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乙女ゲームの悪役に転生しましたが、中身はアホのこのままでした。

乙女ゲームの悪役キャラに転生しましたが、中身はアホのこのままでした。2

「いくらなんでも、そんな処分間違っているわ!!」


「あら、ここは上流階級の子息が通う学園よ。このような粗相をするようなウェイターいらないわ。しかも他でもない私に対してこのような失敗…解雇が当然でしょう?」


「っ…あなたがそんなに偉いの!?」


「――えぇ、私は偉いわ」


 私は口元を隠していたお気に入りの扇子を音をたてて畳んで、不敵な笑みを浮かべて吠える転校生に突き付けた。


「覚えて起きなさい。無血統の駄犬さん。私の名前は『鳳凰院(ほうおういん)綾華(りょうか)』この学園の頂点に君臨するものよ。この学園では、私が法律なの。」




 ――決まった。


 私かっちょよくね!?

 女帝様感バリバリじゃね!?




 やって来ました。ヒロインちゃん。

 ついに私が毒々しくも華麗な悪の華を咲かせる時です。




 乙女ゲーム「箱庭の虜囚」は、庶民のかわいこちゃんが金持ち学園に入学して権力の濫用が蔓延る状況を改革しようとした結果、権力者のイケメンズに愛されるという設定になっている。

 前世はそんなゲームの一ファンの平凡な女の子だった(20過ぎて女の子を自称するな、とか、平凡じゃなくてアホのこ、いや変人だろうという意見は却下する。なぜなら私は稜華様だから)私は、学園追放がゲームのクリア条件になっている悪役キャラ、鳳凰院綾華に転生した。

 会社の規模故に学園の頂点に君臨し、攻略キャラである俺様生徒会長こと龍堂寺(りゅうどうじ)(かなめ)を狗扱いする彼女に、ファンがつけた渾名は「女帝様」

 芯の通った悪役っぷりに、惚れ込むファン多数。かくいう私めもそうでした。

 しかしそんな女帝様に転生したのにも関わらず、なぜか珍獣を見るような目で周囲から見られる日々。私のわんことして首輪をつけて裏でSMプレイを興じる予定だった要から、なぜ頭を叩て躾られている悲劇。



 しかし、そんな悲しい日々も今日でじ・えんど~!!

 なぜならゲームのヒロインちゃんが転校してきたから。

 そして誤って水をこぼしたウェイターを女帝様が解雇しようとして、ヒロインちゃんが止めに入るという出会いイベントが起こったから。ひゃっほい!!


 ここより始まる女帝様vsヒロインの戦い!!ならば私も、ゲーム補正で元々の女帝様のように気高く、美しい毒花になれるに違いない。



 鳳凰院綾華。その名のごとく、今美しい鳳凰になって飛び立ちます!!

 最終的に学園から追放されるのは悲しいが、この学園で今までの私の扱いが「アホのこ」なのは事実。女帝様としての才能が華開いた私に皆様さぞ戸惑われることでしょう。

 ならば、お互い一からやり直した方が、良いだろう。私は別の学園で今度こそトップに君臨することに致します。



 さあ、れっつ・ぷれい!!

 楽しい乙女ゲームのはじまりじゃい。




 ………しかし、周囲の一般ピーポーどもが、含み笑いで私を見ているのはなぜでしょう。



「女帝サマ(笑)……格好つけてるけど、その状態じゃ様にならない…っ」


「あれ、ミートソースだよな…あーあ、落ちねーぞ、あの染み。生徒会の制服白いのに……また皇帝に怒られるぞ」




 ………今の現状を説明しよう。

 我が校では王道的な要素として、「生徒会」や、「風紀委員」といった学園の権力者達には、普通の生徒と違った制服を支給される。

 生徒会は「純白」をメインとした制服。やはり男性キャラの白ランは大事な萌え要素だったらしい。

 元々のゲームでは別格の地位を持っていて豪華絢爛なオリジナル制服を身に纏っていた女帝サマ。

 しかし私は「躾」という名目で、本来はヒロインが後に与えられるはずだった「庶務」の地位を要から押し付けられている。その為、着ている制服も、生徒会用の白さが眩しい、絶対これ汚れんだろ、的な制服になっている。

