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病弱な長兄

コンコン。


控えめに俺はノックする。

「どうぞ」

部屋の主の許可をもらって入ると優しげな笑みを浮かべた尊敬する長男であるニーゼ兄さんがいた。

トレーを見ると出された食事の皿は空になっている。

少し調子が良くなっているみたいだ。

「夕飯は食べれたんですね」

「うん。最近は少しだけ食べれるようになったよ」

ニーゼ兄さんは俺が三歳のときから一日の大半をこのベッドで過ごしていた。

そのため勉学や寝ていてもできるような魔法の特訓をしていたためか頭の回転も早く魔法使いとしても優秀。

さらには性格もいいときたら尊敬もするだろう。

「よかった。ところでニーゼ兄さん」

「なんだい?」

それゆえにこの体質さえなければと悔やむことばかりだ。

「明日盗賊の討伐があります。行きませんか?」

「……ふふ。残念だけど辞めとくよ。足手まといだしね」

卑屈なニーゼ兄さんを見て思わず俺は血が上る。

「そんなことありません!ニーゼ兄さんの魔法の実力なら移動もたやすく敵すらも楽に討てるでしょう!」

ニーゼ兄さんの空間把握能力は凄い。

岩盤を浮かせ、そこに寝そべりながら魔法を教えてもらった日々が今も鮮明に記憶に残っている。

「ふふ。それでも行かないよ。ありがとうアルス」

「く……」

しかし謙虚を通り越してこの人は卑屈だ。

でもそんなニーゼ兄さんだからこそ広大な南領を治めれるのに。

「兄さん!兄さんはその気になれば今の体でも十分家を継げるはずだ!頭だって能力だって高い!それは父さんやバラザ兄さんだって認めてるんだ!」

「目の前に僕並に頭が回転して、僕より魔法も使えて、はるかに健康な自慢の弟がいるのに継ぐ必要なんかこれっぽちもないさ」

心底そう思っているようで俺に全く陰りの無い笑顔を見せてくる。

この人はいつだってこれだ。


長男ニーゼは頭が良く魔法の能力が高いものの病弱で跡取りに俺を推している。

次男バルザは頭がいいが魔法の能力が低く、複数の付き合っているお嬢様方から情報や資金を入手し、俺を自分の下につけようと世話を焼いて優しくしてくる腹黒。

三男ダラートは頭が悪く魔法の能力は高いが自尊心が強く金遣いが荒いため当主にしないことを父は決めていることに気付かない愚鈍である。

四男の俺アルスは頭はニーゼ兄さんに劣るがバラザ兄さんより回り、四兄弟で一番魔法が上手く扱え、尊敬するニーゼ兄さんを後取りに推している。

このような状態で当主の父はというとダラートと瓜二つのような性格のため誰を跡取りにするか未だに決めかねている。

今の父の心情では恐らく、バラザ、俺、ニーゼ兄さん、ダラートである。


そんな父は三年前ある苦肉の策をした。

もともと読み書きすらできない頭がそんなによろしく無い父は単身敵軍の将に突撃するほど部下にも恵まれていなかったため、領地を三分割してニーゼ兄さん、バラザ、ダラートに与えた。

俺は当時成人していなかったため病弱のニーゼ兄さんの補佐としてその領地の内政を屋敷から出れないニーゼ兄さんの代わりに改革した。

それによりニーゼ兄さん、バラザ、ダラートの順で治める領地が評価される。

父とバラザは屋敷からニーゼ兄さんができることは限られているのが分かっていたからそれが俺の功績と考え、頭が父より僅かながら劣るダラートからは妬みを買った。

実際は俺が前世の記憶から使えそうな知識を出してニーゼ兄さんに細かな部分を指摘してもらって調整し、実行していたので二人の功績である。

今も領地は三分割されたままで日々変革を遂げており、俺もニーゼ兄さんに渡すためにいろいろ考えてやっている。

そして今のぎくしゃくしたグランドロ家が生まれたのだ。


「僕は知ってるよ。領民に厳しいことを言うアルスだけど領民は日々暮らしが良くなるから皆アルスに感謝してる。昔は僕の知恵を必要としていたのに今じゃほとんど必要無くなっている」

違う。

違うんだ。

俺はニーゼ兄さんに必死に追いつこうとしているだけなんだ。

今だってまだニーゼ兄さんを超えることなんてできていない。

「僕は君じゃないと家や領地を任せたくないよ」

「……嫌なんです」

嫌だ。

諦めないでくれ。

じゃないと俺は何を支えにしたらいいんだ。

それに。

「俺が継いで肉親同士で争うことになるのが。それが例えバラザやダラートでも!」

なんで異世界まで来て血の繋がった兄弟と殺し合わなくちゃいけないんだ。

俺が継ぐことに父は納得しても野心の強いバラザとダラートとはいずれ争うことになるのは確実なんだ。

だから俺がニーゼ兄さんの下につくことで二人を丸めこもうとしているのに……。


「ごめんよ」


兄さんの言葉は変わることが無い。

俺は悔し涙を流す。

このままじゃいけない。

でも俺は諦めない。

諦めたくない。

「また……来ます」

そう俺は言ってニーゼ兄さんの部屋を後にした。

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