雨と傘 1
ホームルームが終わり、帰ろうとして外を見る。すると雨が降っていた。
昼休みあたりから空が暗くなってきて、いつ降り出してもおかしくない状況だったので仕方がないだろう。
「ああ、降って来ちゃったか」
ミサキが残念そうに言う。
「そろそろ試験も近いし、今日は早く帰ろうぜ」
ヤン太がそう言うと、ジミ子その空気を読んで意見をまとめる。
「そうね、今日は集まらずに解散しましょう」
こうしてこの日は早々に帰宅する事になるのだが、ミサキが舌を出しながら言った。
「傘、わすれちゃった」
「今日の降水確率は80%だったぜ、持ってこなかったのかよ?」
キングがもっともな指摘をするが、ミサキにそんな理屈は通らない。
「朝、降ってなかったから平気だと思った」
おそらく天気予報を見ていないのだろう。
続いてミサキは、さも当然の様に言う。
「ほら、ツカサが持ってるから私は要らないのよ」
僕の家とミサキの家は、3軒しか離れていない。
確かに僕の傘に入って帰れば濡れる事はないだろう。
「僕が傘を持ってなかったらどうするの? ずぶ濡れだよ」
僕はミサキに忠告をする。すると、当たり前のように、こう答えた。
「だって持ってるんでしょ、傘」
「……うん、持ってる」
「だったら問題ないじゃない」
「まあ、そうかもしれないけど……」
「さっ、帰りましょ」
ミサキに促されて僕らは玄関へと向う。
下駄箱で靴に履き替え、傘をさして帰ろうとしたときだ。
「あれ? おかしいな傘がない」
いつも使っている傘が鞄の中になかった。
「うそでしょ傘をわすれたの? ちゃんと持ってこないとダメでしょう!」
ミサキから批難を受けた。そんな事を言うならミサキが持ってくれば良いのに。
そう思いながら、僕が鞄をゴソゴソ探っていたら、ミサキが僕の鞄を横から奪う。
「ちょっと見せて」
そう言いながら鞄をまさぐるが、やはり傘は出てこない。
しかし、変な物が出てきた。
「……これは何かしら?」
取り出したものは、直径3~4センチ、長さ30センチくらいの円柱状の棒で、大きめの懐中電灯のようなものだった。ぱっと見は金属のような物で出来ている。いくつかスイッチのような物も付いていた。
「重いわね」
ミサキはそう言って僕の方に謎の棒を渡してくる。
受け取ると、確かに重い。3~4キロぐらいはありそうだ。
鞄が重いと思っていたが、こんな物が入っていたのか……
謎の物体を前に、僕らが立ち尽くしているとジミ子が何かを見つけたようだ。
「底の部分にQRコードがあるみたい」
そう言われて、棒をひっくり返してみると、たしかにQRコードが印刷されていた。
「読み取ってみようぜ」
キングはそのQRコードを読み取ると、あるWebページに飛ばされた。
「何か情報はあった?」
ジミ子の質問に、キングはザッとWebページ確認をしながら返事をする。
「どうやらそれは傘のようだ……」
僕は自分の手に握っている棒を見つめる。
それはどう見ても傘には見えなかった。
「それが傘だって? 変形でもするのか?」
ヤン太が傘だと言われた物体をいじろうとした時だ。
「ちょっと待った、危険かもしれないから、マニュアルを読み終えるまで触らない方が良い」
キングが真剣な表情で、ヤン太の行動を制止する。
「えっ危険って、傘なんだろ?」
ヤン太がニヤけながら返事をするが、キングの険しい表情は変わらない。
「マニュアルに『レーザーシールド』とか、ヤバい文言があった」
「……そいつはヤバいな」
キングに言われて、ヤン太も事の深刻さが分かったようだ、ピタリと動きを止める。
……僕が握っている棒はそんなにヤバいものだったのか、汗がにじんでくる。
そしてキングがマニュアルを音読し始めた。
「ええと、『本製品はレーザーでシールドを作り出す傘です。バリヤーなどの一種だと思って貰っても構いません。光の膜を張り、雨などを防ぎます。防水性は十分です、雨粒や雹はもちろん、スペースデブリや鉛玉だって防げます』」
「『鉛玉』って銃弾の事よね?」
ジミ子が嫌な事を確認をする。
「ま、まあ、そうだと思う」
キングが額に汗を浮かべながら答える。
なんでこんな物騒なものが、僕の鞄に入っているのだろうか?
考えられる要因は一つしかない、姉ちゃんが入れたのだろう。ろくな事はしない……




