後継者争い開戦
会議が終わってから早速俺達は家族は南方領へと帰還した。
そこでニーゼ兄さんの葬式が簡易的に行われたあと家族会議が始まる。
「大陸の大勢は決した。これより大規模な戦乱の時代が幕を開ける。そこで今まで保留にしていた後継者の案を決定した。俺が主に中央からくる各方面を守っている間、三人で部隊を結成し、戦い、勝利した者を当主とする」
それがグランドロ家の当主の采配であった。
俺は唇を強くかみしめて俯く。
現状は争っている場合ではない。
しかし、それでも感情は納得できない。
それが人間というものだ。
「おや?アルスは反対しないのかい?」
バラザが不思議そうに俺を見る。
内心狂喜しているだろうこの男に俺は言葉を紡ぐ。
「……戦乱の時代が始まる今となっては弱い当主はいらない。父さん、そうですね?」
「そうだ。ゆえに俺はお前達に戦うことを、殺し合うことを命じる。早速準備を始めよ。俺も直ぐに出る」
そう言うと父はすぐさま部屋から出て行った。
ダラートも珍しく何も言わずに走って出て行く。
「楽しみにしているよ、アルス」
バラザも立ち上がり俺の隣までくると言葉をかけてきた。
そのまま部屋から立ち去っていく。
俺は一度目を瞑る。
そして再び目を開くと旧ニーゼ領、現アルス領に向かって走りだした。
俺は領地に着くなりすぐに領地の権力者を集める。
「この度、グランドロ家において世継ぎを決めるための部隊を率いての戦いが命ぜられました。諸君らにも協力して欲しいのです」
俺の言葉に権力者は決意したように頷いた。
迷ってはいけない。
今の俺の気持ちなど領地や領民にとって何の価値もないのだ。
「私が……グランドロ家の当主となる!」
心で泣き道化を演じて俺は兵を集め始めた。
「こんなに……」
領地内で募集をかけると二千を越える領民が志願してくれた。
「これもニーゼ兄さんがいてくれたから」
偉大な兄を心に浮かべ、俺は兵を纏めるために動き出す。
「歩兵が千五百、魔法使いが五百か。馬が使えないのは痛いな」
二千の兵を見渡して俺は考える。
機動力が乏しい。
けど、今はあいつらを呼び戻す時間もなければ外部を抑える戦力的にも厳しい。
決め手が足りない。
ダラートはともかくバラザをこの程度で討つのは厳しい。
ドオオオオオオオオオオオオオオオオンンンン!
「な!」
突如、爆音が響き渡る。
ニーゼ領を守る外壁が崩れる。
兵も何事かと慌てて崩れた外壁を見る。
そこには見たくも無い現実が存在した。
「ひっ……」
「大型の魔物が十体も」
兵がその姿を見て絶望する。
そのうちの一体、帝国でのみ見られ、初代皇帝が愛したと言われる騎乗用ドラゴン、カイザーワイバーンに乗るバラザ。
その他にもエビルキャット、クラウンモルスや先日倒したグランレックスの姿もある。
そしてその後ろには千人の敵兵。
余りにも早い。
バラザ領からここアルス領まで来るのにどんなに急いでも半日はかかる。
いや、こうなることがあらかじめ分かっていたからできたのだ。
「メインウェポン起動」
俺は腰の片手剣を大剣へと変形させる。
そして町の外で待つバラザに向けて剣を向けた。
「臆するな!先日私は何を瞬殺した!それを知る者達よ!あそこには何がいる!」
俺の言葉に一部の兵はグランレックスを思い出した。
「我にかかれば恐れるに足らず!我と共にかかれば負ける物無し!」
厳しいなのは当たり前。
勝てないかもしれないのは当たり前。
それを打破するには兵の士気を上げる必要がある。
「汝、勝利を望むか!」
「おう!」
一部の兵が大きな声を上げる。
「汝、守りたい者を守るため我と戦うことを望むか!」
「おう!」
先ほどよりも大きな声が響く。
「汝、勝者となりて南方領最強の兵となるを望むか!」
「おう!」
全員が声を張り上げる。
「ならば我は諸君に勝利を捧げよう!オーリ帝国南方領アルス・サウシス・グランドロが共に出る!総員!迎撃!」
「うおおおおおおおお!」
外に待つバラザ軍に向かって俺と兵士達、アルス軍は駆けだした。