第17回目の改善政策 1
改善政策の発表の日を迎えた。
この日は、いつもの日とはちょっと違い4時間目を切り上げて、早めの昼食を食べている。
毎週、繰り返して見慣れている光景だが、今日は初体験のレオ吉くんが一緒にいる。
「今週の改善政策は、何が発表されるんでしょうか? 気になりますよね」
レオ吉くんは期待に胸を躍らせていた。
宇宙人の改善政策は良いものもあれば、悪いものもある。
最悪の出来事は、もちろん第1回の『男性の女性化』だろう。
この出来事はレオ吉くんと無関係とは言えない。もしこれがなかったなら、僕はもちろん男のままだし、レオ吉くんはちゃんと男性になっていたかもしれない。
「まあ、大した内容が無い回も多いんで、気楽に見ましょう」
ジミ子が野菜ジュースを飲みながらいった。
放送開始の20分ほど前だろうか、いきなりロボットがやってきてピンク色の『どこだってドア』を配置した。
こんな放送直後の時に宇宙人が来るのだろうか?
そう思っていたが、扉が開くと中から姉ちゃんが出てくる。
そしてこちらを見るなり近づいてきた。
「レオ吉くん、これから記者会見をするわよ、一緒に来て」
「えっ、そんな話は聞いてません」
「今、初めて話しているからね、さあ行きましょう」
手を引いて連れて行こうとする。
すると、レオ吉くんはこんな事を言う。
「ボクがスムーズに記者会見をするにはツカサくんが必要です」
「ん? どういうこと?」
姉ちゃんがサッパリ状況の分からない顔をする。
「レオ吉くんは正面にツカサが居ないと、ちゃんとスピーチ出来ないんです」
ミサキが説明をするが、この説明で分かるのだろうか?
しばらく姉ちゃんは、考えていたようだが、答えが出なかったようだ。
「まあいいや、じゃあレオ吉くんと弟ちゃん、一緒に来て」
そう言って強引に手を引っ張って、どこだってドアの向こう側へ連れて行かれてしまった。
ドアの向こう側は、本番放送が始まる前の明石市立天文科学館の展望台だった。
スタッフが忙しく動き回る中、僕とレオ吉くんは隅の方へ移動して、姉ちゃんから詳しい話しを聞かされる。
「レオ吉くん、おとといの報告のメール、覚えてる?」
「ええ、覚えてますよ。確か現代社会の授業の出来事を書きました。『人間と動物ノ王国の住人が支え合うような、より良い社会を築きたい』と、報告したきがします」
「あれ、私の受け取ったメールとちょっと違うわね。これを見て」
スマフォにはレオ吉くんから送られてきたメールがあり、そこの文には、『より良い会社を築きたい』と書いてあった。
「あっ、字が間違ってますね」
ボソッというレオ吉くん。それに対して姉ちゃんは少しあきれながら答える。
「間違いだったの? まあ、いいや、今週の改善政策は、レオ吉くんが会社の社長になる内容だから頑張ってね」
「えっ、ボクが社長ですか? 無理です!」
「大丈夫、書類手続きとか面倒な事は既にやっておいたから。これ、スピーチ内容の原稿だから練習しておいて」
「い、いや、でも、社長だなんて……」
「ほら、本番の放送まで残り15分だからね」
姉ちゃんに渡された原稿に目を通し、朗読の練習を始めるレオ吉くん。
やはり、この人が上司だと滅茶苦茶だ。
レオ吉くんが朗読の練習に入ると、姉ちゃんは僕に事情を聞いてきた。
そこで、レオ吉くんが単独でスピーチをすると、どもる事、僕がレオ吉くんの前に立っていて、会話をイベージするとだいぶマシになる事を告げた。
すると、僕はカメラの横に立つ様に言われた。
スタッフの人に案内され、カメラから少しだけ横の位置に立つ。
しばらくすると、番組の司会の福竹アナウンサーがやってきた。
芸能人はカメラの回っている時と、回っていない時では性格が豹変する人もいるらしい。
福竹アナウンサーの素の表情は、一体どういう性格なのだろうか?
僕がジーッと見つめていたら、向こう側に気づかれた、そして声をかけられる。
「学生さん? 今日は見学かな? 今日は特に何もないかもしれないけど、楽しんでいってね」
優しく声をかけられた、どうやらテレビで見たとおりの良い人らしい。
「はい、ありがとうございます。拝見させて頂きます」
僕がそう応えると、スタッフの人がこう告げた、
「その人は笹吹あやかさんの弟さんらしいですよ」
すると福竹アナウンサーは豹変する。
「あの笹吹あやかさんの弟さん? あの新進気鋭の会社の社長の弟さんですか?」
なんだろうこれは。僕に対してゴマをするのだろうか? そう思った瞬間、僕の予想は裏切られる。
「笹吹あやかさんの製品、もっと安くするように言ってもらえないでしょうか? もう3割、いやせめて2割ほど」
いつものテレビ通りの反応を示した。
普通の通販番組では、値切りのシーンはヤラセだが、この人は違う。番組の枠を超えて本気で値切ってきた。
「い、いえ、僕は姉の商売とは無関係なので、影響力はないです。いちおう後で伝えておきますが」
申し訳なさそうに言うと、
「そっか、そうだよね。ごめんね。ゆっくりと見学をして言ってね」
ちょっと残念そうに司会席のほうへと戻っていく。
しかし、まさか僕まで価格交渉を持ちかけられるとは思わなかった。
やがて3分前になると、宇宙人もやってきた。
そして本番の放送が始まる。




