コレクターとブリーダー 1
ミサキが眠らない夜を過ごした、その翌日。
僕はいつも通りに家に迎えに行く。
ミサキの家の玄関を通り、リビングに行くと、目に隈ができているミサキが居た。
「おはようミサキ、もしかして昨日から寝てないの?」
「そうよ、一睡もしていないわ。寝たらヤツがやって来るんだから」
かなり真剣な表情で語る。
ちょっとフラフラとしているミサキに、僕は言い聞かせるように言う。
「ほら、支度をして。学校にいくよ」
すると台所の奥から、おばさんの声が聞こえてきた。
「ツカサくん、あとはよろしくね。私はそろそろ寝るわ」
本当におばさんを朝まで付き合わされたらしい。
僕は寝ぼけているミサキに制服の袖を通すと、むりやり学校へと連れて行く。
学校に着くと、ミサキは自分の机に突っ伏して寝た。
まあ、今回は仕方が無いだろう。
ミサキの机の周りで、いつものメンバーで話しを始める。
ジミ子が昨日リリースされたゲームについて、話題を切り出した。
「なんかラブモンGO、なんだか人気みたいね」
「ユーザー数が世界で400万人を超えたって話しだよな」
ヤン太があきれながら言う。するとキングがこう言った。
「でも、宇宙人のリリースしたゲームだから、興味が沸くのも分かるぜ。
俺もバイト代が出なくても、普通にインストールしてプレイしてたと思うし」
「まあ、そうだね。内容を知らなかったらやってたと思うよ」
僕がそう言うと、キングが反論してきた。
「いや、それが、内容を知ってからゲームに参加する人が多いらしいぜ」
「マジで!」
ヤン太が素で驚く。僕も驚いた、まさかあのゲームを好んでやる人がいるとは……
「……あのゲームの評判ってどうなんだろ?」
僕がつぶやくと、それにキングが答えてくれた。
「実は俺の海外のゲーム仲間が、あのゲームを絶賛しているんだ。今までに無いタイプだって」
「まあ、そうだろうな。全世界のあらゆる空間に、映像を映し出すゲームなんて聞いたことが無い」
ヤン太が腕を組みながら、頷きながら答える。
まあ、確かに技術は高いんだが……
「でも、あの題材だとね……」
僕がボソッと口に出すと、キングが想定外の発言をした。
「海外では、あのキャラクターが好評らしいぜ」
「マジで!」「本当に?」「ありえないわ!」
それぞれが否定の声を上げるが、キングは気にせず話しを続ける。
「あのグロテスクなデザインが良いらしい。プレイヤーに媚びてなくて最高だと言っていた。
俺のゲーム仲間の何人かは、金払ってでも集めたいって言ってたぜ」
「お金を払ってまでって……」
ジミ子があきれて言葉を失う。
「本当に金だすヤツいるのか?」
ヤン太がそういうとキングがスマフォを見せながら、こう言った。
「これ、『ヤヒュー』のオークションサイトの『ヤヒュオク』だけど、ラブモンの出展があって、何件かは落札されてるみたいだぜ」
『ヤヒュオク』で『ラブモンGO』というキーワードで絞り込むと、15件くらいの出展があり、値段の比較的安い4件は落札されていた。
「本当だ、千円から三千円くらいの値がついてわね」
ジミ子そう言うと、ゲームにあまり詳しくないジミ子にキングが説明してくれる。
「普通、こういった現金でのゲームの取引は禁止なんだけど、宇宙人はゲームに疎いのか、こういった行為を今のところ禁止してないみたいだぜ。まあゲーマーだったら、どんなモンスターでもコレクションしたいものだろうな」
「ふーん、そうなんだ。これは良い事を聞いたかも」
ジミ子が不敵な笑顔を浮かべる。
何か良くない事を思いついたのかもしれない。
そんな話しをしていると、墨田先生が教室に入って来た。
「ほら、お前ら、ホームルームをはじめるぞ」
僕らは授業を開始する。
午前中の授業が終わり、昼休みに入ってしばらくすると、Lnieで姉ちゃんからメッセージが飛んできた。
『ラブモンGOの設定、出来るようになったわよ。あとはよろしく』
どうやら設定できるようになったらしい。
この事をミサキに伝えると、昼食を中断して、設定をイジってラブモンを見えないようにしていた。
これでミサキは正気を保てるだろう。
昼食を食べ終わり、このゲームによってどれだけ世界が混乱しているのか、僕らはニュースを調べてチェックしてみる。
すると意外な事に、コレといったニュースは流れてこなかった。
「大丈夫そうだな」
ヤン太が安心する。僕もちょっと安心をした。
「うん、そうだね。平気そうだね」
安心している僕らの横で、キングが『ラブモンGO』のゲームのまとめサイトを僕らに見せながら言った。
「新種がけっこう発見されてるぜ」
「もう見たくない」
ミサキはスマフォから視線を外し、意地でも見ないつもりだ。まあ、放っておこう。
「『深き者』はボクモンGOの『フナキング』みたいに色違いがあるみたいね」
キングのスマフォを見ながらジミ子が感心したように言う。
『ラブモンGO』は意外にもスムーズに世界に認められたようだ。
この後もユーザー数を徐々に増やし、人類に浸透していった。
そして数日が経った。
翌週の月曜の朝、ジミ子がお土産のお菓子を学校に持ってきた。
「はい、これ東京と京都のお土産ね、食べて見て」
「ありがとう。でもなんで東京と京都なの?」
ミサキがジミ子に質問をする。
確かに東京と京都はかなり離れていて、両方のお土産を同時に持ってくるのは、ちょっと不自然に感じる。
すると、意外な答えがジミ子から返ってきた。
「ちょっとね。一人でラブモンを捕まえにいっていたの」
「一人で東京と京都に行ったのか?」
ヤン太の質問に、ジミ子はちょっと照れながら答えた。
「まあね」
これは一体、どういう事だろう。




