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勇者ではなく、英雄ですらなく  作者: マンディ
終わりと始まり
17/42

目標Ⅱ




スニエが何を言ってもクレアが殆ど反応を示さなくなった頃、就寝することにした。


スニエはまだ喋り足りなかった様子だが、勇者の力を覚醒させたクレアの疲労を考え、スニエから、もう寝ようか、と提案し、部屋のランプを消してそれぞれの寝床につく。



皆が静かな寝息を立てているなか、自分は考え事に耽っていた。

かなり疲れていたため、すぐに寝れると思っていたが、目が妙に冴えてしまっている。


部屋に漏れている月明りに照らされたテーブルをベッドから見下す。


そう、月だ。この世界にも月がある。


前の世界と同じように、月があって、太陽がある。

自然があって、動物がいて、人間がいる。

ここは間違いなく地球だ。


だが、前の世界に魔法はなかった。

魔物もいなければ、超人的な力を持つ『英雄』や『勇者』なんて存在も創作や神話だけのものだった。


けれど、ここにはそのどれもが確かにある。

それらの存在が影響してか、前の世界とは文明がかなり違う。


歴史の講義によれば、魔物と魔法の存在はかなり昔からあり、どちらもほぼ同時期に存在が確認されているらしい。


そうした存在によって、同じ人類でもこうも文明が変わってくるのかと思うと興味深い。

時間軸が元の世界でのどの時代にあたるか判断がつかないが、文明は少なくとも中世よりは発達しているように思える。


電力で動く機械の類などはないが、生活水準は高く、下水道も食事も文化も発達しており、暗黒期と言われる中世の凄惨な生活を送らなくて済んでいる。

まさにファンタジーの世界に生きているのだ。


その中で肝心の魔法が碌に使えないのは残念だが、やっぱりこれは前世の記憶が何かを阻害しているのだろうか。

だが、逆に身体強化魔法の力は異常に強い。


ここを出て独り立ちすれば、生活しているうちに何か楽しみも見つけられるかもしれない。

そのためにも早く成長しなければ。

語学ももう少し勉強が必要だ。


外はきっと、自分にとって驚きと刺激に満ちているだろう。


まずは、ここを卒業しないと何もできない。

ここを出れば、刺激的な人生が待っていると戦闘狂の教官は言っていたが、それも楽しみといえば楽しみだ。

魔物を退治して、もっと強くなって、クレアと一緒に世界を回って、魔王を倒して―――。


自己満足で終わる偽善ではなく、世界を、平和を取り戻すのだ。

その主人公である『勇者』ではないのは心惜しいが、クレアと一緒ならきっと満足できるかもしれない。

それができれば、いかなる時も、素晴らしい人生だったと胸を張れるだろうか。


必ず、必ずこの世界で幸せになる。

それが私の生きる目標だ。


そしてその幸せを、他人にも堂々と胸を張れるものにしたい。



ともあれ、この訓練所を出たら、米料理を食べたいな。

ここのパンは少し固すぎる…。



そんな取り止めのない願望を浮かべているうちに、ようやく眠気が訪れ、意識をそれに委ねた。



―――――




そして訓練所を卒業し、1年ほど経ったある日の深夜、とある集落の近くで、今日も私は殺していた。


足元に転がっているのは魔物などではなく、苦痛と驚愕に顔を歪めたまま死んだ、たった今自分が手にかけた人間の死体だった。


これが、これが私の望んでいた人生なのだろうか…。


そして今日も、自問自答を繰り返す。


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