隠れた才能 1
「私、将棋の隠れた才能があると思うの」
ハンバーガーチェーンのメェクドナルドゥの席に着くなり、ミサキが突然、告白をした。
この告白の理由の原因は想像がつく、この所、最年少記録を出しているプロ棋士のニュースを見て感化されたのだろう。
思考を巡らせるゲームはミサキには向かないと思うが、ミサキは勘が鋭い。うまくこの勘を働かせる事ができるのなら、凄い棋士になる可能性もあるかもしれない。
ただ単に、思いついただけの可能性も高いが、いちおう将棋が得意だと言い始めた根拠を僕は確認をする。
「ねえ、ミサキは将棋の経験はあるの?」
「まったく無いわ、だからこの場所で、ここから伝説がはじまるのよ」
ミサキは鞄をゴソゴソとあさり、安っぽい携帯用の将棋の盤を取り出してきた。
「さあ、打ちましょう」
「ええと、ちょっとまって。将棋はたしか僕とヤン太とキングは出来たはずだよね」
キングがあきれたようすで答える。
「できるけど、たぶん小学校以来やってないぜ」
「俺はもう忘れた」
ヤン太はもう出来ないようだ。ジミ子はどうなんだろうか、ちょっと聞いてみる。
「ジミ子はどう? できる?」
「いや、私は知らない。チェスならルールくらいは知っているけど」
「なるほど、じゃあ、出来るのは僕とキングだけか、たしかキングが強かった気がしたけど……」
「じゃあ、まずは弱いツカサからお願い」
ミサキは僕を指名してきた。
「ああ、うん分かったよ。じゃあやってみようか」
そう言って僕は駒を並べ出す。
将棋の駒を並べ始めたが、どうもミサキの様子がおかしい。
全く動く気配が無い。ゲームが始まる前だと言うのに、もう集中しているのだろうか?
しばらくしてミサキは口を開く。
「駒の並べ方を教えて」
「駒の並べ方も知らないの?」
「うん、だから言ったじゃない『ここから始まる』って」
「しょうがないな、俺がならべてやるぜ」
キングが隣に座り、ミサキの駒を並べ始めた。
そしてこんな質問を投げかける。
「駒の種類と動かし方は知っているよな?」
ミサキは、さも当然に答える。
「分からないわ、教えてちょうだい」
……まあ、たしかに実際に試してみないと才能があるか無いか分からないが、せめて駒の動かし方くらいは覚えてから挑んでほしい。
「Oh…… じゃあ、動かし方を教えるよ将棋の駒は8種類あって、まず一番簡単な『歩』からだな」
そういってキングは丁寧に動き方を教える。そしてホットコーヒーがすっかり冷め切ってしまった頃、ようやくミサキは8種類の動き方を覚えた。
「ふう、これで私も将棋マスターよ!」
ミサキは得意気に言うが、まだ駒を一回も動かしたことはない。
だが、じつはまだ覚える事がある。キングの説明は続く。
「じゃあ次は『成り』の動き方を教えるぜ」
驚くミサキ。
「ちょっとまって、『成り』って何?」
「ええと、敵陣営、3マス以内に突入すると動き方を変えてもいいんだ」
「どのくらい動きがかわるの?」
「『金』と『王』意外は動きが変われるぜ、つまりあと6種類覚えれば将棋がStartできる」
「……もう無理、覚えられない。私は将棋の才能が無いわ」
「……ああ、そうか」
あきらめてしまったミサキに、キングがあきれた様子で返事を返す。
こうしてミサキの将棋人生は一手も指さずに終わった。
こんな状況なら普通はめげるが、ミサキは全くこたえてないようだ。
将棋の盤面をひっくり返しながらこう言った。
「これ、裏はチェスができるようになっているのよね。私、チェスの才能があると思うの」
……僕が念のため確認をする。
「チェスをやったことは?」
「ないわ」
「チェスのルールや駒の動かし方は?」
「知らないわ」
「じゃあ、私がルールを教えるよ」
今度はジミ子の説明が始まった。




