突然婚約破棄の当事者になりまして。
物語を書くって難しいですね。
婚約破棄を題材にした話が大好きすぎて、自分でも書いてみました。
初投稿です。拙い文章ですみません。
作者豆腐メンタルです。生暖かい目で見てやってください。矛盾はあるでしょうが、ご都合主義。って事で許してください!短いのでさらっと読めます。
「君との婚約は無かった事にして欲しい。」
学園の昼休み、中庭の木陰で一人休んでいたミリアは、自身の婚約者であるラクサスから突然爆弾を落とされた。
一瞬何を言われたのかわからず、淑女らしくもなくポカンと口を開けてしまう。
「馬鹿じゃないの?」
口をついて出た自分の言葉に、しまった!と思いながらも、本心であったため、なんとも弁解のしようもない。
どうしましょう。と、考えていると、対面で同じように呆気にとられた顔で佇むラクサスが、さも驚いたように「え?」と、声をあげた。
御曹司のお坊っちゃま育ちの彼はそんな暴言を言われたことがないのかもしれない。
ミリアは淑女教育の賜物か、手元に持っていた扇を広げ、表情が見えないように目の下まで隠した。
表情を隠して不思議と気持ちが幾分か和らいだところで、この婚約が家と家の繋がりを求め、互いの親が話し合い、陛下に了承まで取り付けたものであることを思い出し、先ほど自分も呆けていたことなど無かったかのように言葉を紡いだ。
「だってそうでしょう?この婚約は一体誰が何のために結ばれたものだと思っているのかしら?」
「たしかにそうかもしれないが、君だって目に入れるのも嫌な私と将来は育めないだろう?」
目に入れるのも嫌とは…?はたして目の前にいる方は本当に幼なじみのラクサス様だったかしら。幼い頃に婚約を交わし早14年がたつが、一体これまでの私の何を見てそう思ったのか。
ミリアは頭を抱えていた。もちろん。表面上は穏やかな顔を取り繕っているが。である。
実は私は嫌われていて、それを誤魔化すために私がラクサス様を嫌いだ。と、いっておられるのかしら?
私と婚約しているから私の実家であるコーラル家が、ラクサス様のご実家であるフェイト家への援助も惜しまずにお父様がしてくださっておるというのに。
もし、ラクサス様から婚約破棄を申し出られた。等とお父様の耳に入ったらラクサス様は全てを失うだろう。いや、ラクサス様だけではない、ご実家の存続だって危うい。
簡単に想像できてしまう光景にミリアはぶるりと身震いをした。
新しい事業への投資に失敗し、コーラル家の援助をあと数年は続けないと公爵家であるにも関わらずフェイト家は没落してしまいそうな状況なのだ。
で、あったからには、援助を受けている以上ミリアに嫌われていようがいまいが婚約破棄など申し出れる訳がない。
にも関わらずこの申し出。
さらにわからないのが、ラクサスは捨てられた子犬のような顔をしている。
この場合その顔をするのは本来私のはずでは…?と、ミリアは思った。
が、ミリアは大人しく守られて満足できる性分ではない。
私には到底できませんわ。と、開き直るしかなかった。
「たとえ、私がラクサス様をき、嫌いだったとしても。立場も家族も全てを捨ててでも私と婚約を破棄したい。と、そうおっしゃられるの?」
思わず目がすっと細まる。
元々目付きが鋭く、何も考えていなくとも怒っている。などと言われるミリアの視線に耐えかねたのか、先ほどまでこちらを見ていたラクサスも居心地が悪そうに身をよじり、視線を足もとに落とした。
ここで一つ。はっきりしておきたいのだが。
別にミリアは怒っている訳ではない。突然の申し出にただただ驚き、婚約破棄などと言い出した婚約者の考えが知りたいだけなのだ。
若干声のトーンが低く、力なさげにラクサスは呟いた。
「私は…ただ、君がそれほど俺の事が嫌ならいっそ身をひこうと…」
