隠れた才能 3
「私にはオセ口みたいなゲームの才能はないのかしら」
ミサキが嘆く。
「無いんじゃないの」
ジミ子が容赦なく言い切った。
「ちゃんと勉強を続ければ、上達する可能性もZEROではないぜ」
キングはそう言うと、スマフォで検索をして、その結果をみせる。
「オセ口の戦術や戦略を解説してるサイトはかなりあるぜ、勉強会みたいなイベントにも参加すれば上達するとおもうぜ」
ミサキは試しに検索結果の一番上のサイトをチラッと見て、こういった。
「やっぱ私にオセロの才能ないわ、他の才能をさがしましょう」
僕もそう思う、これはミサキには向いてないだろう。
「この際、他の人の才能も考えてみましょうか」
ジミ子が面白い提案をしてきた。話題はその方向へと移っていった。
「やっぱキングはゲームの才能だな」
誰もが最初に思いつく事をヤン太が言った。
「まあ、たしかに俺の才能はそのくらいだろうな」
首を縦に振りながら返事をするキング、ヤン太がさらに詳しい話しをする。
「去年は世界大会に出たんだろ?」
「ああ、でも、準々決勝で負けたぜ」
「いや、それでも十分すごいぜ、世界でベスト8だろ」
「そうか、そう言ってくれると嬉しいぜ。俺は他にあまり特徴ないし、誇れるのはゲームくらいだぜ」
みんなは口には出さなかったがキングには最近、著しい特徴が表れた。その外見は充分に誇って良いレベルである。
もし、あの容姿の変化に気がつかないのであれば、キングはもっと鏡を見るべきだ。
少し時間をおいても、キングの見た目を指摘するものは表れなかった。
次に僕はミサキの話題を出す。
「ミサキはスポーツ全般が得意だよね」
「そうね、体を動かすのは得意かも」
何か一つの競技に絞って集中して練習すれば、かなり上位に食い込めそうだが、ミサキはどうも飽きっぽく長く続かない。
僕はその事を、ちょっとだけ触れてみる。
「何か一つの事に打ち込んだら上達するんじゃない?、けっこう良いところまで行くんじゃないの?」
するとミサキはこんな事を言う。
「いやぁ、ちょっとね。プロになってお金を稼げるのなら別だけど……」
そう言って苦い顔をする。
まあ、たしかにプロで食べていくレベルになるのはキツい。
子供の頃から、ただひたすら一種目の練習を重ねても、プロで食べていけるのは一握りだけだ。今から打ち込んだ所でもう手遅れだろう。
……だがここで疑問がよぎる。将棋やチェスは今からでも行けると思ったのだろうか?
しかもあの分野は、ミサキの一番不得意な分野ではないだろうか……
僕が渋い顔をしていると、キングが口を開いた。
「ジミ子は意外と商才があるんじゃないか?」
「うーん、どうなのかな? あまり自覚はないけれど」
ジミ子がちょっと謙遜する。
「中学の頃の文化祭で、学校で売り上げ一位を記録したじゃないか」
キングが懐かしい話しを持ち出してきた。
僕も当時を思い出しながら、話しをする。
「あれはたしかお好み焼き屋だったっけ?」
そう言うと、ヤン太が補足を加えた。
「ああ、具がほとんど無い、生地のみのお好み焼きだったぜ。利益を上げるためにな」
「よく覚えているわね。利益を追求すると自然とああなったのよ。でもあれは中学生だから許されたのよ」
「うん、まあそうだね」
僕は相づちを打つが、内心では中学生でも、あれはやりすぎだった思う。具だけではなく、上にのせる鰹節や青のりでさえケチっていた。あれを買った人は、よく暴動を起こさなかったと思う。
ミサキがジミ子に関して最近の話しを持ち出した。
「宇宙旅行の時とか、発想がすごかったじゃない」
たしかに、あれで姉ちゃんはかなり稼いだ。具体的な数字を僕が言う、
「あの事業、年商1兆2000億くらいは行きそうだって、国を動かせるような提案だったよ」
「……そうかな、えへへ」
僕が褒めると、ジミ子が珍しく照れ笑いをする。
ジミ子は褒め慣れていないのか、話題をそらしてヤン太の話しにすり替えた。
「ヤン太は、喧嘩が強いんでしょ?」
「まあな、だいたい負けねーぜ。勝率は9割を超えてるんじゃねーかな?」
「そんなに!」
目を見開き、本気で驚くジミ子。
「まあ、最初の頃は負ける時も多かったが、ここ1~2年は負け知らずだぜ」
僕も強いとは知っていたが、まさかそこまでだったとは。
将来はボクシングの選手にでもなれば良いんじゃないだろうか。
「ヤン太はプロボクサーとかになる気は無いの?」
「えっ考えてもみなかったな……」
「たしか近くにボクシングジムがあったぜ」
キングがスマフォを見せながら言った。
「まあ、気が向いたら行ってみるよ」
ヤン太話しをはぐらかしたが、まんざらでもない雰囲気だ。
みんなの長所や才能の話しが終わったが、僕の話がまだだった。
はっきりいって僕は没個性な人間だ、特に特徴は無い気がするのだが、周りからはどのように見られているのか、どのような才能があると見られているのか、やはり気になる。
待ちきれない僕は、ちょっとみんなに話しを振ってみる。
「僕の才能って何かありそうかな?」
するとミサキが、さも当然といった顔で返事をする。
「あるじゃない、とっておきの大きな才能が」
それにジミ子も同調した。
「そうよね、ありえないくらいビックな才能だわ」
「えっ、なに? 全然わからないんだけど」
困惑している僕にミサキがドヤ顔で聞いてくる。
「知りたいの?」
「うん、知りたいよ」
「それはね、胸がとても大きいじゃない!」
「……えっ、なにそれ。それは才能じゃないでしょ」
全否定する僕をジミ子が真面目な顔をしてこう言った、
「いえ、立派な才能よ。ツカサの胸は誰よりも大きいわ」
……何を言っているんだ、この二人は。
たしかにこの二人は胸のサイズに異様に執着していたけど……
困った僕はヤン太とキングに助けを求めた。
「ちょっと、二人とも何とか言ってよ」
すると意外なセリフがヤン太とキングから返ってきた。
「まあ、ひとつの才能だろ」
「really俺もそう思うぜ」
「そうなんだ、これは才能と呼んでいいんだ……」
僕が不満そうな顔を浮かべると、ジミ子が怨めしい顔で睨んできた。
「あっ、そうだね、言われてみれば立派な才能だよ、ホント」
僕はあわてて取り繕う。
しかし、もっと他に胸を張って誇れるような才能が欲しい……




