ラブモンGO 5
深夜、神社の前に自転車を止め、朱塗りの鳥居をくぐり、境内の中へと僕らは進んでいく。
人の居ない神社は不気味で、木々が風にざわつく音以外は、耳に入ってこない。
ヤン太とキングが二人で先頭を歩き、次にジミ子と『深き者』、最後に僕とミサキが列を作って進んでいく。
ミサキは僕の腕にしがみつくように着いてきている。
「ミサキ、その、ちょっと胸が当ってるよ」
僕の二の腕にしがみついているミサキは、どうやら必死すぎて気がついていないようだ。
それとなく注意するが、
「今、それどころじゃないから」
僕の意見は全く聞いていなそうだ。
まあ、本人が良いと言うなら、いいのかもしれない。このままにしておこう。
「どこから行くの?」
ジミ子がヤン太に問いかける。
「とりあえず順路通り、一通り行ってみよう。まずは弁天池だな」
僕らは暗い境内の中を進んで行く。
所々には街灯が立っているが、街灯の以外は真っ暗だ、何も見えやしない。
そんな暗闇の中を、スマフォのライトだけで慎重に進む。
やがて不気味な池へとたどり着いた。
池の周りからはカエルの鳴き声が絶えず聞こえてくる。
僕らがその池へと近づくと、空中に突然、ラブモンボールが現れた。
「近くに居るぞ!」
ヤン太に言われて周りを見渡す。
すると、池の中に2体の『深き者』が泳いでいた。
見つけた僕は声を上げる。
「いた! 池の中にいるよ」
「捕まえろ!」
ラブモンボールを投げはじめようとするが、僕はちょっと躊躇をする。
「待って、アレにボールが当ったら、コレにつきまとわれるんだよね」
僕はジミ子の所有している『深き者』を指さしながら言った。
すると当然、みんなの手が止まる。
「そうだったな。コレが仲間になるんだった」
キングがグロテスクな顔をみながらつぶやく。
ヤン太もどうやら嫌らしく、ボールを投げる手が完全に止まった。
僕らがためらっている中、ジミ子は構わずボールを投げ続けた。
そして新たに2体の『深き者』が傘下に加わった。
「これで3体になったわ、合計で1500円よ。こうなりゃ1体も2体も3体も変わらないわ」
ジミ子はちょっとヤケを起こしているのか、開き直って言う。
「ま、まあ、次に行こうぜ」
ラブモンボールが出現しなくなり、近くにラブモンが居ない事を確認すると、僕らは神社の中へと移動する。
境内を移動していくと、屋根付きの立派な門が現れる。
屋根は茅葺で、門の左右には狐の象が配置されていた。
そして、その門の中心に通常では見慣れないモノが浮いている。
青白く光る人魂のようなもので、周囲の狐の象を怪しく照らしていた。
「アレもラブモンだよな?」
ヤン太がそう言うと、僕らの目の前にラブモンボールが出現する。
「アレなら仲間にしてもグラフィック的にOKだぜ!」
そう言いながらキングがラブモンボールを投げはじめた。
たしかに、人魂だったら何も怖くはない。
僕らは恐れること無くボールを次から次へと投げるのだが、空中を漂うソフトボールくらいの人魂にはなかなか当らなかった。
しかし投げ続けていればそのうち当る。
狙いを済ませたヤン太のボールが命中し、ハートマークを出しながら、そのモンスターはヤン太のラブモンになった。
「ちょっと名前を確認してみようぜ」
キングの催促に、プレアデススクリーンを表示するヤン太。
「ええと『クトゥグァ』だってさ、聞いたことねーな」
「まあ、かわいらしいから良いんじゃない」
ミサキがここに来て初めて明るい表情をしながら言う。人魂のどこがかわいいのか分からないが『深き者』よりは親しみが持てる事は確かだ。
こうして新たなラブモンを加えて、僕らはいよいよ神社の本殿へと向った。
砂利の道を歩いて行くと、校庭のような広い場所の中心に、本殿が見えてきた。
お正月の初詣では、この広い空間が全て人で埋まるが、今は誰も居ない。
結婚式なども行なわれる大きめの本殿は、雨戸が閉まり寂しい。
「ボクモンGOだと、こういった場所にレアなモンスターが配置されてるぜ」
キングがまわりをキョロキョロと見ながら言う。