 そんな白い制服の、襟からりぼんにかけた胸の部分に思いきり広がる――先程まで食べていたミートソーススパゲティ。



 ゲームでは、服の端に少し水がかかる程度の被害だった。

 しかしうっかりそんなイベントを忘れていた私は、突然掛かってきた水に素で驚いて、食べていたスパゲティを盛大にひっくり返してしまったのだ。

 慌ててイベントを思い出して、ウェイターに解雇宣言を突きつけ、ヒロインを上手く釣り上げたものの、ひっくり返してしまったものは元には戻らない。

 私ら女帝サマの、高慢かつかっちょ良いセリフを、ミートソース臭を漂わせながら述べることになってしまったのだ。



 ……おい、ウェイター。てめぇまで含み笑いをしてるんじゃない。

 誰のせいだと思ってるんだ。本当にクビにさせんぞ。

 絶対要が邪魔してくるから、無理だけどさ!!



「――そんなのおかしいわっ!!」


 ヒロインが、そんな外野の反応は無視して、正規のセリフを言ってくれる。

 うむ。それでこそヒロイン。

 外野の有象無象なんぞ気にしちゃいけない。


「そんなのっ、そんな権力が全てだなんて考え間違っている!!それが学園で普通のことだというのなら、私がこの学園を変えてみせるっ!!」


「あら?貴女のような庶民に何が出来まして?」


 片眉をあげて、嘲りを含んだ妖艶な笑みを浮かべてみせる。

 なかなか複雑な表情だが、大丈夫。姿は女帝様なのだから出来ているはず。うん、きっと。


「貴女が私に逆らうのなら、全力で叩き潰すまで。せいぜい後悔なさい。私に逆らった…っいたああ!!」


 格好よく言い放つはずだった台詞は、突然頭に襲った衝撃によって中断された。


「……まあた、制服を汚しやがって。何枚無駄にすれば気がすむんだ?あぁ?これ特注品なんだぞ」


 振り替えると鬼の形相の要が、拳を握って立っていた。



「ちが…っ!!誤解だっ!!これは私が汚したわけではなく、不可抗りょ…」


「俺は前に言ったよな?今度制服汚しやがったら、考えがあるって。…喜べ。俺がてめぇの為に用意してやった、特注のヨダレ掛けだ。食事の度必ず使えよ」


「ヨダレ掛け…っ!?いやいやいや、そこは普通のナプキンでしょう!?私、17歳よ!?」


「何度言ってもてめぇが、格好悪いからとかほざいて、ナプキン首にかけねぇで制服汚しやがるからだろーが!!その度制服申請してやってんの誰だと思ってんだ!!」


 誰か助けて下さい。

 幼馴染みから、公開赤ちゃんプレイを強要されてます。

 レースがあしらってあり、美しい作りになっていますが、ヨダレ掛けはヨダレ掛けです。

 てか、誰か、私の代わりに、今の状況は本当に不可抗力だったと説明して下さいっ!!私がなに言っても、キレた要さん聞いてくれないからっ!!

 そこのウェイター、さっさと私の責任だと、要に弁明しやがれ!!

 ちょ、要、ヨダレ掛け首に掛けようとしないで!?まじで勘弁して…っ!!



