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ミーちゃんさん 2

 ミサキが一時的に預かっている猫のミーちゃんと会話ができるようになった。



 ジミ子はミーちゃんに質問をする。


「猫って飼い主の事をどう考えているの?」


「餌をくれるな、あと安全で心地よい住処(すみか)を与えてくれる存在だ」


「それだけ?」


無論(むろん)、感謝はしておる。吾輩(わがはい)もできるだけ(あるじ)の為に行動をしているぞ」


「猫って自由に振る舞っているように見えるけど」


「時には自由気ままに振る舞うが、主が本当に我らを必要としている時は話しが違う。我らは主に寄り添って、心労を減らさなければならない存在だ」


 なるほど、猫はこちらを気に掛けている様に見える時がある。

 どうやら人間が元気かどうかを、心配していたようだ。


「たしかに、必要な時には向こうから来てくれる気がする」


 ジミ子がそういうと、ミーちゃんは毛繕いをしながら、こう答えた。


「まあ、餌が欲しいなどの下心は無論(むろん)ある。しかし餌だけが目的ではないのだよ。

 例えれば『人はパンのみにて生くる者に(あら)ず』、精神的なよりどころを求める時も猫にだってあるぞ」


「難しい言葉を知っているのね……」



ジミ子の質問が終わると、キングが何かを思いついたらしく質問をする。


「犬の事はどう思ってるんだ?」


「うーむ、面倒な動物だな。主人にこびへつらって、ご機嫌を伺う。

 たまにはそんな時があってもいいだろうが、ヤツらは四六時中それだ。

 自分に嫌気がでないのか不思議だな」


「やはり、あまり良い印象を持っていないのか……」


「まあ、全部を否定している訳ではないぞ。

 相手が礼節をわきまえていて、控えめな性格ならば、喜んで友として受け入れよう。ただ、あまりにも無礼なヤツが多すぎる」


 確かにそう言われると、犬は落ち着きがないかもしれない。

 ミーちゃんはさらに言葉を重ねる。


「何も考えず、主に従っているだけの生き方の方が、案外楽なのかもしれんしな。そういう生き方も悪くないかもしれない。我ら猫には真似できない生き方だがな」


「なるほどね、わかったぜ」



 キングが納得すると、今度はヤン太が質問をした。


「同じ猫でも野良猫の事はどう思ってるんだ? 飼い猫は自由に(あこが)れるのか?」


「吾輩はもう歳で無理だが、若い時分には憧れた事もある。

 色々と考えた時期もあったが、自由より生活の安定の方が優先される」


「意外と保守的なんだな、もっと猫は野性的で自由な存在だと思ったぜ」


「無論、そういうヤツらもいることにはいるが、人間に例えるなら、安定した職を捨て、ホームレスになるようなものだ。そんなヤツらはごくごく少数派だろう?」


「確かにそう言われりゃそうだな。やっぱ日々のうまい飯にはかなわないか……」


「そういう事だ」



 質問が一通り出た所で、ミサキが愚痴をいいだした。


「なんで私に素っ気ないの? 世話を焼いてあげているじゃない」


「世話をしてもらっているというほど、世話になっていない」


 たしかに、ミーちゃんはミサキの家で、ここ数日しか預かっていないはずだ。

 しかしミサキはめげない、口をとがらせて反論をする。


「いつもご飯をあげているでしょ」


「缶詰を開けているだけではないか、それも親が購入したもだろう。

 (おのれ)の小遣いから買ったものなら、多少は感謝するが」


「そ、それを言われると……」


 正論を言われてミサキはシュンと塞ぎ込んだ。

 それを見たミーちゃんは何かを感じ取ったらしい。


 僕の膝の上から降りて、ミサキの方へと向う。


 そしてミサキの前に来ると、こう言った、


「撫でる事を許可してやろう、優しくだぞ。お前は乱暴過ぎるからな」


 それを聞いたミサキは笑顔を取り戻し、必要以上にそっと手を動かしはじめた。


 どうやら互いに理解が深まったようだ。



 ミサキが一通り撫で終わると、ミーちゃんはゲージの中へと帰っていく。


「そろそろ眠たくなってきた。これから先はこの娘の事を頼むぞ、小僧」


「小僧って僕の事ですよね?」


 僕は猫相手に敬語を使って返事をしてしまった。


「そうだ、よろしく頼んだ。この娘はお前の事を()いて……」


「わあぁ、わあぁあああああ」


 ミサキが突然大声を上げる。


「なんだ、突然大声をあげて、いま大事な事を伝えている最中ではないか」


「あ、あああ、ああぁぁー、良いのそれは伝えなくて、ね」


「小僧、大事な事だからちゃんと伝えておく、この娘は……」


 そこまで言ったときだった、ミサキが僕の耳から強引にイヤホンを引っこ抜いた。

 そして僕らは家から追い出された。


「今日はありがとう、じゃあまた明日ね」


 バタンと玄関のドアを閉められて、ミサキの家の前で立ち尽くす僕ら。

 この日はここで解散となった。


 今日は猫の考えている事が分かった貴重な一日だった。



 しかし、あの猫の言いかけた言葉を、しらふのミサキからいつ聞けるのだろうか。


挿絵(By みてみん)


※イラストはseimaセイマ氏に描いていただきました。

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