いつもの君
「おまえは黙ってろ」
「そなたには聞いていない!」
「黙らない! オレは誰のものでもないんだってば! なんだよ、二人揃ってオレをモノみたいに!」
ああ、なにを言ってるんだ? オレ。こんなところで大声なんか出して。
「カナタ……」
「カナタ?」
二人は言い争うのをやめていた。二人とも予想外だと言わんばかりの顔をしていた。
「でも、今日までオレを見ていてくれたのは琉璃夏だけだった。
今日始めて八千代がオレを見てくれて嬉しかった。今まで生きてきて、まともに相手をしてくれたのは君たちだけだよ!
だから、今日はとても嬉しいんだ。
新しい友達が出来たって、とても嬉しかったんだ!
だから、二人とも大切にしたいって思えるんだ。その二人が喧嘩なんてしないで!」
ああ、オレ、なんだか視界が霞んでる。
あれ? なにか水っぽい液体がほっぺに。雨でも降ってきたのかな?
「カナタ―――。喧嘩などしていない。大切な話を本気で相手にぶつけていただけだ。
だが、そなたにはそう見えなかったのだな。
すまない。自分にそんな気はなかった。
そして琉璃夏、そなたも誤解していたのか?
もしそうなのであれば、本気で済まなかった」
八千代の顔が優しい顔に戻った気がする。
いいや。今まで見た顔の中で一番優しいよ。
「済まない。私も直ぐ頭に血が上ってしまうようだ。
かなり誤解もあるのだろう。
よく考えもせず、言葉も選ばなかった。
カナタ、八千代。許してくれるか?」
琉璃夏も、とても穏やかな顔をしていた。
そしてそんな言葉を口にしている。琉璃夏が自分の意見を引っ込めるなんて珍しいような?
「八千代。
この判断は全てカナタに預けることを提案したい。
ここは協定を結ぼう」
「琉璃夏。そなたは話のわかる人物だと確信する。
わかった。
その話、自分に流れる血にかけて受け入れよう」
よかった。お互い引いてくれたよ。
「ふ。礼は言わない。
貴様とは末永く良き友でありたいものだ。
実は私もこの出会いには感謝している。
久しぶりに楽しめそうだ」
え? 琉璃夏?
「ああ。恋路に障害は付き物だ。
それがそなたであったこと、これぞ天の采配に違いない」
うわわ、八千代……。
「八千代、この勝負、私が貰ったな。私の勝ちだ。これは間違いない」
「それはこちらの台詞だぞ。琉璃夏。そなたの目は節穴か? 既に結果は見えている」
二人の間に火花って、冗談だろ? ───でも、それもビックリ杞憂だったかも。
「くくくくく!」
「あはははは!」
オレはほっとしたよ。大喧嘩になるかと思った。
でも、二人の意味深だった笑いは、やがて心のそこからの楽しみの笑いになっていた───記念すべきこの日。
夕暮れの時、オレはそう信じた。