 そんなカオスの状況を打破してくれたのは、黙りこんでいたヒロインちゃんだった。


「――ふざけないで!!」


 怒りの形相で叫んだヒロインの言葉に、私と要は取っ組み合いをやめてヒロインの方を向いた。


「いつまで経っても学園改革の依頼がないから、学園長をたぶらかしておねだりして学園に来てみたら、なんなわけ?なんでこんなのが女帝サマのわけ?」


 要がヒロインの言葉に首を傾げているが、私には分かった。

 どうやら、ヒロインも転生者らしい。

 そしてやっぱり依頼なかったんか。必要ないもんな。今の状況で学園改革。


「ちょっと、あんた!!」


「ハイッ!!」


 睨み付けられながら人差し指でさされ、思わず背筋がのびた。

 怖い。ヒロインちゃん、目が座っている。


「あんた髪ちゃんと乾かしたり、とかしたりしてないでしょ!!」


「なぜ、バレた!?」


 思わぬ指摘に、目を見開いて驚愕した。

 女帝サマの髪は緩いウェーブだ。しかもキャラデザではふわりと横に広がっている。天然パーマだが、二次元仕様か爆発したりしない。

 つまり手入れがめちゃくちゃ楽なのだ。何もしなくてもそれなりにいつもの髪型になってしまう為、ついつい自然乾燥でてぐしで整えるくらいですませてしまっている。


「バレるわ!!アホ毛立ちまくり!!そしてシャツ!!収まりきれず、右の端からはみ出ている!!」


「うぉい、気付かんかった…」


「そして扇!!お店のタグつけっぱなしとか何なの?馬鹿なの?」


「いや、ついつい取るのが面倒で…よく見てるね」



 私の言葉に脱力したように、ヒロインちゃんはテーブルに突っ伏した。


「……なんでこんなアホが女帝サマなの……私は何の為にこの学園に……」



 ……なんか、胸が痛い。

 項垂れて呟く悲しげな声に、罪悪感を刺激される。

 やっぱり乙女ゲームのヒロインになんか転生したら浮かれるよね。イケメンズにチヤホヤされて幸せになるエンド期待してしまうよね。

 なのに攻略の必須条件である学園改革がそもそも必要ない状況だもんな…カースト制も何も出来てないし。私追い出しても、要の心労が減るくらいだし。


 なんてか、その、ごめんなさい。



 しかし私の罪悪感は、次のヒロインちゃんの言葉にぶっ飛んだ。


「私は『女帝様のおしおき』エンドを体験する為にこの学園にやって来たのに…っ!!」



 ……わっつ?




「バッドエンド1」、通称「女帝様のおしおきエンド」は、ヒロインがゲームの攻略に失敗した際に向かえるエンディングだ。

 女帝様を学園追放することに失敗したヒロインが、要に使用している犬の首輪を嵌められ、四つん這いで学園を一周させられる。

 最後には衆人環視のなか女帝様に赤いヒールで背中をぐりぐり踏みにじられるSMエンドだ。



 それを体験したかったということは……


「女帝様に蔑まれて、周囲から好奇の目で見られながら、犬扱いされたかったのに!!あの美しいおみ足で、踏まれたかったのに!!」



 …へんたいだあっ!!ドエムだああっ!!


 私は即座に要の陰に隠れて震えた。どうやら、ヒロインは恐ろしい人種だったらしい。

 とても関わり合いになりたくない。


「いや…でも中身がアホでも、スペックが女帝様なら調教次第では、理想の女帝様に…私の手腕ならきっと」


「ヒ、ヒロインちゃん、ここに優良S物件があるよ」


 恐ろしい独り言をのたまうヒロインに、私は要を押し出した。Sに調教されるなぞ冗談でない。


「傲慢にして、自信家。そして私がアホなせいで女帝サマの調教も受けていないから、どM属性も芽生えていない期待のサディスト!!私のことをボカスカ殴っていることからして、きっと肉体的にもSだよ。きっとヒロインちゃんが望む虐げ方をしてくれるよ!!」


「はっ!?アホ、てめぇ何を言いやがる」


 私は要をヒロインに売ることにした。私のわんこになるはずを勘弁してやっているんだ。これくらいの横暴、許されるだろう。

 要よ、私の代わりに変態の餌食になってくれ。

 君がヒロインによってどエスなマスターに変わっても、私は幼馴染をやめないし、会社の関係も存続させるよ。だから心おきなく危ない道に進んでくれ。

 

 しかしそんな言葉を彼女は鼻で笑い飛ばした。


「私は女王様に虐げられたいの。男なんてお呼びじゃないわ」


 どうやら彼女は私の想定以上の変態だったらしい。


「…よくよく考えると、アホをドエスの女王様に調教するというのも燃えるわね…その報われなさがどM心を擽るわ。学園に在籍している間で、貴方を私の理想の女王様に調教してあげる」


 私は女帝サマ(笑)…でなかった、女帝様です。女王様ではありません。

 獲物を狙うように舌なめずりするのをやめてください。にじり寄ってこないでください。


 

 正規ヒロインは、女帝様ファンのどMでした。

 Sに調教されそうです。助けてください。

 ついでに幼馴染から、赤ちゃんプレイも強要されています。

 変態ばかりです。普通なのは私だけのようです。


 私の明日は、どっちだ…。

最後の綾華の言葉は、当然突っ込み待ちです。


追記:要様変態説は、綾華による濡れ衣です。

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― 新着の感想 ―
[一言] 何その美味しいバッドエンド超見てみたい(*´﹃`*)
[一言] カオスww楽しいですw
[気になる点] この話を読んでいて、思わず口に含んでいたアクアビットを吹きだしてモニターが臭くなってしまったこと(笑) [一言] へ、へんたいだぁぁぁぁ! じゃなくて、た、たいへんだぁぁぁ! せかい(…
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