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ヒーローと現実 1

 第12回目の改善政策が発表された日の放課後、友人達は僕の家に集まった。

 みんなでミサキが借りてきた映画のDVDを見ようという話になったからだ。


 リビングの大型テレビの前に僕らは座ると、ミサキがDVDを取り出す。

 それは『宇宙サメ VS アイロン・ペシフィック』という映画だ。


 パッケージには、アメリカで有名なヒーロー、アイロンマンと、巨大ロボット映画のペシフィックリムヌを掛け合わせたようなロボットが描かれている。

 おそらくそれらの作品の続編と間違う事を期待した作品だろう。間違って借りる人は少ないと思うが、現にミサキが間違ってしまったようだ……



 DVDをセットし、再生ボタンを押すと映像が流れ始める。

 その映画の内容とは…… 巨大ロボットのアイロン・ペシフィックが、宇宙から飛来して来た宇宙サメの軍勢を、ただただミンチにするというものだった。


 退屈な映画を一通り見終わり、映画のエンドロールが始まると、さっそくヤン太が批評を下す。


「B級映画だったな」


 ジミ子はもっと酷評だ。


「これはC級以下じゃない?」


「ストーリーも酷かったな。ほとんど無かったし……」


 ヤン太がさらに愚痴を言うと、キングは違う悪口を言う。


「全体的にcheap(チープ)だったな。特に巨大ロボットのアイロン・ペシフィックの出来が酷かったぜ」


 僕も気になった点を上げる。


「僕はサメのCGがダメだったな」


「あれもcheap(チープ)だったよな。Game(ゲーム)のグラフィックの方がマシだぜ」


 するとミサキから意外な意見が上がった。


「あのサメはカワイイじゃん」


「そうね。以外とかわいかったわね。どちらかというとキモカワだけど」


 なんと、ジミ子も『かわいい』とか言い出した。女子の価値観はよく分からない。



 ヤン太が女子の考えについていけず、話題を変える。


「そういやさ、第12回目の改善政策の内容はどうだった?」


「赤ん坊の強化…… まあ、虐待からの保護だよね」


 僕が答えると、ミサキが横から口を挟んできた。


「児童虐待とか減って良くなるんじゃないかな? あれならどんな虐待からでも守ってくれそうだし」


「まあ、宇宙人の技術のアーマーだから、そうとう丈夫だろうな……」


 ヤン太がボソッと言う。たしかライフル弾で撃たれても平気だとか言っていた。

 もしかしたらバツーカ砲か戦車砲あたりで撃てばダメージを与えられるかもしれないが、赤ん坊をそんな物で撃つ状況がまったく考えられない。


 そんな話していたら映画のエンドロールが終わり、僕はDVDの排出ボタンを押す。


「まあ、良い事なんじゃないかな。確実に赤ん坊とか児童がまもられるし」


 DVDをミサキに渡すと、テレビを普通の放送に戻した。



 バラエティ番組をやっている時間帯だったのだが、臨時ニュースが報道されていた。


「ただいま渋谷区のマンションで児童虐待が行なわれたようです。ご覧下さい、あちらが現場となっています」


 カメラは、かなり遠くのマンションの一室を写し出す。

 もちろん、外からでは何が起こっているのか分からない。

 報道なら、もう少し視聴者を配慮して、ちゃんと映像を映してほしい。


 そう思っていると、鉄製だと思われるマンションの玄関のドアがベコンと盛り上がる。

 そしてさけるチーズのように鉄製のドアを押し裂いて、アイロンマンのアーマーをつけた赤ん坊がハイハイで出てきた。


「……なにこれ?」


 思わずジミ子がつぶやく。


 テレビの中のハイハイは止まらない。

 周りに警官はいるのだが赤ん坊には近寄れない。なにせ鉄製の扉があのざまだ、下手に触れようとすると手足くらいなら簡単に折られそうだ。


 そして赤ん坊が階段にさしかかろうとした時だ、このままでは危険だと判断したのか、宇宙人のロボットが何体か止めに入った。


「まあ、これで安心か」


 ヤン太がそう言った次の瞬間、宇宙人のロボットが紙切れみたいに吹っ飛ばされた。

 たしかメジャーリーガーのバットのフルスイングをくらっても微動だにしなかったロボットが、いとも簡単に吹き飛んでいる。


「どうなってるんだあのBaby(ベイビー)は……」


 赤ん坊はロボットを振り払うと、階段へと進む、そのまま進めば良かったのだが、廊下と階段の手すりとの隙間に頭をくっつけて、その間を通り抜けようとしていた。

 普段なら、鋼鉄製の柵に邪魔されて進めるはずはないのだが、今は違う。鋼鉄製の柵がストローのように簡単に折れ曲がり、その隙間から赤ん坊が落ちそうになる。


「あぶない!」


 僕は思わず声を上げた。次の瞬間、赤ん坊は空を飛んでいた。空中をハイハイで進んでいく。

 その姿は、いたって普通のハイハイなのだがスピードが尋常(じんじょう)ではない。自動車並の速度は出ていそうだ。


 あっという間に見えなくなり、すこし遅れてロボットが、飛び去った赤ん坊を追っかけていく。


「……えっと、虐待されている赤ちゃんを強化したのかな?」


 ミサキが状況を整理しながら結論を導き出した。

 あのアーマーは防御面だけの強化ではないらしい……



 呆然(ぼうぜん)としている僕たちの前に、また新たなニュースが入ってきた。アメリカからの中継だ。


 トウモロコシ畑が広がる、のどかな田舎の村落に背広を着込んだレポーターが立っている。

 レポーターの説明だと、ライフル弾も弾くのだから、爆弾とかでも大丈夫だろうと、実際に試した馬鹿な親がいたらしい。


 赤ん坊は宇宙人のアーマーに保護されて無事らしいが、それは酷いありさまになっていた。

 人間の素手の殴打などの虐待に対して展開されるアーマーがあのレベルだった。爆弾に対して展開される防御のレベルは…… 映画の中に出てくるような巨大ロボットがそこには居た。


 ただ、巨大ロボといってもそこまではでかくない、2階建ての家ほどだ。

 まあ、十分にでかいかもしれないが……



 赤ん坊の乗ったロボは自由に振る舞う。

 そこら辺に止まっているをトラクターをポーンと放り投げたり、自動車をミニカー代わりにしてみたり。


 アメリカの軍隊が出てきてはいるが、相手はいちおう児童なので戦車で砲撃する訳にもいかず、手が出せずにただ見守るだけだった。


挿絵(By みてみん)


 宇宙人のアーマーや巨大ロボットの性能は未知数だが、映画を見終わった僕らは、一つだけ確信できる事があった。


「あのロボット、アイロン・ペシフィックの格好、そのまんまだよな」


 ヤン太が言うと、僕は返事を返す。


「そうだね、全く同じだね」


 宇宙人はデザインを丸パクリしていた。

 しかし、どうせだったらもっと格好いいロボットから流用すればよかったのに……



※イラストはseimaセイマ氏に描いていただきました。

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