人間驚きすぎると声もでない。などとよく言われているが、ことミリアにはそれは通じなかったようだ。
むしろ淑女教育など受けてこなかったかのように思わず声をはりあげてしまった。
「なんですかそれは!大きなお世話ですわ!それにですわ、一体いつ私があなたの事を、目に入れたくもない程嫌いだなんて言いまして?」
「いや、君から聞いたことはないが…」
決まりが悪そうにラクサスは呟く。
見目麗しく、女性からの人気も高いの評判な彼がそんな風にしょげていたら、つい甘やかしてしまいそうな女性もいるだろう、事実ミリアも何度かそれで許してしまったこともある。
が、今回は自分の将来に関わることなのだ。
いつものように、もういいわ。と言ってしまいそうなミリアは自分をおさえ、ラクサスには気がつかれないよう、自分の興奮をおさめるためにそっとため息をつく。
「では、何故そう思われましたの?」
努めて冷静に。自分を律し、なるべく穏やかな声を出しつつラクサスにそう尋ねた。
「この間学園の廊下を歩いているときに、君と君の友人が話しているのを耳にしたのだ。君はこう言っていた。あの方と一緒にいると苦しいんだ。と、これから先、共に生活を共になど出来うる気がしない。とも。」
扇をもつ手に力がはいる。
まさかあのときの会話を聞かれていたとは。
その会話には覚えがある。学園でよく一緒にいる友人と、何気なく自分達の将来について話していた記憶があったのだ。
あの時はもう放課後で、ラクサスはいつも自主的に鍛練している時間だったのでまさか聞かれるなど思わず、油断してしまったらしい。
心配性な友人が自分の婚約について不安を抱いていたために、安心させようと話題に出した事だったが、こんな事態になるならやめておけばよかった。と、心のなかで一人ごちる。
「それは…」
確かに言葉だけを聞くとラクサスが考えた内容ともとれる発言であった。だが誤解なのだ。
あわてて訂正しようと話し出したミリアをラクサスは手で制した。
「愕然としたよ。君とは小さな子供の頃から共に育ってきたと言っても過言ではないし、これからも共にいるものだと思っていたのだ。隣には当たり前に君がいる。君の気持ちには微塵も気がつかずに本気でそう思っていたのだからね。確かに俺は馬鹿なんだろう。」
「だから…!」
ラクサスの言葉にいてもたってもいられず、たまらずミリアは声をあげるが、次の言葉を発する前に、ラクサスは自分の拳を強く握りしめミリアの言葉より先に言葉を紡いだ。
「だから君を解放してあげようと思ってね。」
「君が隣にいないのなら立場も名誉も意味のない事だ。と、思ったんだよ。幸い俺には弟がいるからね。父に頼んで弟を時期公爵にしてもらって、俺は一人で領地の片隅でも一人で守っていこうと思うんだ。」
自虐的な笑いを浮かべラクサスは肩を落とした。
「あなたは全て一人で結論をだしてしまうのね。私の話は聞いてくださらないの?」
ミリアは扇閉じ、そっと手の中へ戻した。
「君からはっきりとお前は不要だ。と、言われるのは柄にもなく怖くてね。」
「そんなことっ!!」
「あるだろう。」
「いいえ!あり得ませんわ!」
力強く言い切ったミリアに、ラクサスは至極不思議そうな顔をして尋ねた。
「なぜだい?あぁ、私とともに。は、苦しくて嫌だけど、次期公爵婦人の座は欲しいのかい?なら父と弟に君を推薦しておこう。」
「!?」
「馬鹿になさらないで!!」
なんということを言っているのだ。
公爵婦人の座ですって?私をただ地位を欲しているだけの女だと。
存外に、お前は中身のない女だ。と、言われているようなものだ。
これを屈辱と言わずして何を屈辱と言うのか。
「馬鹿になぞしていないよ。ただ、これまでの君の苦痛を考えたらそのくらいの事はなんとかさせて欲しいとおもっ…」
