会議と不穏
ほぼ全ての帝国領の領民が帝都へと集まっている。
言わずもがな皇帝の葬式のためだ。
今回のことに限っては近隣の敵対国も表立って行動することなく情勢を見定めていた。
中には敵対国でありながら律儀に供物や弔い金などを送ってくる国もあった。
そんな慎ましやかで壮大な葬式の後に敬愛するニーゼ兄さんの葬式もついでとして行われたとしても誇らしくあった。
葬式に参加するのは四方と中央を守る各将軍家やその家系も例外ではない。
むしろ国の重鎮として彼らは皇族に次ぐ権力を持っている。
彼らは八代皇帝の亡き後のこの国について意見をまとめる必要があった。
第一皇子と第一皇女、宰相と秘書官、そして近衛騎士団長を加えた五名、それと将軍達五人それに加えて従者と子息がそこに参加している。
南方領で言えば父、俺、バラザ、ダラートがいた。
他の将軍は右腕のみならず左腕もつれてきていたりするので結構な大所帯となっている。
父は将軍の中でも新米でもあり、頭が悪いのは周知の事実であるため有能な人材は父に付こうとは考えない。
それが今後の南方領の課題でもある。
落ち込んでばかりではいられない。
俺は旧ニーゼ領を守り、発展させる必要があるんだ。
「早速帝国の今後について話していこう。議長は私、中央将軍ガデナー・セント・ディレイバーが務める。よろしく頼む」
一同が頷いたのを見て中央将軍は話を始めた。
「現在の大陸の情勢下では、皇帝不在の状態はまずい。早急に九代皇帝を決める必要がある。誰かいないか?」
その不自然な言葉に俺は首をかしげる。
普通ここは第一皇子しかいないだろう。
何故、推薦という立場を取らせる?
しかも周りは一切反応しない。
あの父もダラートもだ。
何かあるのは確実だ。
「では、宰相。貴方は誰かあるか?」
「……ここに皇帝陛下の遺言状がございます。失礼ながら私が読ませていただきます」
ああ、遺言状があったのか。
それは誰も推薦したりしないだろう。
故人と言えど皇帝陛下の指示が書かれたものなのだから。
しかし、その手紙の内容は俺の予想だにしないものだった。
「私、八代皇帝ヴァルザル・ムラハ・ウレ・ゼント・オーリは九代皇帝を皇族の中から選ぶことを認めない。もし、皇帝となりたい者がおれば力をもってして再び帝国を支配し、新たな皇帝として名乗りをあげよ」
「は?」
俺は小さいながら声を出した。
しかし幸い俺の声は誰にも聞こえなかったようだ。
「領地は現在治めている者たちに委託する。中央に関してのみ王族と中央将軍の領地と分けることとする」
おかしい。
おかしすぎる。
何だこの遺言状は!
しかし同時に俺は理解した。
この場にいる皇族以外の全員が野心に溢れた目をしていることに。
父も各方面の将軍も、将軍の家族や部下も、近衛騎士団でさえも同じ目をしている。
こうなることは決まっていたのだ。
改竄された遺言状。
皇帝の死は合図。
新たな戦乱の始まりを告げる銅鑼だ。
そして旧皇族はもはや利用されるだけの存在か。
俺は目を閉じる。
現在のニーゼ領は内政に重視していたため、豊かになって領民は増えたものの境界線上では小競り合いが今もあり、部隊を派遣している。
都市部を守る戦力が足りない。
今のままでは……身内が攻撃してくる可能性がある今の状態では守りきることは到底不可能。
そこにさらに後継者選びまで本格化すれば……。
俺はごくりと唾を飲む。
後手後手に回っている。
俺に利にならない今という時は二人の兄弟の利となっている。
バラザは確実に動く。
ダラートもまた、この情勢ならば動くことをためらわない。
俺の家族同士で戦いたくないという願いは現実では、叶えられることは到底できなかったのだ。