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そして彼は善人を辞める  作者: 紫兎
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そして、善人は善人であることを辞めると誓う

この作品は同作者の「それでも彼は善人を辞めない」のアナザーストーリーです。一部同じ設定等が使われています。それでも良い方は見ていって下さるとありがたいです。


「はぁ、やっと薬草採集が終わった」

 俺、ゼン・ミルゲンは親に昔から善いことをする人間になれと育てられそれに恥じない様に生きてきた。………つもりである。


 まあ、それで俺が報われたかと言うとそうでも無いんだが。


 例えば、子供の頃は大人の手伝いを積極的にやっていた。誉められたかった訳じゃ無いがそれでも感謝してくれると思っていたが、ただひたすらに仕事を押し付けられた。


 家では俺、父母妹の四人家族なんだが、家事は全部やっていた。最初は母一人に任せるのは大変だから手伝おうと思ってだ。家族も感謝してくれていたが、15歳になる頃にはやるのが当たり前。出来てなかったら文句を言われる様になった。


 冒険者ギルドでは頼まれたクエストは出来る限りやった。自分に余り得のないクエストもやっていた。なのに、俺より後に入ったやつの方がランクが上がるしになる。文句を言えば嫌な顔をされ俺が文句を言われる。そして、マトモなクエストを減らされるという地獄の様なループに陥っていた。


「あ~本当に嫌になるね~。もっとマトモなクエストを受けさせて貰えないかな」

 そんな事を呟きながら俺は今日もクエストを終わらせて家への帰路についていた。


(家帰ったら今度は家事か?疲れてるのにな。たまには誰かやってくれてないかな?)

 そんな事を考えていたら家へついた。

「ただいま」


「あ?何だ兄貴帰ってきたの?」

 家に入るなり俺は妹にそう言われた。

(何だよその帰ってこなければ良かった、みたいな言い方は)

 まあ、思うだけで口には出せないんですけどね?


「あ、ああ。ちょっと残業があって遅くな「どうでも良いけど、これとこれ洗っといてね?しっかり汚れ落としといてよ」………おう。」

 これだもんなぁ。やる気も起きないぜ。それでもやるけどな。


「あら、帰ってきたのゼン。そうそう、作りおきしてくれたのは良いんだけど今日のご飯お母さんには濃すぎるわ。もうちょっと薄くしてくれないと倒れるわよ?」

「ごめん。今度は気を付けるよ母さん。」

「ふん!全く何回言えば分かるのかしら」


「おお、善人帰ってきたか!」

「ただいま、父さん」

「嫌~すまん善人!ギャンブルで金すったから新しく金をくれ」

「な!又かよ、今月で何回目だよ」

「あぁ!?育ててやった恩を忘れたのかこの馬鹿息子!!」

(息子に月に何度も金をせびる親への恩なんざ覚えとける訳ないだろが!)


「………悪かったよ父さん。いくら出せば良いんだ?」

「おお!出してくれるか!そうだな~銀貨5枚でどうだ?」

(どうだ?じゃねえよ。今月で3回目だぞ!?こんなんじゃ貯金すら出来ないじゃんか!!)


「………はい。銀貨5枚。」

「助かるぜ!ありがとよ!」


 こんなのばっかりだ。家にいてもギルドにいても何処にも俺に優しくしてくれる人なんていなかった。


(さっさと寝よう)

 自分の分の飯を食べ、洗い物と洗濯を終わらせて、そのまま直ぐに俺は倒れる様に眠った。


 俺が生きているこの世界はラルヴァだ。この世界には魔物が存在する。空飛ぶ竜や地を這う大蛇。火を吐く獅子や冷気を放つ魚なんてのもいる。

 そんな世界で人が生きていられるのには理由がある。それはスキルだ。一部の才能のあるやつにはスキルがある。それは先天的(生まれつき)だったり後天的(後から身についたり)と様々だ。

 勿論持ってない人もいる。そして俺は………持っていない。

 一応父さんは【猟師Ⅰ】(過去に膝に矢を受けて止めている。)母さんは【料理Ⅰ】(自分に合わないと言って店を止めている)妹は【火魔法Ⅰ】(頑張れば冒険者としてそれなりにやっていける。やる気は無いみたいだが。)を持っている。


 両親がスキルを持っていても俺みたいに持たないやつは生まれたりするらしい。スキルの無い俺だが冒険者に憧れていて頑張って最底辺の《Fランク冒険者》のなることが出来た。でもそこまでだ。スキルの無い俺ではそれより上には上がれない。


 ランクは全部で7つ。上から順にS,A,B,C,D,E,Fだ。俺が憧れたのは勿論Sランク。

 まぁ、未だに一つも上に行けない底辺冒険者だがな。


(………朝か)

 目を覚ました俺は家族の分の飯を用意して、直ぐにギルドへ行くことにした。


「何か良いクエストはあるかい?」

「………これなら」

 受付嬢にもこの対応をされるレベル。俺、心底嫌われてんなぁ。


『クエスト名:薬草採集

  依頼主:ギルド

  条件:薬草を集める。10集める毎に報酬up』


 いつものである。ま、俺でも出来る事なんてこれ位なんだけどな………


「分かった。受けさせて貰う」

「………」

(遂には無言か………)




「ふ~。これで100位は集まったかな?」

 薬草取りばかりしていたので最近では何処に薬草があるかが何となく分かる様になってしまった。

(スキルじゃ無いが少しだけ特別な感じがする。嬉しいが、やはり少し悲しいな)

 素直には喜べなかった。薬草を集めるだけでもスキルで差がでる。【鑑定Ⅰ】があればもっと楽に薬草を手に入れられるからだ。最高レベルの【鑑定Ⅴ】にもなれば一目見るだけでそのものの特徴や効果、状態なんかも分かるのだ。


「疲れたし、そろそろ帰ろう」

 そう思った矢先

「だ、誰か助けて!」

 そんな声がした。俺は急いでそちらに向かった。

「大丈夫か!!」

 開けた場所には女性冒険者とオークがいた。

(な!?オークだと!スキルも持たない俺じゃ絶対に勝てない)

 当たり前だろう。オークの大きさは成人男性と同じ位あり、体は剛毛で覆われ、かなりの筋肉がついている。スキルも持たない人が挑む魔物では無い。

「嫌、誰か、誰かー!」

「!」

 その声を聞いて俺は駆け出した。


「このイノシシ野郎がぁ!!」

 腰に下げていたナイフを持って飛びかかる。オークの目に運良く刺さった。

「ヴモォーーー!」

 俺は女性冒険者に近寄り声をかける。

「大丈夫か!?助けに来た。動けるか?」

「え、えぇ」

 震えているが何とか動けそうだ。

「ヴモァ!!」

「くっ!!」

 オークは目の痛みに耐えながらこっちを向いた。かなり怒っている。俺は彼女を背に庇いながら声をかける。

「大丈夫か?立てるなら早く立ってくれ!急いで逃げないとっ!?」



 ドンッ


 その音と共に俺は()()()()()()()()()()()()()()


「え?」

「あ、あたしを助ける為の囮になって!!」

 そう言って女は走り去って行った。俺は突き飛ばされた衝撃でナイフが何処へ行ってしまった。


 ザリッ

「あ、」

 上を見上げれば怒り狂ったオークが足を降り下ろそうとしていた。それを眺めながら俺はこう思った?


(良いことすりゃあ、自分も幸せになれると思って今まで色んな事を頑張って来たけど。良いことなんて一つも無かったなぁ。でも、最後まで俺は善いことをして生きてこられたんだ。だから満足だ。あぁ、満足だ)


















(………()()()()()()()()()()()()()()こんな人生糞くらえ!何回善いことをした所で幸せにはなれねぇ!何度善い人を目指した所で感謝されねぇ!善人を目指しても良いことなんてありゃしねぇ!もしも、もしもこれで生きいたんならもう2度と善人なんて目指すかよ!!ド畜生がぁ!!)


 そんな事を考え、そして、俺は、無残にも、無情にも、ただただ無力なまま、死んだ。
















「良かった。ギリギリ間に合ったわね」


 

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