表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アサガオの咲いた日  作者: 玲瓏
二輪目
10/73

ガンダレッドの小説四 二月二十二日 夜

一体、なぜ、いつの間に。僕が出て行ってからここに戻ってくるまでの間は大体十五分程度。もしくは、それより少し早い。

なのになぜ、ミアンナはいまこうしてここにいる? それも、手足を縛られて。眠って。

 もちろん僕がミアンナをこの手で縛っていた訳じゃない。縛る理由なんかあるものか。

「おい、おい! 大丈夫か、ミアンナ!」

 大声で呼びかけて、ようやくミアンナの閉じきった瞼は開かれる。

「何があったんだ、おい」

 今のミアンナを表現するには、ぼんやりとした顔の眠そうな猫と言った方がいいだろう。そのため、完全に起きるまで探究心を我慢しなければならなかった。その間に様々な細胞を光らせ、そして行き先がわからないと知ると散っていった。

 その光が散るころ、ようやくミアンナは立派な人間の顔を取り戻した。

「あれ、私……。どうして、ここに?」

「俺はそのことで今深く悩んでる。そして、その答えはお前が教えてくれると思ってたぜ。だから少しは期待した。が、現実はそう都合よくできてねえみたいだな」

 静かに舌打ちをした。考えることは好きだが、できればあまり余計なことで頭を使いたくなかったからだ。碑文や、ミドルラードさん達のこと、そしてモーニンガードで頭一杯なのだが、ここにきてまた一つ疑問が増えたからだ。

 違う、これは疑問という言葉で記してしまっては、それはあまりにも愚かだ。これは疑問ではない、事件だ。立派な事件。

「お前はここで、縄で縛られて眠っていたんだ。そのまんまの状態のお前を、俺がいない間に誰かが運んできたということになる」

 しかも、十五分の間に。

「一体誰が?」

 半ば消えた望みの中、僕の声は小さいながらも自然とそう言っていた。

「ううん、わからない」

 気づいたことがある。今までミアンナのことを気に留めていたため気付くことができなかったが、僅かながらの安堵と大きな失望を理由に横を向いた。そこで、気づいたのだ。

 窓が、開いている。反射的に僕は窓に飛びつき、外を見た。もしかしたらまだ、そこに何かが残っているかと思って。結果的に何も見えなかったのは、それもまた大きく失望する要因となってしまう。

「ごめん、何も思い出せないわ」

 ため息をついた僕を見て、ミアンナはそういった。それにしても落ち着いている。

「お前、そんなめにあってるってのに随分と怖いもの知らずな顔をしてるな。怖くないのかよ」

「一人だったら怖かったでしょうね。だけれど今は、一人じゃないから」

 そんなことを言っている場合か。心の中でぼやいた。だが、いつものミアンナのことを思うと、例え死にかけていたところで冷静さは見失っていないだろう、と思う。なにより、ミアンナは寝ている間にどうやら縛られたようで、その点でも彼女はさほど恐怖を感じていないだろうと思える。ここは、僕を安心させた。

 すると、廊下をドカドカと走る音が聞こえた。何やら慌てふためいているようで、何事かと思っているうちに僕の部屋のドアが開いた。

「おいガンダレッド、なんだよこれ」

 ドルフだった。アンの手をとって、急いでこちらに向かってきたらしく息が荒んでいる。そのドルフの手には、先ほど自分の部屋のドアにも挟まれていた紙切れを手にしていた。

「こんな悪戯するの、お前だけだろ。さあ言え、目的はなんだ」

 半ば怒りかけているドルフの顔に向けて同じ紙を振ってみせる。特徴的な紙ではないため、最初はドルフはそれを見ても納得のいかないような顔をしていた。そのため、近づけてやるとその顔は歪む。

「こ、こりゃ……。同じ紙だな」

「ああ、そうだぜ。まったく同じ奴が俺のとこにもきていた。そいつに限っては俺の仕業じゃねえよ」

 ミアンナ話がわからない様子でこちらを見ている。

「ねえちょっと、それ、見せてよ」

 そう言われたので、紙をミアンナに手渡す。

 どうやらミアンナにも思い当たることがないようで、首を傾げただけで終わってしまった。

「不気味です……。私、怖いわ」

 いつも兄の前では強気なアンが、今は顔をひきつらせて弱気になっていた。

「少し物騒だもんな。復讐を誓うってくらあ。おい、ガンダレッド。この紙に書いてあるジョーカーってのはなんなんだよ?」

「知るもんかよ」

 今はその、ジョーカーのことよりもミアンナがなぜここにいたのかが気になって仕方がない。しかし、どう考えても答えを絞り出すことはできなかった。

「オースティン、なのでしょうか」

 なんだって? という顔で、全員がアンのことを見る。

「この手紙を出したのは、オースティンなのでしょうか」

「バカだな、アン。まさかオースティンがいるわけないだろ。あんなのはラドンさんがでっちあげた空想だよ。あの人、やたらと僕たちを盛り上がらそうとしてくれるからな」

「だけどお兄ちゃん、じゃあ誰が……?」

 ドルフは言葉に詰まった。続いてアンは僕をみて、疑問の眼差しを向ける。

「分かったぜ、これはラドンさんの悪戯なんだ。余興にすぎないんだよ」

 その言葉のおかげか、固まった表情をしていたアンは飴が溶けるように顔を和ませていった。

「確かにそうね、ラドンさんならやりかねないかもしれないわ」

 ミアンナも同調してそういう。焦ったように。

「……そうか、ならいいんだけどよ」

 その時、扉にノックがかかった。

「誰だ?」

「ガンダレッドさん、おられますか? ダンです」

 冷静を長所にしているダンの声は、今は上ずっていた。その声を聞いただけで事情は察することができた。

 声をかけて扉を開けると、驚いたことにダンだけではなく、モーニンガード、オフィーリアまでも揃っていた。

 やはり、全員の元に紙切れが送られていたようだ。その紙が僕たちの元にも同じようにして届けられていると伝えると、全員はやっぱり……と息を同調させた。そして先ほどの、ラドンさんの悪戯ではないかと陳腐な説をあげると、それが驚いたことに功を成して、焦り気味な三人を落ち着かせることができた。ただモーニンガードはなんだかこの紙に興味を惹かれているようで、まるで台風の中はしゃぐ子供みたいに、この状況を楽しんでいるように見えた。

「とりあえず、明日ラドンさんに聞いてみましょうぜ。夜はあっちには行けないし、今日は休もう」

 僕のその一声によって散り散りと各は部屋に戻っていった。

 ミアンナも部屋を出て戻ろうとしたので、その手を掴んでまだこの部屋に残るように指示した。

「何? 私、全然覚えてないし、正直何が起こっているのかわからないのだけれど」

「いいんだ。碑文について話し合うって、そう言ったろ」

「いいけど……」

 眠気覚ましの紅茶を用意し、僕の部屋で二人、話し合うことになった。その時、時計は十一時二十分頃だったはずだ。

「これはただの、俺が因縁をつけて考えてるだけだが、ちょいと付き合ってくれ」

 ミアンナは紅茶を飲みながら、首を縦に振った。

「今日の昼にいった、トランプ説についてだ。実際これは俺もよくできた方だと思う」

「分かったわ、話して」

「トランプにある色は赤、黒だ。しかし一般的なトランプを考えると背景は白。だからトランプは全体的に、赤、黒、白という連想が可能なのだが……」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