世界に羽ばたくラブモンGO 1
第21回目の改善政策が終わると、ミサキが僕に突っかかって来た。
「なんでアンケートに『面白い』って答えちゃったの、大変な事になっちゃったじゃない」
僕はミサキをなんとか落ち着かせる。
「大丈夫だよ。18歳以下は禁止されているから、僕らには関係ないよ、安心して」
「まあ、確かにそう言っていたけど……」
不満げな顔をしているミサキの機嫌を取る。
「後でメェクドナルドゥで奢るから」
「じゃあ、今やってる『ベーコンでりたまバーガー』のLセットでよろしくね」
「はい、分かったよ」
ラブモンGOの時は、さんざん怖い目に遭わせたのだから、まあ、このくらいの出費は仕方がないだろう。
僕らは午後の授業を乗り切り、放課後、メェクドナルドゥへと向った。
メェクドナルドゥに向う途中、キョロキョロと周りを見回す人を何人か見かけた。
気のせいなら良いのだが、もしか知るとあのゲームをインストールしてしまったのかもしれない。
僕らはメェクドナルドゥに付くと、それぞれメニューを頼む。
すると、アホ毛の店長さんが僕らに世間話をしてきた。
「今日の政策改善で発表されたゲーム。話題になってるみたいだね。君達はやらないの?
あっそうか、まだ高校生だから出来ないか」
ニコニコと笑いながら言うのだが、あのゲームの内容は笑いながら語れるものでは無い。
「実は私達、あのゲームのテストプレイをしたんですよ」
ジミ子がそういって、スマフォを見せる。
そこには二体の『深き者』と共に自撮りをしたジミ子の写真があった。
「ちょっと気持ち悪いね」
グロテスクな『深き者』を見て、店長が率直な感想を言う。
「これが暗がりの池の中を、這いずるように泳いでいるんですよ。止めた方がいいです」
ミサキが真剣な顔で、店長を説得する。
すると、どうやら納得したみたいだ。
「私は怖いのは苦手だから止めておくよ。忠告ありがとう。お礼に『じゃがいもグラタンパイ』を付けてあげよう」
店長は周りにお客さんが居ない事を確認してから、僕らにこっそりとオマケをしてくれた。
「ありがとうございます」
ミサキが満面の笑みを浮かべながら返事をすると、その横でジミ子がボソッとつぶやいた。
「たしかにそうね。あのゲームをやるとひき肉とか扱えなくなるかもね……」
「あっ、うん。そうなんだ。絶対に近寄らないようにするよ」
店長が顔を引きつらせながら答えた。
ちょっと嫌な思いをさせてしまったかもしれないが、これでどれだけ深刻なゲームなのか伝わっただろう。
メニューが出来上がると、僕らは席に着く。
そして話しをしながらハンバーガーを食べ始める。
その話題の中心は、もちろん『ラブモンGO』に関してだ。
「あれ、流行ってるのかな?」
ヤン太が疑問を投げかける。
「宇宙人が作ったゲームだから、話題にはなるだろうね」
僕がそう言うと、キングが補足と言おうか、突っ込みを入れる。
「それは、悪い意味でな!」
「まあ、確かにそうかもね」
僕もその意見は否定出来ない。
「ちょっとニュースをみて見ましょうか」
ジミ子はスマフォを出して調べようとした時だ、キングがそれを止めた。
「どうせならプレアデススクリーンでニュースを見てみようぜ、みんなで見る分にはそっちが良いだろう」
「そうね、忘れていたわ」
そうだった、僕らはゲームの事で頭がいっぱいで、他の追加機能について忘れていた。
「プレアデススクリーン、オン。続いて『ニュース』ボタンを押すぜ」
キングが操作すると、空中に大きくニュースサイトのトップ画面が現れた。
画面は新聞くらいの大きさで、非常に見やすい。
「見やすいわね。これなら新聞のテレビ欄も要らないかも」
ミサキが画面をのぞき込みながら言う。
確かに、スマフォだとテレビ番組表などは見にくいが、これなら問題なさそうだ。
「ええと、多分この記事だな『世界に羽ばたくラブモンGO』ちょっと見てみるぜ」
タイトルを押すと、記事の詳細が表示される。
記事の内容は、軽くラブモンGOの世界観について触れたあとに、プレイヤー達の感想が載っていた。
その意見は、
『初めてラブモンに遭遇した時は心臓が止まるかと思った』
『お年寄りにはお勧めできない』
もっともな意見や、
『実に良い雰囲気だ。世界観を大切にしている』
『これはユニークだ、散歩が楽しくなる』
『久しぶりに出歩きたくなったよ』
意外にも肯定的な意見が並んでいた。
中には否定的な意見もあるのだが、とても少ない。
『都心だとどこ行っても人がいる。これは無理ゲー』
『ラブモン見かけないんだけど、なんだこのクソゲー』
このゲームを否定するより、愚痴のようなコメントが載っていた。
「意外だね。もっと大変な事になると思ったけど」
僕が感想を言うと、ヤン太も同意する。
「そうだな、もっと混乱すると思ったが」
「まあ、ボクモンGOで慣れているんじゃないか?」
キングはそう言うが、出てくるモンスターがあまりにもかけ離れている。
もしかするとゲーマーは、こういった感覚が麻痺しているのかもしれない。
「もっと世界に向けて、このゲームの危険性を説明しないと。世界が滅びるわ!」
ミサキがいつになく真剣に語る。先週の体験は本気で怖かったのだろう。
「まあまあ、このゲームは18禁の指定だし、もう僕らには関係ないよ」
僕がミサキを落ち着かせるように言った。
「そ、そうね。もう私らには関係ないわよね」
ちょっと安心するミサキ。
「あっ、ちょっとトイレ行ってくる」
そう言ってジミ子が席を外す。
席に残った僕らは、このゲームの話題を続ける。
しばらくすると、ジミ子が戻ってきたのだが、様子がちょっと変だ。
僕らの近くに戻ると、こう言った。
「トイレに『深き者』が居たわ」
「えっ、どういう事?」
ミサキが焦った様子で聞き返す。
「ええと、トイレに私の捕まえた『深き者』が現れたわ。どうやら人気のない場所では表示されるみたい」
「…………なんで?」
ミサキは混乱した。
僕らはあの世界の住人と、まだ繋がっているらしい。




