宇宙寺 3
僕らはプレアデス如来の拝観を済まし、順路通りに境内を進む。
すると賑やかな物販ゾーンへと誘導された。
『宇宙お守り』『プレアデス如来ストラップ』『プレアデス星団缶バッチ』怪しげな商品が並んでいる。
こんなお土産は買わないだろうと思っていたら、ヤン太が変なものを見つける。
『プレアデスブレード、光ります』
それは木刀にLEDを付けて光るようにしただけの物だった。
木刀など絶対に使う場面は無いが、ヤン太はこういった物に弱い。
「ちょっと買ってくる」
怪しげな色の木刀を持って販売店のレジへと消えていった。
この販売所はかなり混沌としている。こんどはミサキが興味を引かれる。
店頭に『肉まんやあんまんはもう古い、これからは宇宙まん』と書かれたのぼりを見つけて、引き寄せられる。
『宇宙まん』と称して売られているものは、怪しげだ。
形状は普通の肉まんなどと変わらないが、変な色が付いている。青と紫とピンクのマーブル模様だ。
しかも味について、説明が一切ない。まあ、ある事はあるのだが『次世代の宇宙味』といった、まったく想像が付かない説明だった。
普通はこんな物を買うわけがないが、
「宇宙まん一つ下さい」
ミサキは買ってしまう。
そして躊躇する事無く、あやしい色の宇宙まんにかぶりつく。
「どんな味がするの?」
僕が興味を持って質問すると、こんな答えが返ってきた。
「うーんと、ピザまんにカレー味を足したような感じかな、あっウインナーも入っているね、おいしいよ」
説明を元に味を想像してみると、意外とまともそうだ。あの外見さえ何とかしてもらえれば僕も食べてみたい。
怪しげなお土産コーナーを眺めていたら、僕は見慣れた顔を見つける。
そこにはこんな説明書きがあった。
『笹吹 あやかさん、ブロマイド有ります!』
なんと姉ちゃんのブロマイドが売っていた。確かに宇宙人に絡んでいると言えば絡んでいるが……
ちなみに写真は何パターンかあるようだ。
「ちょっと私、お姉さんのブロマイド買ってくるね」
そういってジミ子が販売店へと駆け込んだ。
ジミ子は姉ちゃんを少し尊敬しているようだったが、まさかブロマイドを欲しがるとは……
僕とキングはこの雰囲気に馴染めず、ちょっと孤立していた。
すると後ろから声をかけられた。
「たのしんでおられますか?」
それはテレビで見た、この寺の住職だった。
「ええ、まあ楽しんでます」
僕が愛想笑いを浮かべながら応える。
すると住職が、
「楽しむのが一番ですよ、さあ笑って笑って」
といってカメラを出してくる。
僕とキングは笑顔を作り、カメラはパシャリとこの様子を記録に留めた。
しばらくすると、ジミ子が帰ってきた。
手には、ニュース雑誌の丁IMEの表紙を飾った写真と同じものをもっている。
これは、著作権などは大丈夫なのだろうか……
住職は自分の販売しているグッズが買われて気分が良くなったようだ。
「笹吹あやかさんのブロマイドとは、お目が高い。この人は高い徳を積んだ人物ですぞ」
ありえない事を並べて褒めちぎった。
するとジミ子はその言葉を素直に受け止める。
「いやあ、そうですよね。偉大な人だと思います」
「そうです。人類に多大な貢献したんですよ讃えられるべき人物です」
自分が褒められている訳ではないのに、照れるジミ子。
そして余計な一言を僕に向けて言った。
「だって、やっぱりお姉さんは偉大なんだよ」
目を丸くして驚く住職。
「お姉さん……、この方は笹吹あやかさんの妹さんなのですか?」
「ええ、まあ、弟です」
苦笑いを浮かべながら答える僕。
「なるほど、なるほど、これは徳が高いですね」
すると住職から意味不明の褒められ方をされる。
続いてこんな事を聞かれた。
「先ほど撮った写真、使わせてもらって構わないですかね? 境内の中に参拝者の写真を飾るコーナーがありまして、そこに貼らせて頂けないでしょうか」
「まあ、いいですよ」
僕は返事をすると、住職は笑顔を浮かべこう言った。
「ありがとうございます。他にも色々と使わせて構わないですか? 収益はすべて慈善団体のウニセフの方へ寄付させて頂きますんで」
……なんだろう? 少し話しが怪しい方向へと動きだした。
いかがわしい商売の気がしてきたが、ミサキが、
「良いですよ、どんどん使って下さい」
了解の返事をしてしまった。
すると住職は更に笑顔になる。
「ありがとうございます。では、もう少しお写真を撮らせて下さい」
そういってパシャパシャと写真を撮ると。
「では、これにて失礼します」
僕らに礼をすると、そそくさと何処かに消えてしまった。
テレビでも見たが、やはりちょっと変わった住職だ。
慌ただしい住職が居なくなると、僕らは一通りお寺の中を散策してから帰路につく。
販売コーナーは趣味が良いとは言えないが、全体的に見ると意外と楽しめた。
「またそのうち来ようぜ」
ヤン太がそう言うと、「そうね」「たまにはいいかもね」と概ね賛成の意見が返ってきた。
後日の昼休み、姉ちゃんからLnieでメッセージが飛んできた。
『グッズの売り上げトップ、おめでとう』
僕はなんの事だが全く分からない。
『グッズって何? 知らないよ』
そう返事を書いたら、あるWebページのアドレスが貼られてきた。
そのページを開いてみると『笹吹あやかさんの妹さんと、ご学友』そんなタイトルが付けられて、僕とキングの写真を使ったグッズが売られている。
やられた、僕のグッズなど作ったところで売れるはずはないが、キングも映っているとなると話しが違ってくる。キングの写真を目当てにグッズが売れまくったのだろう。
スマフォでグッズのページを見せながら、僕はとりあえずキングに謝った。
「ごめん、変な事になってしまって……」
「まあ、ツカサが悪い訳じゃないから謝らなくていいよ。それに、収益がいくらあるか分からないけど、慈善団体に行くから良いんじゃないかな」
キングは意外と寛大だった。
「じゃあ、どうしよう、このままで良いのかな」
「放って置いて良いんじゃないかな」
こうして、この問題は見て見ぬ振りをする事になる。
さらに後日、変な噂が立つ。
『笹吹あやかの妹は凄い美人』という噂が。
……ちがう、それは僕じゃない。




