戦争前夜
えらいことになった。
宇宙人が地球を侵略するという事になってしまった。
これから人類はどうなってしまうのだろうか?
テレビの中では穏健派だった専門家が、これまでは少数派だった脅威論をうたっていた専門家から、猛烈な批難を受けている。
彼ら穏健派を責め立てたところで、現状は何も変わらないというのに。
スタジオ内の熱は次第に上がっていき、討論というより罵り合いの場と化した。
見るに堪えなくなったが、いつ緊急情報が来るのか分からない。ボリュームを絞り付けっぱなしにしておく。
これからどうすればいいんだ。
まず、居間に集まっている家族に話しかける。
「父さん、これからどうなるんだろう?」
「分からん。ただまあ、なんとかなるんじゃないかな」
「そんなのんきな……」
「そうよ、心配してもしょうがないじゃない。
一般人に手は出さないと言っていたし、大丈夫よ」
「母さんまで……
まあ、確かにそうは言っていたけど……」
危機感のなさに僕はちょっとあきれてしまう。
姉ちゃんはどう思っているのかと、隣を見る。
すると、テレビを見ながらブツブツと独り言をつぶやいていた。
「私を面接で落とした社会など、宇宙人に滅ぼされてしまえ!
やっちまえ、面接官のセクハラ野郎など灰燼と化してしまえ!!」
……ヤバい、姉ちゃんに関しては論外だ。会話が出来る状態ではない。
何かないかと考えるが、何も思い浮かばない。
ひとりでうろたえていると、ピンポンと玄関のチャイムが鳴った。
「いまごろ誰だろう?」
不思議に思いながら玄関を開けると、幼なじみのミサキが飛び込んできた。
「なんで電話に出てくれないの!」
僕の両手を手に取ると、じっと僕の顔を見つめる。
その表情はとても不安そうだ、こんな顔は今まで見たことがない。
「ご、ごめん気がつかなかった」
僕はとりあえず謝る。すると、スマフォが鳴った。
画面を見ると、Lnieのメッセージが届いている。どうやらミサキからのメッセージが遅れて今頃やってきたようだ。おそらく、大勢の人が一斉にメッセージを交わしているので、酷く遅延をしているのだろう。
ミサキは僕の手を離さず、僕に語りかける。
「大変なことになっちゃった、もしかしたら私たちは……」
「だ、大丈夫だと思うよ。一般人には危害を加えないって言ってたから」
そう言うと、姉ちゃんが横やりを入れてきた。
「弟ちゃん、そこは違うよ『俺が守ってやる』って言ってほしいもんだよ。ねミサキちゃん」
「そ、そうですねお姉さん」
ミサキはじっと僕を見つめ直した。両手を握っている手は、先ほどより力が入っている。
なんだこれは、この雰囲気は。もしかしてさっきのセリフを言って欲しいのか?
いや、そんなハズは……
躊躇していたら、姉ちゃんが後ろから背中をバンと叩いてきた。
何も考えられない僕は、思わず先ほどのセリフを言ってしまった。
「あ、ええと、僕が守ってあげるから、安心して」
「うん、約束だよ。必ず守ってね」
ミサキは安心したようで、笑顔に戻った。
は、恥ずかしい。なんであんなセリフを言わせるんだ、姉ちゃんは何を考えているんだ。
「じゃあ家に戻るね。また」
ミサキは何かに満足したらしく、笑顔のままで自宅に引き上げる。
「またね」
僕は手を振ってそれを送り出した。本当に何がしたかったかよく分からない。
ミサキが居なくなると、姉ちゃんが絡んでくる。
「『僕が守ってあげる。安心して!!』ですって~」
「う、うるさいなぁ」
「いやぁ~青春だねぇ。ついでに姉ちゃんも守って欲しいなぁ~」
ああ、もうこの姉は。
「自分の部屋に行ってるよ。何かあったら教えて」
「姉ちゃんも守ってよ~」
姉の言葉を無視して、、僕は逃げるように自室に移動した。
自室に戻るとスマートフォンを確認する。
すると友人からLnieのメッセージがいくつか届いていた。
さっそくチェックをする。
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ミサキ「これから私たち、どうなるのかな?」
ヤン太「なんだかやべー事になりそうだな」
ジミ子「ダネ」
キング「そんなことよりNetwork回線がパンク気味だ。なんだこれは」
ヤン太「少しはニュースを見ろよぉ。宇宙人が攻撃してくるってよ」
キング「マジか。なるほど、Gameの反応の遅延が酷い。これが宇宙人の攻撃か?」
ジミ子「違うダロ」
ヤン太「そんな事より、新しく政府の発表がきたぜ。国家非常事態宣言だと」
ジミ子「今日から8日間、『出来る限り外出を控えろ』だって」
キング「なるほど、もう少し休日が増えそうだ、Game三昧だぜ」
ヤン太「こいつは……」
ジミ子「救いようが無いな……」
ミサキ「聞いてみんな。ツカサが宇宙人から守ってくれるから安心して」
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最後の言葉に心を折られそうになる。。
僕はなんとメッセージを入力すれば良いんだろう……
何を入力すれたよいのかと悩んでいたら、次のメッセージが飛んできた。
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ミサキ「ツカサのお姉さんからメッセージが来た、ちょっと待ってね」
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しばらく様子を見守ると、次にこんなメッセージがやってきた。。
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ミサキ「動画が届いたから張るね」
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えっ、なんの動画だ。もしかしたらさっきのヤツか。
うそだろ、姉ちゃんは、あの様子を録画してやがったのか!
まて、待つんだ、ミサキ。
僕は急いでメッセージを打ちこむ。間に合ってくれ!
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ツカサ「止めて、動画張らないで」
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この時、僕は気かなかった。
ネットのシステム全体が大きく遅延している事を。
入力したメッセージの表示には何分もかかるという事を。
僕が入力したメッセージが届く頃には、ミサキが動画を張り終えるだけの時間が十分に有るということを……
しばらくすると、あのシーンの動画が流れ始めた。
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『僕が守ってあげるから、安心して』
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……滅べ。この世界など、いっそ滅んでしまえ。
※イラストはseima氏に描いていただきました。




