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勇者ではなく、英雄ですらなく  作者: マンディ
終わりと始まり
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適応Ⅱ

そんな環境の中でも、分かってきたことはいくつかあった。


まずこの世界は、私の『前世』にいた頃と時代が大きく違う。

時代的には中世に近いかもしれない。

電気などはなく、外には自動車も走っていない。


周囲を木々に囲まれたこの施設から見えるものは限られるが、外の出たとき、木々の間から覗く離れた場所には、木と石作りの古風な家が並んでいる。


しかし、私のいた世界で暗黒時代と呼ばれていた中世とも、やはり違う。

先進的な文明器具は未だに見かけないが、食事のときには皆がスプーンやフォークを使う。


近世に近いだろうか?

単に過去の時代に生まれ変わったわけではなさそうなので、断言は出来ない。

そもそも世界線が違うのだ。


そう言える理由が、『魔法』や『魔物』の存在だ。

それらが、この世界には実在するらしい。


いずれもまだ実際に目にしたことはないが、どんな絵本にも必ず描写されている。


どうにか語学を学ぼうと、日本語で思考することを無理やり抑え、多少は話が聞けるようになったとき、毎日大人達が自分達に語っていた御伽話が、実はフィクションではなく実際にあった伝承だということに気が付いた。


その話の中で毎回必ず出てくるのが『魔法』『魔物』、そして『勇者』…。


言葉を覚え始めて歴史書を読み始めると、それらが単なる作り話ではないことが分かった。


前の世界の人類史で繰り返されていたであろう人間同士の凄惨な戦争よりも、魔物との戦いが詳細に記述されており、それは今も続いているという。


過去の時代というよりも、ファンタジーな世界に生まれて来てしまったらしい。


そうした魔法の存在が、本来の時代よりも複雑な文化を既に取り入れている所以なのかもしれない。


しかし、この施設と今の自分の語学力では、詳しく調べることが出来ないのがもどかしい。

そもそも孤児院のようなこの場所に、学問的な書物などはあまりに少なく、新聞もテレビも無く、情報を得られない。


外に出られる時間も限られ、施設から離れようとすると修道女のような大人達に何かを捲し立てられ、すぐに連れ戻される。

この施設以外の世界が、まだ殆ど分からないのだ。



他に分かるのは、今の自分のことについて。

前世の風貌は見る影もなく、全くの別人だ。

銀色の鮮やかな髪に、幼いとはいえ人形のように整った端正な顔立ち。


施設のすぐそばにある、水浴びのために赴く小さな湖で自分の顔を初めて見たときは、テンションが上がったものだ。

しかし、銀色の髪ってなんだ。

地毛が銀色の人種なんて、ヨーロッパ地方はおろか前の世界にはいなかった。


このことからも、自分はもう完全な異世界の住人であることを自覚せざるを得なかった。


そんな自分に、この施設で授かった名前が、『アリス』だ。


アリス・サトゥルーガ


これが今の自分の名だ。


ある日、勇気を出して施設で世話をしている女性に初めて話しかけたことがあった。

私はどこから来たのか、と。


女性は当初、こちらから話かけてきたことに大層驚き、喜んでいたが、その内容を理解してすぐに表情を曇らせた。


語学が未だ他の子供に比べて劣り、語彙力もないため、しつこく同じ質問をすると、女性はようやく重そうに口を開ける。


「アリス、あなたが生まれてすぐに両親は病気で亡くなったの。

あなたは運良く、街の人にここまで運ばれたのよ」


ああ、そうなっているのか。


恐らく病気というのは嘘だろう。

私が生まれてすぐに両親が病気で、しかも同時に他界したというのはどう考えても不自然だ。


しかし、両親がもういないのは確かなのだと思う。

別の理由で死んだのか、捨てられたのかは知らないが、そこはあまり関心が無い。


両親がいないのなら、この新しい世界で生きていく上で過ごしやすいかもしれない。

孤児の立場がこの世界でどう受け止められるのかは知らないが、魔物が跋扈しているような世界ではそこまで重視もされないだろう。

まず前世の記憶がある時点で、この世界の親とどう接するべきか悩むが、その心配はないようだ。


美少女な上に孤児だなんて、ヒロインの要素を満たせているのでは?


また間抜けな思考に耽ることもあるが、周りの声を聞いてすぐに現実に引き戻される。

理解できない言葉や言い回しがまだ多すぎる。


何においても、まずは言語を習得しなければ、文字通り話にならない。


当初はすぐに覚えられるなどと気楽に思っていたが、前世の記憶の中でも重要だった、『日本語』という既存の言語が邪魔をして、新たな言葉を習得するのは並大抵のことではない。


魔法や魔物などについて夢を膨らませつつ、日毎に出会う新たな言葉や文法を覚えようともがく毎日であった。


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