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テスト前の混沌 3

 家に帰ると、母さんが晩ご飯の支度をしていた。

 僕の姿を見ると、声を掛けてくる。


「今日の改善政策の発表、見た? 成績の悪い人は頭をイジられるんですって」


「うん、見たよ。母さんは勉強をしなくて良いの?」


「うーんどうしようかしら? 一般常識が出来れば勉強しなくて良いって、宇宙人さんも言ってたし」


 まるで緊張感のない返事が返ってきた。

 もう少し危機感を持って欲しいので僕はキツめに言う。


「まずいよ、ちゃんと勉強しないと。頭を改造されちゃうよ」


「……そうね、少しはやらないとね。でも何をすれば良いのかしらね?」


「ちょっと待って、学校で配られたプリントを渡すから」


 そう言って、今日配られたプリントを整理して渡す。

 プリントは1日分だが、かなりの量になっていた。普段なら一週間分くらいはありそうだ。


 プリントを渡すと、母さんはこんな事を言う。


「でも、お料理とかあるし、あまり出来ないかも」


「そんなの後で良いよ、テストまではカップラーメンとかで良いからさ」


「分かったわ、じゃあ明日からは甘えさせてもらうわね」


 そう言って台所へと戻って料理の続きを始めた。

 ここは直ぐにでも勉強に取りかかるべきではないだろうか……

 うちの母さんはやはり危機感が足りない。



 僕は夕食までの短い時間、テレビを入れてみる。

 すると、当然だが今日の出来事が話題になっていた。


 テレビ番組では宇宙人の反対派と賛成派など様々な専門家を集め、両陣営で討論をしている。


「人類の頭脳をイジるなど、有ってはならないです。許される事ではありません」


 反対派のリーダーの年配の人が、全面的に否定をする。

 すると賛成派のリーダーがこんな事を言い出した。


「しかし今回の頭をイジるというのは、宇宙人にとっては日常的にやっている事でしょう。

 こういった処置は、より高い知能を得るには必要不可欠なのかもしれません。

 これは、人類の新たなる進化のきっかけになるかもしれませんよ」


「確かに高い知能は得られるかもしれないが、倫理的(りんり)には許されないでしょう」


 賛成派は明るい未来を語るが、反対派のリーダーは断固として拒否をする。

 すると賛成派のリーダーはこんな事例を持ち出す。


「なぜ拒否をするのです? この技術を拒否するのであれば、宇宙人のガンなどの難病の治療システムも使用すべきではないのでは?」


「それとこれとでは話しが違います」


「いえ、違いません。我々人類は、もう宇宙人の作り出したシステムに依存しているのです。この頭脳の改善システムも、出来うる限り活用すべきです」


「では、あなたは率先して、この処理を受けるのですか?」


 すると今まで肯定してきた賛成派のリーダーが言い逃れをする。


「今回の頭脳の改善は、テストで選抜を行ないます。

 テストに落ちた人が対象という事なので、頭脳のあまりよろしくない人に対しての改善なのでしょう。

 私は知能が上がる処理なら喜んで受けますが、低い水準の知能の底上げをするような処理はあまり受けたくないですね」


 やはり頭をイジられるのはイヤなのだろう。まあ、仮に頭をイジられるにしても、他の人がどうなったか見定めてからでも遅くは無い。適当に理由をつけて言い訳をする。

 すると、歯に衣着(きぬき)せぬ物言(ものい)いの、元大統領婦人のデイビッド婦人が口を挟んだ。


「あなた達ちゃんとハッキリ言わないとダメよ。今回のテストは馬鹿を見つけるテストなんでしょ。馬鹿につける薬が見つかって良いじゃない。世の中から馬鹿が居なくなれば過ごしやすくなるわよ」


「「…………」」


 この発言に賛成派と反対派のリーダーは言葉をなくした。

 まあ、たしかにそうかもしれないが、言い方というものがあるだろう。


 僕はスマフォでデイビッド夫人のトゥイッターを覗いてみる。すると予想通り大炎上していた。


『馬鹿と言う方が馬鹿』『お前の方が馬鹿』『宇宙人のテストに落ちろ!』


 酷い書き込みが続く。


 テレビの方は、賛成派と反対派がすっかり大人しくなり。


「ま、まあ今回の政策に反対するにしても、私達は結局、宇宙人の言う事を聞くしかないですよね」


「そ、そうですね。我々人類は、ただ従うだけしか選択肢がないですよね」


 先ほどの勢いが嘘のように、穏やかなやり取りが続く。

 デイビッド夫人は、まだ何か言いたげだったが、発言を禁止されたのか再び口を開く事はなかった。



 テレビがひと段落つくと、父さんが帰ってくる。

 そして、リビングに入るなり、ネクタイを外しながら文句を言った。


「いやあ、参ったよ。業務中もテストの勉強をさせられてさ。久しぶりだから、かなり忘れてる部分があったよ」


「そうですか、それは大変でしたね」


 母さんが背広を脱がせながら言う。そしてワイシャツ姿になると、父さんから意外な事を頼まれた。


「ツカサ、ちょっと父さんと母さんの勉強を見てくれないか?」


「えっ僕が? 僕で大丈夫なの?」


「ああ、こういった事は学生の方が得意だろう」


「私の分もよろしくね」


 父さんだけでなく、母さんからもお願いされた。

 これを引き受けない訳にはいかない。


「あっ、じゃあさっそくプリントを」


 僕がプリントを見直そうとしたら、


「まあ、食事が終わってからでいいぞ」


 と、父さんから言われた。


 そういえば姉ちゃんがまだ帰宅していない。

 帰ってきたら色々と聞きたい事があるのだけど……


 そんな事を考えていたら、姉ちゃんからLnieでメッセージが飛んでくる。


『今日はクレームが凄いから遅くなる、みんなで先に食べてて』


 まあ、あの政策だと無理も無いだろう。

 僕らは姉ちゃん抜きで食事を済ませと、食後に両親と共に勉強会を開く。


 教えてる途中、僕の教え方はなかなか分かりやすいと褒められた。

 親に褒められると、この歳でもちょっと嬉しい。



 この日は遅くまで家族で勉強をしていたが、姉ちゃんが帰ってくる事はなかった。

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