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純情な君

「でさ、告白の言葉なんだけど……」




 ここが肝ではあるよな───。

 琉璃夏(るりか)が言った。




「ああ、そのことだが使用されていない台詞の音声が多数アーカイプに入っていた。

 そして、音声合成エンジンとこの声優の音源ライブラリもある。

 だから、未使用の台詞の音声をベースにして欲しい。

 細かい抑揚は私か八千代(やちよ)の声をキャプチャーして合成しようか。

 軽く十年は昔の作品だ。声優さんに頼むわけにも行くまい?

 それに、そんな時間もない」

「わかった。後で教えてくれる?」


「ああ」




 そうか、そういうことなら後で別個に創らないとね。





 ◇ ◇ ◇





「ええとね、二人がお互いに告白しあった後の愛情表現なんだけど……どこまで表現しようかと思って」




 八千代が実に素直な意見を述べてくれた。




「手を繋ぐ……」




 は?




「八千代、幼稚園児じゃないんだ」




 琉璃夏がすかさず突っ込んだ。薄ら笑いを浮かべている。




「そ、そうだな。ええと、ええと、腕を組む……のか?」




 ダメダメだ。

 琉璃夏の目が妖しく光る。




「八千代、おママゴトしているんじゃないんだ」




 琉璃夏が呆れている。




「では、も、もしかして接吻を……」




 ダメだろう。ユーザーは納得するまい。




「話にならんな」




 ついに琉璃夏が切り捨てた。




「え? ……え!? で、では抱擁を……抱擁を交わしたりもする、のか?」




 八千代はかなり動揺している。

 顔なんて既に真っ赤だ。

 まぁ、全年齢版ならばその辺りが手の打ち所だろう。


 ───って、琉璃夏?


「はぁ。八千代。

 それではダメだ。ダメダメすぎる。

 ……愛し合う恋人たちがお互いの気持ちを今まさに伝え合ったのだぞ?

 ムードも満点な夜の静かな海岸だ。

 きっと優しい潮騒の音だけが響いてるんだ。

 こんな場所では熱い口付けと硬い抱擁なんて当たり前だ。

 若い愛し合う二人の事だ。

 あとはやることなんて決まっているじゃないか。

 当然男は砂浜に女を押倒すのだ。

 このときの男は女の顔しか視界に入っていない。

 一方の女には男の顔と満天の美しい星空が視界一杯に広がっているんだぞ?

 この先の展開なんてバカでもわかる。

 二人は再び愛の言葉を囁きあうんだ。

 そして二人は優しく口付けを交わした後、やがて感極まってお互いの愛を確認すべく激しく相手を求め合い、それはもう……」




 ボン!

 何か今、音がしなかったか?


 ───あ。

 八千代が目を回して膝を突いていた。




「はわわ、はわわわわわ、母上、母上、どこにおいでですか?

 八千代は、八千代は……」

「なんだ、八千代。今どき純情なのだな。意外と可愛いやつだ」




 琉璃夏が小さくため息をついていた。




 ◇ ◇ ◇




 お湯を捨ててソースを入れる。

 そういえば、この前教室でどこぞの勇者がお湯を入れたままソースを入れていたような。まあ、あの時の悲鳴は凄かった。


 割り箸で豪快にかき混ぜてから、一口二口と口にしてみた。

 あ。バヤングも悪くない味だな。

「三平ちゃん」や「アダムスキー」と比べても、そう変な味じゃない。

 食べてみると結構いける。


 ───うん。いけるよ。




「琉璃夏、うまい、なんだこの口の中で広がる衝撃は!

 このような食べ物がこの世にあろうとは!

 自分はここまで無知のままよくもまぁ生をつないできたものだ。

 情けなさに涙が出る。

 しかしだ。これこそ至高の美味と呼べるであろう!

 究極の食べ物に違いない!

 聞けば、かの(しん)国の皇帝であった溥儀(あいしんかくら・ふぎ)も我が日本帝国のインスタント麺を求めたと言う。

 かの者の味覚に間違いはなかっと言うことだ。

 ああ、自分は今日、この出会いに感謝する!

 ありがとう、二人とも。

 カナタ、琉璃夏。

 そなたたちに出会わねば、この感激と感動はなかった!」




 八千代が絶賛している。でも、ヤキソバ一つで凄い言いようだ。




「これこそ我が帝国の国民食に相応しい!

 自分はこの商品を断固支持するぞ!

 これは素晴らしい!

 非のつけようが無い! 完璧だ……」




 なんと言うことだ。

 八千代が、八千代が壊れてゆく……。




「喜んでくれて嬉しいぞ、八千代」

「ああ、そなたのおかげだ。琉璃夏。おかげで素晴らしいインスピレーションが浮かんだぞ! ラストシーン、一枚絵(スチル絵)は期待してくれ!」




 それでも、今日も八千代の笑顔は眩しかった。

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