
テーブルの上には空き缶がいくつか転がっており、もう既に酔っ払いが二人、出来上がっていた。
「レオ吉くん、大丈夫?」
僕が心配して声を掛けると、
「大丈夫ですぅ、ボクは酔っ払ってませんよぉ。まだまだ飲めますよぉ」
レオ吉くんは大丈夫と答えてくれるが、ろれつが回ってない。
間違いなく、レオ吉くんはかなり酔っ払っている。
僕はひとまず自分の席に座る。
すると、レオ吉くんがすり寄ってきた。
さっきみたいに臭いを嗅いできたり、変な行動を取るのかと、ちょっと身構えたが、特に何もしてこない。
ビールジョッキを両手で持って、ただヘラヘラと笑っている。
アルコールの力を借りているとは言え、その様子は幸せそうで、とても楽しそうだった。
あまりに密着してきたので、ちょっと注意したい点もあったが、相手は酔っ払いだ。
細かい事を気にせず、僕は話しを進める事にした。
「仕事は上手く行ってるの」
「上手くいってますよぉ。ニュースで選挙の投票率をみてくれましたぁ? 72パーセントですよ、72パーセントぉ! ボクはがんばりましたよおぉぅ!!」
「あっ、うん、そうなんだ」
なぜ投票率が高い事を、レオ吉くんが自慢してくるのか。全く状況が分からない僕に、姉ちゃんが説明してくれた。
「動物の王国の住人は、初めは選挙に興味が無かったの。それをレオ吉くんが遊説してね、住人に選挙の必要性を説いたわけ。
初めは関心を持っていなかった住民も、次第に興味を抱いて選挙に参加してくれたわ。おかげで得票率が7割を超える事ができたの」
「すごいじゃん、レオ吉くん」
僕が素直に褒めると、レオ吉くんは得意気な顔をする。
「そうでしょう、がんばったんですよボク。とてもがんばったんですよぉ。がんばりましたぁ」
なんども深く頷きながら答える。
同じセリフを繰り返す、その様子は、飲み屋に出てくるオヤジそのものだった。
ここで僕は思い出した。レオ吉くんは人前では上がってしまって、ろくに喋れなかったハズだ。
国王が人前でスピーチができないのは致命的だったが、今はその弱点を克服したのだろうか?
「レオ吉くん、人前で喋れるようになったんだね」
僕がそういうと、レオ吉くんは不敵な笑みを浮かべながら答える。
「ボクは宇宙人の技術の詰まったアイテムを使い、弱点を克服しましたぁ。それはコレです!」
僕は、怪しい薬や、高度な機械を想像したが、出てきたのはフェルトのような布でできている、手に収まるくらいの小さな人形だった。その姿は、どこか僕に似ている。
「このツカサ人形に、宇宙人の作ったツカサエキスをしみ込ませます。するとツカサ君の臭いがただよってくるんですよ。ボクは演説の前に、この臭いを嗅いで心を落ち着かせます。
このアイテムの効果は凄いですよ。大々的に売り出してはどうでしょう?」
レオ吉くんは上機嫌で姉ちゃんに話しを振るが、姉ちゃんは微妙な顔をしながら答える。
「まあ、テストしてみて、結果が良好なら販売しようかしら」
「はい、売れると思います。売れますよ」
……絶対に売れないだろう。それに、こんな物の販売はやめて欲しい。
これ以上、体臭の話が続くのはごめんだ。
僕は話題を切り替えた。
「そういえば、動物の王国では明日から国会でしょ? レオ吉くんは出なくて良いの?」
「国王は開会の宣言と、閉会の宣言だけですねぇ。議会に参加はしません」
「イギリスや日本と同じみたいだね。そういえば憲法や法律はイギリスと同じだったっけ?」
「そうですね。それで、大変なんですよ。修正しなきゃいけない法律や決まりがありすぎて……」
「そうなの? 今のイギリスで運用されているんだから、あんまり変な法律は無いんじゃないかな?」
僕がそう言うと、レオ吉くんはジト目で僕を見ながら反論する。
「変な法律がありすぎですよ。『シルクハットを公共の場所で身につけてはいけない』『下院議員は、甲冑を身に着けて国会議事堂に入ってはならない』とか、おかしな決まり事があるんですよ」
レオ吉くんが変な事を言い出した。かなり酔っているのだろう。
酔っ払いに正面から反論しても無駄なだけだ。僕は話しを合わせる事にした。
「ま、まあ。甲冑とか着ける人は居ないんじゃないかな? シルクハットもかぶっている人はいないでしょ」
「そうかもしれませんね。でもコノ場所が動物の王国だったら、ツカサ君も法律違反をしていますよ」
「えっ、僕が? なんだろう?」
考えて見るが、思い当たる事は何も無い。
僕が困った顔をしていると、レオ吉くんが答えを教えてくれた。
「それはですね。ツカサ君は今は靴下をはいてないじゃないですか」
「うん、お風呂上がりだからね」
「それ、法律違反です『女王・国王から100ヤード以内の距離で、靴下を履かずに立つ』のは違法なんですよ」
「……なんで?」
「なんででしょうねぇ。とりあえず、初めの国会では、こういった法律を撤廃する予定です」
レオ吉くんが遠い目をしながら言う。
酷く酔っていて、かなり無茶苦茶な事を言っている。
これ以上、酔っ払い相手に真面目な話しをしてもしょうがないだろう。
僕は身近な話題に切り替えた。
「この後、レオ吉くんは学校に来られるの?」
「いえ、まだ予定が詰まっていて無理そうですね。皆さんとは会いたいのですが……
あっ、そうだ。明日の放課後は空いてますか?」
「多分、大丈夫だと思うよ」
「よかった。明日の午後、ココを視察するのですが、一緒にどうでしょうか?」
そう言って、何かのチケットを渡される。
チケットには「猫喫茶 『猫の王国』 ご優待券」と書かれていた。
住所をみると、最寄り駅の駅前だった。
「明日、オープンする予定です。動物の王国の直営店で、ボクが社長ですよ」
ちょっと得意気に言うレオ吉くん。
「うん、一緒にいこう」
僕は明るく返事をする。そしてLnieでみんなに予定を空けて貰うようにメッセージを流した。
明日の午後にはみんなで会う事ができるだろう。
この後もレオ吉くんと法律に関して話したが、「14歳以上の男性は、毎日2時間以上、長弓の練習を怠ると違法」とか、「レディーが公共の場所でチョコレートを食べるのは違法」とか、支離滅裂な事を言い出した。
だいぶストレスが溜まっているのかもしれない。
※イラストはseima氏に描いていただきました。




