表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
35/56

プール その1

 待ちに待ったプールに行く当日。


 出かけようとする僕をお母さんが呼び止めた。


「晶、ちょっと待ちなさい。ゆかりちゃんとのデートなんだから、あなたがすべておごってあげなさいよ」


 お母さんに言われて、これってデートなんだって今さらながら気がついた。いつも一緒にいるから気にもしてなかったけど…… そうか、デートか……。


「プール代や食事だけじゃなくて、ゆかりちゃんが何か欲しい物があったらなんでも買って上げなさい。あなたにはもったいないほどできた彼女なんだから、絶対に逃しちゃだめよ!」


 そう言って、お母さんは万札を数枚をポンと僕に手渡した。


「ゆかりちゃんは、彼女じゃないよ。ただの幼馴染。――それより、このお小遣い多すぎるよ」

 

 手渡されたお金を数えてみると10万円もあった。


「ただの幼馴染? あなた、まだゆかりちゃんに告白してないの!? 何をぐずぐずしてるの! あんないい子、すぐに誰かに取られちゃうわよ! ――それから、そのお金は、夏休み中のデートをするためのお小遣いだから有効に使いなさい。ゆかりちゃんから甲斐性なしの男なんて思われないようにしなさいよ。晶は知らないかもしれないけど、あなたは結構なお金持ちなのよ。事故にあったおかげで、あなたに掛けてた保険と加害者の自動車保険、それに加害者の務めていた会社からの見舞金ががっぽり入ってるんだから。将来、あなたが成人したら全部あなたに渡すからね。それまで、お母さんがそのお金を管理してるから安心しなさい。まぁ、ちょっとだけ私のご褒美で使っちゃったけど、ちょっとだけだからいいわよね?」


 お母さんの最後の『ちょっとだけご褒美で使っちゃった』っていう言葉に、僕はピンときた。 


 あれは、僕が退院して1ヶ月ぐらい過ぎた頃。ずっと僕の看病に追われてたお母さんが、デイ・サービスの人に僕のお世話を任せて久しぶりに銀座へ買い物に行ったことがあった。


 夕方遅くに帰ってきたお母さんは、両手にいっぱいの荷物を抱えて『デパート巡りをしてきた』と嬉しそうに語っていた。特にお気に入りのバッグを見つけたと言って、その時はバッグを誇らしげに僕に見せたことを覚えている。


 お母さんは、そのバッグを押入れの奥に大事に大事に仕舞っていたけど、何か大切な行事やお出かけのときには必ず引っ張りだして使っていた。でも、そのバッグを手にとったお母さんの頭の上のロウソクが、やけに真っ黄色に燃え上がるのがいつも不思議だった。1年経っても、バッグを持つお母さんのロウソクの炎の色が、興奮するときになる真っ黄色だったので、僕は興味本位でインターネットを使ってそのバッグについて調べてみた。


「――エルメスのケリーバッグで、値段は……1、10、100……10万…… ええっ! 189万円!」


 僕が呆気にとられたのは言うまでもない。


(お母さん、189万円は、『ちょっとだけ』ていうレベルじゃないって……)


 まぁ、お母さんには、本当に大変な思いや苦労させちゃったから、それくらいは目をつぶってお父さんには黙っていようと思った。でも、200万円近くを『ちょっとだけ使っちゃった』って、実際、いくらくらい保険金が入ったんだろう? 僕は、相当気になった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