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アサガオの咲いた日  作者: 玲瓏
四輪目
52/73

マコーレー夫妻が刻んだ言葉

 三日目の朝、俺は早々に書斎へと出向いた。昨夜のガンダレッドの小説を読み終え、確認すべき事項であると感じたためだ。

 別館から外に出ると、再び雪が降っていた。

 厚着でも、その寒さは肌を通して伝わってくる。

 屋敷に着き、ローランスがまだ別館で寝ていることが分かると、俺は寄り道なく書斎に向かう。

 蛇の紋章のついたノブを捻り、扉を開ければ、昨日と変わらない幻想的な世界が広がっている。

 しかし、今はその感動を吟味する程心に余裕はない。もう三日目なのだ。後四日のうちに解かなければならないのだから。

 甲冑を見てみると、確かに剣にはクローバーのマークが描かれている。そして、クローバーのマークの反対側には、手から剣へと文字が記されている。

 あの時、電車にのった時にローランスが寝言を覚えている。この文章は、その寝言とまさに同じ言葉であった。

 ローランスはここから先が解けないという。

『アサガオが咲く時、真相は芽吹く』

 無機質な文字だ。情緒もなく、ただ冷淡であるドイツ語に見える。

 それだけ確認すると、俺は書斎の扉を出た。

 別館に戻ると、今度はローランスの部屋まで向かう。扉をノックし、返事を待つこと一分程度。

「はい……おはようございます」

 欠伸をすると同時に、彼女が扉を開けた。随分と眠たそうにしている。

「一昨日あたり、電車の中で聞き込みの内容を書いてくれたんだったな。それを今見せてもらってもいいか」

「わかりました、ちょっと待っててください」

 彼女は部屋に戻ると、すぐに一枚のメモ用紙を手にして戻ってきた。

「これです。ドルフとアンちゃんの、親の聞き込みでよかったですよね」

「それでよかった。ダランがおおよその聞き込みを終えたら、この事件を三人で考えたい。何か、お前も推理の一つや二つ考えといてくれ」

 彼女は張り切って、はい、と声を出した。

 今朝はやけに体が動く事を自分で驚きつつ、自室に戻ってきた。暖炉の中にある薪に火をつけて、ベッドに横になる。

 基本、俺は無気力だ。何に対してもやる気に欠けてしまう。

 一番問題なのは、三日で全ての事に飽きてしまう、三日坊主なのだ。そのため、俺は焦っているのだ。

 今はまだ情熱が宿っているが、今夜にはもう消えているかもわからない。一度炎が消えてしまうと、再び燃えるのは難しい。石炭に火を付けるよりも。

 そして、炎が消えてしまうと頭を使うのが億劫になり、この事件の解決が絶望的になる。

 俺は、今はそれが恐怖となりつつあった。

 炎が消えれば、俺はローランスとダランを裏切ることになるのだ。客を裏切り、その果てには自身さえも裏切る結果になってしまう。

 人を裏切るというのは、耐えられるものではない。

 俺はその言葉や感情を表に出すことがないため、尚更冷めた人間に見られてしまうだろう。

 冷めた視線が俺を貫くのは構わないのだ。罵声を浴びせられたり、怒鳴られたりしてもそれは当然のことであり、恐怖の材料にはならない。

 ローランスが書いたメモは縦書きになっていた。日頃から縦書きをみることは少ない。どこか他人行儀のように感じられた。

 彼女はマコーレー兄妹の親の聞き込みを、以下のようにまとめていた。


 一、親は殺人を犯してから子供達とは一度も顔を合わせていない。

 二、子供達は、親である自分たちが殺人を犯したことを知らない。

 三、子供達の近況すら知らない。この時、兄妹が死んだという事は言わないでおきました。

 四、大会については初めて知った。ラドンという名前に覚えがなく、その他の参加者の名前も知らない。接点はなさそうです。

 五、マコトに見せた写真を二人が見ると、ラドンさんの顔は見覚えがあるといいます。しかし、深くは思い出せない。

 

 所々敬語が混ざっている不安定な日本語が微笑を誘う。字はかなり綺麗であるが、文章が変ならばその魅力はマイナスになる。

 しかしながらこのメモは大切だ。ラドンの顔がおぼろげても見覚えがあるということは、オースティンとラドンが共に生活していたことを裏付ける証明となる。

 この時、このメモが実は偽物で、ローランスが嘘のことを書いた可能性も考えたが、ここまできてしまえばその推理はもう不必要だ。一歩も先に進めなくなる。

 今必要なのは先に進むことだ。このメモに記された出来事が捏造か事実かを知るのは簡単なことではない。調べるにしても多大な時間を要する。

 それならば、信じる他ないのだ。

 もし裏切られたら、それもまた運命だと諦めるしかない。

 後はダランからの連絡を待つだけだ。全ての人物を終えてから屋敷に来て報告をしてもらう予定である。

 そうして俺はようやくこの事件のスタート地点に立つことができるのだ。 

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