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8. 勇者の虚言 (2)

 サイクロプスをつれて大陸を縦断した黄金王国の王子カールハイツは大陸中の話題を席巻した。まさか新興の小国である黄金王国が魔王を下し、魔物を配下に収めたのではないかと各国は動揺した。

 黄金王国の急成長を恐れていた隣国は、このまま隣に魔物の巣窟を作られてはたまらないと連合して黄金王国を攻めた。カールハイツは迫りくる敵軍の報告を聞きながら悠々としていたという。五十人のサイクロプスが味方である。近隣の寄せ集めの軍隊など怖くもないということだ。しかし、いざ敵軍を迎え撃つ準備を始めるとサイクロプスたちは一人も言うことを聞かなかった。

「俺達は鍛冶師の指導にきた技術者だ。戦争に駆り出されるとは聞いていない」

 そう言い張ってカールハイツの指揮に従わないのである。カールハイツは念を入れて用意していた魔術師に命じてサイクロプスたちを魔術の鎖で縛り上げ、強引に肉の盾として陣頭に立たせた。

 一つ目の巨人の列に怯えた敵軍は崩れ、多くの攻撃を巨人たちが引き受けたおかげで調子づいた黄金王国の軍は圧勝した。五十人のサイクロプスのうち三十五人が戦争の傷が元で息を引き取り、その巨体は煙になって消え去った。


 黄金王国では戦勝の宴が開かれた。

「これで当面、小うるさい隣国どもを黙らせておくことができる。この機会に一気に国境を押し広げ、国土を拡大するぞ」

「カールハイツ王子のお手柄ですな。あの魔王から手下を掠め取ってくるなど、どんな勇者もできなかったこと。いまやカールハイツ王子こそが真の勇者と兵も口を揃えております」

 酒の入った王や高官たちはカールハイツを褒めちぎる。

「掠め取ってなどおりませんよ。技術者をお借りしたのです。信義に厚い魔物は世話になっている我が国の危機に際して自ら立ち上がり尊い犠牲を払ってくれたのです。彼ら一体で我が兵士百人、いや千人の命が守られるのですから」

 カールハイツが微笑んで返すと、取り巻き達は歪な笑顔を浮かべて追従した。

「まったく、しかも死んだ後は煙になって消えてくれるとは手間のないこと。あのような巨大な死骸、放っておくわけにもいかず、しかし焼くにも埋めるにも一苦労と悩んでいたというのに。魔物とは便利なものですな」

「全くだ。その対価として我々が支払うのは信頼と友好のみとは! 全く魔族の王とやらは存外お人よしですなあ」

「惨めな負け犬となった勇者どもの話など誰もろくに聞きもしないものに耳を傾けたカールハイツ王子の先見の明は見事なものです」

「議論好きで、世間知らずの魔王など! 誰も想像もしません」

 大きな笑いが起き、カールハイツも再びにっこりとほほ笑んだが、その笑みはぴたりと凍り付いた。何事かと振り返った高官たちも次々と凍り付いた。その視線の先には見たこともないほど大きなサイクロプスの目があった。窓の外から、宴の行われている砦を覗き込んでいるのだ。彼らは自分が二階にいるということを一瞬忘れた。


「傷つき、戻ってきた我らが同胞から話は聞いた。職人を縛りつけ、嬲り殺しにさせるのがお前達の信頼と友好の証か!」

 壁が震えるほどの大声が響いた。やってきていたのは十大魔将の一人、サイクロプスの王である。

「魔王も全てを知っている。お前の裏切りを嘆き悲しんでいる。悲しみのあまりにあげた叫び声が俺になった。本来の姿を取り戻すのは久々だ。それだけは礼を言おう。さあ、礼を受け取れ。裏切り者の王子と薄汚れた国の人間ども。信頼を裏切る代償を思い知れ」

 そして黄金王国は一夜にして消え去った。あらゆる砦が拳で叩き潰したように崩れ去り、農地は踏み荒らされ、港は燃えた。そして夜が明けた時に、その場所には一人の巨人も残ってはいなかった。

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