三人で。
皇紀弐千六百八拾年 拾壱月 弐日 月曜日
国立大江戸特別芸能高等専門学校 メインストリート
うう。
ううううう。視線、視線、視線がオレに思いっきり突き刺さっている!! 間違いない。オレを見ているんだ。オレを。オレに違いない。どいつもこいつもオレを、そしてオレの連れを見ている! それも刺すような視線でだ!
オレはメインストリートを歩いていた。それは良い。琉璃夏が隣にいいる。うん。いつもの事だ。問題ない。ゴスロリ衣装のままだ。限りなく目立っているが、琉璃夏はいつも注目の的だから、これもいつもとあまり変わらない。オレを挟んで琉璃夏と反対側に八千代がいる。まあ、最近では良くあることだ。これもあまり問題ない。こいつもやはりゴスロリ衣装のまま。凄く目立っている。で、肝心のオレの服装なんだけど。オレもその、あの……ゴスロリ衣装……。ど、どうして……何故こんな目に……泣くぞ……。
あああああ。見知らぬ勇者たちから誘われること数度。悪の手先に強制されたと思しき苛められっ子から誘いを受けること数回。そして常に───カメラ小僧たちがオレたち三人を取り巻いていた。頼む、オレに心落ち着く瞬間をくれ。
「ねーねー。ツインテちゃん。もっと笑ってよ? ね?」
銀杏並木手前のダーツの模擬店に差し掛かったときだ。カメラ小僧のうちの一人である勇者が何か言って来た。ツインテとは琉璃夏を指しての事だろう。命知らずな奴もいたものだ。
「なんだ貴様、馴れ馴れしいな。そのようなあだ名を勝手につけるな、このクソ虫」
見事なツインテールが風に舞う。顔と声に似合わぬ台詞。そして魂の炎を消し飛ばそうかと言うほどの冷え切った視線。それなりに衝撃的だったのだろう。その男は硬直した。
「ね、ねえ、黒髪ロングのお姉さん、君なら笑ってくれるよね?」
別の勇者が今度は八千代に声をかけた。
「すまないが道を開けてもらえないだろうか。自分たちも暇ではないのだ。申し訳ないが、そなた達には付き合えぬ。ああ、もしやそなた達、自分がここで笑えば道を開けてくれるのか───?」
「八千代、このバカどもに餌を与えるな。つけ上がるだけだ。上手い事いわれて文字通り丸裸にされるぞ。止めておけ」
琉璃夏にそう言われて八千代は口をつぐむ。
勇者は諦めていなかった。そう。オレにも当然矛先は向くわけで……。
「ねぇねぇ、ショートの君、君なんてむっちゃ好みなんだけど、君なら笑ってくれるよね? ああ、それそれ! その困ってる顔なんてめっちゃ可愛いんだけど!」
……。
ああ、眩暈がする。お願いしますお願いします。これが夢なら早く覚めてください
琉璃夏がいきなり笑い出した。あ。八千代も笑った! なんだよ! あの八千代まで! 酷いよ!!
「随分な人気じゃないか。カナタ貴様、要望に応えてやったらどうだ? この上なく可愛い笑顔になるかも知れんぞ? なぁ、八千代」
琉璃夏の邪悪な笑みが見えた。おい、どうしてオレにだけ態度が違う!? いや、それどころか勇者の片棒を担ぐようなマネを!?
「そんな可愛らしい笑顔なら、自分もぜひ一目拝見したい! 是非見せてくれ!」
おい! 八千代さん!
「あはははは!」
「うふふ」
「冗談じゃないって!」
琉璃夏が噴出した。釣られて八千代も。オレは苦笑いしたよ。
二週間後。オレたちの写真がゴスロリ三人娘として地方紙の表紙を飾ることになる───それはまた別の話───。