僕らも周囲を見渡す。だけど、それらしきモンスターは見当たらない。
「居ないな」
ヤン太が言った直後、ミサキが声を上げた。
「あ、あそこに人がいるよ」
本殿の一角を指さす。
「人が居るならラブモンが出てこないのもしょうが無いわね」
ジミ子がやれやれといった感じで言うが、ちょっと様子がおかしい。
人がいれば『深き者』は姿を隠すものだが、相変わらず出現したままの状態だ。
僕らはその人影に近づいていく。
その人物は白いワンピースを着ている少女だった。
年齢は僕らと変わらないだろうか、その少女は僕らを確認すると、ゆっくりと阪面ライダーの変身ポーズのような格好をする。
変な事をする人だなと思った次の瞬間、50メートルはあろうかという距離を、ライダーキックの格好で一瞬で飛んできた。
そのライダーキックはジミ子の『深き者』の一体に当たり、上半身が爆散する。
よくあるゲームのグラフィックと違い『深き者』は表面だけではなく内蔵まで作り込まれていた。
そばに居たジミ子に、その中身の大半が降りかかる。
「キッ、キャー」
たまらず悲鳴を上げるジミ子。
ワンピースの少女は次の『深き者』にターゲットを合わせるが、ヤン太の人魂が反応をした。小さな青白い火の玉を作り、少女へと放つ。
火の玉が命中した少女は、蝋人形のように溶けて、地面の中へと消えていった。
「なんだ、やっつけたのか?」
ヤン太がそう言った次の瞬間、僕らの前にラブモンボールが現れた、どうやら敵はまだ生きているようだ。
周りを警戒していると、地面の中から、タコの足のようなモノが生えてきた。
うねりながら、人間ほどの大きさの触手が無数に生えてくる。それは広い境内を埋め尽くす。
触手はやがて動物や人間や、見たことのない化け物に姿を変える。
ヤン太の人魂は、手当たり次第にこの触手と触手から派生した生物を攻撃した。
ある個体は溶け、ある個体は爆ぜ、ある個体は半身を失いながらも、動き回る。
化け物の臓物が地面に散らばり、ここはさながら地獄絵図だ。
「ギッ、ギャー、助けて!」
ミサキが一つ目の赤ん坊に足をつかまれ、パニック状態になってしまった。
「こんだけ居るんだ、適当にラブモンボールを当てれば捕まえられるだろ」
キングがラブモンボールを手に取り、そこら辺の触手へ投げつけた。
すると『本体を攻撃して下さい』とメッセージが表示される。
「本体?! この中から本体を見つけ出さなきゃいけないのか!」
キングも半ばパニック状態におちいった。
「いったん逃げるぞ」
悲惨な状況に陥り、ヤン太は撤退を決意する。
僕らは逃げようとするが、ミサキの腰が抜けていて、まともに動けない。
「ギャー、ギャー、ギャー」
無理矢理立たせて移動させようとしても、混乱状態で全く言う事を聞いてくれない。
どうしようもなくなった時、突然、全ての触手とモンスターが消えた。
「君たち、何をやって居るんだ」
懐中電灯の光に当てられ、ミサキがちょっと正気を取り戻す。
お巡りさんがやってきたようだ。
プレイヤー以外の人間が現れた事により、ラブモン達は姿を隠した。
「あっ、いや、ボクモンGOのモンスター集めです」
お巡りさんに聞かれ、キングがとっさに嘘をつく。
「こんな時間にか? 君達、詳しく話しを聞かせてもらえないかな」
こうして僕らは派出所に連れて行かれ、たっぷりとお説教を喰らった。
さんざん絞られて、やがて僕らは解放された。
深夜からはじめたラブモン探しは、もう早朝になり、空が白みはじめている。
疲労困憊の状況だ、ラブモン探しはあきらめて、僕らはそれぞれの家に帰ることにした。
家に近づくと、ミサキの家に黒い物体が巻き付いている。
ミサキはまたパニックになるかと思ったのだが、今回は違った。
「うごぅ、らぁ!」
キレた。獣のような声を上げて、巨大な物体にラブモンボールを投げつけた。
ラブモンボールが当った黒い塊は、ハートマークを出してミサキに近寄ってくる。
こうしてミサキは特大のラブモンをゲットした。
このラブモンを引き連れて、神社のアレに再戦を挑めば、今度は勝てるだろうか?




