第五話『対決』
「もぐもぐ。にゃあ、ミーにゃん」
「もぐもぐ。なぁに? ミアン」
「ぜいたくを言うようで悪いのにゃけれども、なにかもう少し、おなかがもっちりとするものが食べたいものにゃ」
「本当、ぜいたくだわん。他になにか持ってこなかったの?」
「持ってきたのは首に巻きつけた風呂敷の中身だけにゃんよ。食べ物はここまでにゃ」
「じゃあ、諦めなさい。赤玉ゼリーはまだ残っているんだし、ちびちび食べていけば、読み終わるまで持つわん」
「にゃけども……」
がさごそ。
「うん? なに今の?」
「確かドアの向こうから聞こえたような気がするのにゃけれども」
「ミアン。なんか怖いわん」
「ミーにゃんはここで待っているのにゃ。ウチが見てくる」
ずぼっ!
「あっ、待って。危険があるかも知れない……、あぁあ。行っちゃったわん」
「ふにゃああああ!」
「ミアン!」
ずぼっ!
「きゃあああ! ……ってミアンじゃない。脅かさないでよ、もう。
……あれっ、なんなの? その白いもの。取っ手部分みたいなところを口にくわえているみたいだけど」
「ドアの外にこの白いかごが置いてあったのにゃん」
「へぇ、これが。あの物音は誰かがこれを置いたからなのね。さっき外へ行った時にはなかったもん」
「かごの上には、花の模様が描かれたピンク色の布がかぶさっているのにゃ。
……うん? ミ、ミーにゃん。にゃにやら香ばしい匂いが」
「ミアン。布を取り払うのはちょっと待って。かごの端のところになにか紙がさしてあるわん」
「紙? ああ、これだにゃ。一体なんにゃろ?」
ぺらっ!
『差し入れの「たい焼き」です。お口がさみしくなったら、食べてください』
「にゃ、にゃんと!」
ひらっ!
「こ、これは! 見まごうことなく、たい焼きにゃん。し、しかもあつあつ。もう、たまらないのにゃん!」
「あっ。待ってよ、ミアン」
「ふにゃあああ!」
ばたっ!
「ミ、ミアン、どうしたの! 毒でも入っていたの?」
「あ、あんこが……」
「あんこが?」
「熱すