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テスト前の混沌 5

「ただいま~、あーつかれた~」


 姉ちゃんが我が家に帰ってきた。聞きたい事が山ほどある。

 僕は玄関に走り、やや語気を荒げて質問をぶつけた。


「姉ちゃん、今週の改善政策の内容、どうなってるの?」


 すると、珍しく姉ちゃんが弱気な態度で返事する。


「まって、ちょっとまって。言いたい事はだいたい分かるよ。

 私も強制的はマズいってチーフを止めようとしたけどさ、どうにもならなかったのよ。

 それにちょっと休ませて、仮眠は取ったけど、久しぶりに徹夜明けだから」


 ちょっとフラフラとしながら靴を脱ぐ。

 さすがにこの状態の姉ちゃんを責める気にはなれなかった。



 姉ちゃんは台所に行くと、勉強中の母さんに声を掛けた。


「母さん、今日の晩ご飯は何?」


 するとこんな答えが返ってくる。


「今日と明日はカップラーメンよ、それで我慢してね」


「カップラーメン…… まあ、いいや、早く寝たいからそれでも」


 用意されていたお湯を注ぎ、2つのカップラーメンにお湯を入れる。

 どうやらまともに食事もしてなさそうだ。


 姉ちゃんは一つ目のカップラーメンを、あっという間に食べ終わると、二つ目に手をつける。

 そこで僕は質問をして事情を聞き出す事にした。



「姉ちゃん、どうしてこんな事になったの?」


「うーん。チーフがさ、どこからか日本のマンガか小説を引っ張り出してきてさ『イイネ、この設定』とか言い出したのね。

 何のことかと内容を見てみると、ほぼ今週の改善政策の内容だったのよ」


「え、マンガや小説が元なの? この政策」


「そうなの。で、私は『それ架空です、フィクションです』って言ったんだけど、チーフがえらく気に入ったみたいでさ、いくら説得してもダメだったわけ。それで私もあきらめたのね」


「あきらめないでよ。もうちょっと何とかならなかったの?」


「いや、けっこう私は頑張ったよ。初めは『この政策の対象者ハ、平均点以下が対象カナ?』とか言い出してたし」


「あっ、そうなんだ」


「そこでテストのハードルをかなり下げてもらったわ。テストの内容はあまり詳しく言えないんだけど、かなり低いからね。まあ大丈夫でしょう」


 そして姉ちゃんが二つ目のカップラーメンを食べ終わる。満足したようだ。


「母さん、明日は午後から出社だから。寝かせておいてね」


「分かったわ」


「それにそんなに勉強しなくてもいいかもよ。問題は本当に簡単だし、それに頭をイジるって、そんなに大した事ないし」


 姉ちゃんからとんでもない意見が飛び出てきた。

 僕はこの発言は見過ごせない。


「姉ちゃん、大した事ないって、頭をイジるってけっこう大事(おおごと)でしょ?」


「そう? 私はそこまで大事には感じないけど」


「いや大変だって。一大事(いちだいじ)だよ」


「そ、そうかな? 意外とミサキちゃんとか、お似合いじゃないかな」


 いやぁ、いくらミサキのテストの成績が悪いとは言え『お似合い』は酷すぎる。

 僕が黙り込んでしまうと、姉ちゃんもさすがに空気を読み取った。


「えっ、もしかしてミサキちゃん、そこまで成績悪いの? 確かにあまり良い方だとは思っていなかったけど……」


「うん、ダメかもしれない。やる気も無くしているみたいだし……」


 僕が深刻な表情をしていると、姉ちゃんがスマフォでどこかにメッセージを送った。

 そして2分も経たないうちに、玄関のチャイムがなる。



 姉ちゃんは玄関に出て行き、すぐに戻ってきた。

 初めはテストの免除でもしてもらえるのかと思ったが、どうやら違うらしい。

 手には栄養ドリンクのようなものが幾つも握られている。


「テストに関しては教える事はできないけど、これでも飲んで頑張ってよ。テストは本当に簡単だからさ」


 そこには手書きの文字でこんな事が書かれている


『やる気アップ、これを飲めば頑張れる! 青春力(せいしゅんりょく)アップ成分配合』


「……姉ちゃんなにこれ?」


「栄養ドリンクみたいなヤツ、ちゃんとやる気も出るよ」


「せ、青春力(せいしゅんりょく)ってなに?」


「うーん飲めば分かるかな。『みなぎるやる気』みたいな感じ? とりあえずみんなの分も渡しておくね」


 そういって姉ちゃんはドリンク剤を僕に渡す。

 出来れば使いたくない薬だ……



 僕が薬の注意書きを読んでいたら、姉ちゃんが耳打ちをしてきた。


「あと、ここだけの話し、頭はちゃんと元に戻せるみたいだから。これは誰にも言っちゃダメだけどね」


 そういって姉ちゃんは僕にウインクをして、シャワーを浴びに行った。


 ……なるほど、元に戻せるのか。

 そういう事なら今回の出来事は気楽に感じられるだろう。


 僕は大分(だいぶ)、気持ちが軽くなった。

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