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勇者ではなく、英雄ですらなく  作者: マンディ
終わりと始まり
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適応Ⅰ


新たな場所、新たな時代、新たな顔、新たな命、新たな人生。


その私の新たな門出は、この新たな世界の新たな『言語』に躓く。


自分が自我を持ってからは、時が経つのはあっと言う間だった。

体感的には数週間も経っていないはずだった。

しかし、実際にはすでに子供達が走り回るほどまで成長している。

もちろん自分も同じように成長している。


第二の人生が始まってから現在までの記憶の大部分が抜け落ちていた。

前世の記憶があり、精神年齢が大人並みでも子供の脳が付いていけないのだろうか。

部分的に覚えている部分はあるが、『前世の記憶』という膨大な記録を持っているためか、小さな脳が処理落ちしているように思える。


最近になり、ようやく一日を一日と時間的に認識できる日が増えてきた。

それでも、やはり時間の感覚が部分的に飛ぶことはあるが、マシにはなっただろう。


今は7歳くらいだろうか。

狭く古びた室内で、あれだけ泣きじゃくっていた子供達は、歩き、走り、遊び、会話するまでに成長している。

自分よりも年上の上級生のような者や、最近ようやく歩き始めた幼子も複数いる。

どうもここは、孤児を引き取って世話をしている修道院のような施設らしい。

修道服のようなものに身を包んだ母親代わりの中年女性達が、微笑みながら子供達を見守っている。


もちろん自分も同じように成長していた。

毎日の食事は萎びたパンと冷え切ったスープだったが、いつの間にか自分の足で歩行できると気付いたときには驚いた。


だが、問題はやはり『言葉』だった。


数年以上も耳にしてきたおかげか、簡単な、本当に一部の言葉は理解できるようになっていた。

しかし、他の子供に比べて明らかに言語能力は劣っているのが分かる。

同い年くらいの子供同士の会話もまだ大半が理解できない。

同年代どころか、年下の者にも会話する能力が低いのではないだろうか。


本来の赤子のように、真っ白な状態から言葉を覚える早さには目を見張るものがある。

一方、不純物が頭に詰まっている状態の自分は、この様だ。

日本語でも英語でもなく、まったく関わったことのない言葉を20歳代の人間が覚えるのは相当辛い。

どうしても日本語で思考する癖がついているためか、今自分の耳に入る言語が受け付けられない。


何となく文法は掴めてきたが、それも本来であれば考えることなく感覚で覚えてしまうものなのだろう。


この世界でも数字にアラビア数字が用いられていたのは不幸中の幸いだった。

それでも、未だに大人達が毎日子供達に語る御伽話の内容なども殆ど理解できないレベルだ。


最近は、大人達が心配、あるいは不安な視線を自分に向けていることに気付いた。

他の子供達と違い、自分だけが殆ど他人と会話せず、話しかけても理解している気配がないからだろう。


その視線が、まるで侮辱のように思えて腹が立ち、悔しかった。

神童と呼ばれることを想像していた間抜けな自分を思い切り殴ってやりたかった。


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