オロシ味ポン
皇紀弐千六百八拾年 拾月 拾六日 金曜日
国立大江戸特別芸能高等専門学校 文芸部部室
画面に食らい付く、数人の人影があった。
◇ ◇ ◇
『トバリ! ――来ちゃダメ!』
『ユリ、行くな!』
――ユリが泣いている。
――ユリの言葉。アレは、アレは決してユリの本心じゃない!!
『トバリ!!』
『アーッハッハッハッハ! どうしたクソ虫! 虫ケラの分際でなにが出来る。――立場をわきまえるのだな!?』
俺の目の前にそびえ立つ鋼鉄の巨人。
帝国軍の試作人型汎用兵器『バスタードハタモト』の外部スピーカーから憎きあの男――恋敵たる光源氏の声が聞こえる。
――あいつ、いったいどこからこんなデカブツを!
『おっと、誰が動いて良いと言った!?』
ダダダダダダダ!
36mmチェーンガンの唸る音。
地面が砕け、弾け飛ぶ。
その瓦礫は容赦なく俺の全身を撃った。
『う、ッくぅ!』
痛い痛い、全身が痛む。もはや何処を打ちつけたのかもわからない。
『きゃぁあああああああああああ!! トバリ!! トバリーーーー!!?』
ユリの絶叫が響き渡る。
『んーーーー!? 死んだか!? ―もしかして、プチっと逝ってしまったかぁ!? アッーハハハハハハ!』
――俺は負けない、誰が光源氏なんかに、あんな外道にユリを!! 薄れ往く意識の中、俺は最後までユリの事を思い続けた。
『ほぅ? 以外だなクソ虫。――だが、もうこれで終わり――』
『止めて! お願い、止めて止めて!! ……する、何でもするわ! 言うことも聞きます! だから、もう止めて、お願いよ!!』
『聞いたか? 聞きましたかクソ虫! ユリが、お前のユリ姫が――遂に落ちたぞ。遂に俺のものになったんだ! アッーハハハハハハ! クソ虫、悪いな、あそこまで言われちゃぁ俺としても引かないわけにも行かないな。――あ、そうだ。クソ虫、――お前はもう用済みだ。帰って良いぞ?――何処へなりともな!! アッーハハハハ! アッーハハハハハハ!!』
『ユ、ユリ……』
◇ ◇ ◇
画面がフェードアウトしてゆく。
暗闇の中、主人公トバリのモノローグが響いた。
俺は、何もできなかった。
結局、指一本、ユリに触れることも叶わず。
光源氏に一矢報いることすら、――出来なかったんだ。
俺は、最低だ――。
主題歌の演奏が始まり、スタッフロールが流れ始める。
――シナリオ オロシ味ポン、とあった。
たしかこの『オロシ味ポン』と言う名前こそ。
この作品を作った当時の、オレの父の使っていたペンネームだと記憶している――。