夢の始まり
無意識の中で、夢を見た。
波がさざめく音を、一人、海の上の、透明な瓶の中で聞いていた。周りには人が誰もいないし、地上もないし、島もない。ただ波の流れに連れ去られて、進んでいく。
変わらない風景に退屈して、ふと足元の海を見下ろした。するとそこには、瓶の中に入った自分がいた。
どうやってこの光景を説明すればいいのかわからない。きっと、夢を説明しろなんて言われたら誰でもそうであろうが。努力して説明するとすれば、今目の前の光景は、水面に浮かぶ一人ぼっちがいる瓶の、鏡の姿だろう。
海の鏡に見える自分は、笑っていた。そして、その瓶の中にいたのは自分だけではなかった。ダン、モーニンガード、お母さんにお父さん。みんながそこで笑い合っていた。その瓶の中で笑い合っていた。一人ぼっちで寂しく海に置かれている瓶に気づかず。
一人ぼっちがいる瓶の中から、笑い合う瓶へ手を伸ばした。そっちに連れていって、楽しい世界に、連れていって。
手を伸ばしたところで、触れることはできなかった。
「なんで……」
もう一度、大きく手を伸ばしてみる。この時にはもう、夢を夢だと気づいていた。
届かなかった。一人ぼっちの瓶の中から、夢の中であっても、出ることはできなかった。そして、自分は夢の中でも幸せの世界にいくことができないのだと思い、ついに我慢していた涙を、流した。大声でわんわん泣いた。もしかしたらその声に気づいて、みんなが振り向いてくれるかもしれないと思って。