「それが馬鹿にしてると言っているのです!」
先ほどのラクサスの言葉が胸に突き刺さり、じわりと涙が浮かんできた。
最早扇を握る手に力など入らない。それどころか、手足がひどく冷えているのが自分でもわかった。
「私が…わたくしがそんなものが…欲しくてこれまで共にいたわけではありませんわ。」
ぽつり。と、独りごちた。
そして冷たくなった手をぎゅっと握りしめ、目線をラクサスの目にうつした。
「苦しいと言ったのは、あなたのそばにいると心がドキドキして胸が苦しい。と言ったのです!苦痛なんかじゃない!この17年間幼い頃よりずっとあなたのことのそばにいるのに、いつまでもあなたに心を奪われてドキドキしているなんて、生活を共にしたらどうなってしまうのかしら。と、お話していたのです。私は貴方を誰より愛しているのです!」
本来、感情を表すことは淑女教育において最大のタブーなのだが、今この場を微笑みと遠回しな言葉だけでかわしては絶対にいけない。と、頭のどこかで警鐘が鳴り響く。
「では…私は君に嫌われているわけでは…」
「そんなことあり得ませんわ!」
「はは…なんだ。俺はてっきり…そうだったのか。」
はっきりとしたミリアの否定に、ラクサスはほっとしたように表情を和らげた。
「よかった。俺は君を手放さなくていいんだね?」
「当たり前ですわ!私を手放すなんて許しませんわ!」
つんっ。と、そっぽを向くミリアだが、その顔は赤い。
それを見たラクサスは、はたから見てもわかるくらいに目尻を下げた。
何故何も言わないのかしら?と、ミリアが不思議に思い、顔をラクサスの方へ向き直したら、目の前に壁が見えた。
「じゃあ、遠慮なく。」
距離の近さに驚いていると、とろけたように甘い声が上から降ってきたと同時にふわっと抱き締められた。
「きゃっ、な…なにをなさるのですか!」
突然の抱擁に慌てたミリアが声を出す。やっと顔の赤みが落ち着いてきたところなのに。
また顔に血が集まっていくのが自分でもわかる。もう顔だけでなく耳まで赤いに違いない。
「なにって君を抱き締めているのだよ?だって君は私の大事な婚約者だろう?あぁ、もう君がどんなにいやがっても、私は手放してはあげられないからね。覚悟して?」
頭上から呑気な声が響く。
「の…望むところですわ!私だって手放されてなんかあげませんことよ。」
ミリアは挑むように、ラクサスの背中に手をまわし抱き締める。
「では死ぬまで共に一緒にいよう。」
「ええ。」
そうして暫し抱き締めあった時、ミリアはふと、ラクサスの気持ちを言葉で聞いていない。と、思った。
言葉ではなくとも、気持ちは十分に伝わったのだが、自分だけが言葉にしてラクサスははっきりと言葉にはしていないのだ。なんとなくやられっぱなしな気がしたミリアは、ラクサスをからかって意地悪をしよう。と思った。
「そういえば、さっき私だけが、あ、愛していると言ったのですよ?あなたの言葉を聞いておりませんわ。」
「いって欲しいかい?」
「!?」
「い、いいえ、結構ですわ。心がもちませんわ。」
てっきりラクサスは顔を赤らめて狼狽えると思ったのだが、あっさりと反撃にあい、早々にミリアは白旗をあげた。
もぞもぞと自分の胸に顔を埋めてしまった自分の婚約者を見下ろし、ラクサスは至極残念そうに肩をすくめた。
「なんだ残念だな。………………愛してるよ、誰よりも君を。」
暖かい風がふわっと二人をからかうように吹いていた。
ーENDー
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拙い物語をお読みいただきありがとうございます。
おわってみると情けないヒーローになってしまいました。
あれ?こんなつもりでは。とは思いました、すみません!
では失礼します!