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夢追いの君

 そして、八千代(やちよ)は夢見るように───実際に夢を見ているのかも知れないけれど───こう、曰ってくれた。



「ライセンスの件は任せておけ。

 なに、自慢するわけではないが……自分の家はちょっとした資産家だからな。

 このくらいの我侭(わがまま)、聞いてもらってもバチは当たらぬだろう」



 はぁ?

 ライセンスって?

 琉璃夏(るりか)はしばらく考える素振りをしていたが、やがてにやりと笑ってくれた。



 ───変な琉璃夏(るりか)

 だけど、これまた変な事を(ひらめ)いたんじゃないだろうな?



「なぁ、私も乗って良いか? その話。

 いずれにせよ今度の高専(こうせん)(さい)には、何らかの成果を発表せねばならんのだ。

 下らぬ文集など書くよりは、そちらのほうがよほど面白い。

 うまくいけば、我らの野望の手助けともなるだろう。

 なにせ、あの『コイハル』だ。

 ――そうは思わないか? カナタ」


琉璃夏(るりか)

 ――お前まで何を言い出すんだよ。

 アドベンチャーゲームに開発がそんなに簡単にできると思ったら大間違いだよ?」



 琉璃夏があの表情をしてロクな事が起きた試しがない。

 それを重々、この体を持って体験しているオレは、すかさず琉璃夏の無謀に噛み付いたんだ。



「その点も任せておくがよい。

 画像、音楽、効果音、版権その他全て関係各社より加工改変自由の許諾権付で買い取って来る。

 なに、米帝の鼠楽園(ネズミー)関連を除くのであれば、何一つ問題は発生すまい。

 そうとも。

 明日にはデータどころか当時の開発資料まで一切合財揃うと思ってくれていて構わない」



 八千代(やちよ)の大口は留まることを知らない。



「明日!?」


「それは素敵なことだな。

 胸が今からワクワクするよ。

 カナタ、直感だが、八千代の言っている事は間違いなく実行される。

 そんな予感がするんだ。

 そうとも。

 ――我の研ぎ澄まされし第六感が、八千代の話が全て真実であると告げている。

 私が保証するから、後はカナタ?

 あとは貴様が覚悟を決めろ」



 琉璃夏、無茶苦茶だ。

 いつも以上に無茶苦茶すぎるぞお前?

 けしかけた八千代はもっと無茶苦茶だけど、それにしてもお前……。

 お前まで、お花畑なこと言うんじゃない!

 それに琉璃夏……八千代の事を呼び捨てか?

 いつの間にそんな……そんなファーストネームで呼び合うお友達になったんだよ!



「カナタがユリルートのシナリオを加筆・修正し、トゥルーエンドのシナリオを作る。

 琉璃夏、先ほどの話ではそなたはパソコンが得意なのであろう?

 カナタが書き起こしたシナリオを出来た先からプログラムにしてくれ。出来上がったものを自分が監修しよう。編集作業も自分に任せるが良い。どうしてもデジ絵の追加が必要になった場合、早めに自分に頼む。───自分には少々、デジ絵の心得がある」


「了解!」



 本物そっくりにばっちりと、ヒゲ伍長(ごちょう)式敬礼を決めてみせる琉璃夏。

 もう止めて止めて!

 それやっちゃうと欧州(おうしゅう)に入国禁止になっちゃうんだから!



「ああ、カナタとともに作り出す愛の形、考えただけで頭の芯が痺れて来る。

 幼き頃より夢にまで見た状況が今ここに――。

 ああ、母上。

 これが恋なのだな?

 そうなのであろう?

 これほどまでに熱き感情、この自分……生まれてこの方、感じたことなどなど一度もない!

 この八千代、今こそ母上の仰られていたことの本当の意味を理解したような気がする。

 あれほど素晴らしき教えを毎日のように受けておきながら、いまさらそのことに思い至ろうとは。

 誠に不徳の致すところ……」


 ───意味がわからない。

 意味がわからないけれど、八千代と琉璃夏が二人で暴走している事だけはわかるんだ。


「なんだよそれ、勝手に決めるなって! そんな事、巧く行くとでも思っているのかよ!?」


「寝言を言うな、カナタ。

 全ては我々が首尾よく事を運べば良いだけではないか。

 実に簡単なことだ。

 赤子の手を捻るよりも造作もない」



 ───いやいや、なんだそれは。

 琉璃夏が余裕綽々の顔を向けて来て?

 よくわからないが根拠ゼロの自信だけはありそうなんだ。



「明日から忙しくなりそうだな、カナタ。

 自分は今からそれが楽しみでならない。

 カナタ?

 そなたとともに愛の物語を紡ぐことができるなどとは夢のようだ。

 ───自分は幸せだ」



 八千代がよろしく頼む、とにっこり微笑んだ。

 思わずこっちが赤くなる極上の笑み───って!?

 ダメだダメだ!

 ついつい八千代に見とれてしまう!

 見れば、琉璃夏も釣られて微笑んでいる。


 ――こっちは思わずゾッとする凄惨な笑みだけど。



「ああ、面白くなってきたではないか。

 ――高専健児たるもの、自ら地雷原に突撃し見事に散って果てるべきなのだ。

 果てた上でゾンビーとなって復活してでも、栄光を掴むべき運命にあるのだから」


「意味がわかんないよ、琉璃夏!」


「ふふふ、――やはり高専祭前はこうでなくては。

 ――クラスの出し物などミドリムシ(ユーグレナ)程の図体(ずうたい)も期待できない。

 帰宅部連中の考えるイベントなど、どうせヌルいに決まっている。


 我々大江戸特芸高専文芸部は我々だけで勝利へと邁進するのだ!


 勝利など戦う前から約束されている。

 我々の輝かしい前途を阻むものなど何もない!!


 ───立てよ若人!

      ふははははは!!」



 気のせいか、何かどす黒いオーラとともに琉璃夏の瞳が赤く光って見えたような気もする。

 そんな琉璃夏をオレも八千代も二歩三歩と引いて見守るしかなかったんだ。



 ───そう。

 夢見る乙女の八千代を退かせるほど、今の琉璃夏の瞳はアレだった。






<登場人物紹介>

土岐彼方(とき・かなた)。本作の主人公。国立大江戸特別芸能高等専門学校創作文芸科の三年生。男の(おとこのこ)

徳田八千代(とくだ・やちよ)。本作のヒロイン。国立大江戸特別芸能高等専門学校創作文芸科の三年生。黒髪の(キミ)

毛利琉璃夏(もうり・るりか)。主人公の幼馴染にしてクラスメイト。なんちゃって国家社会主義者(ファシスト)

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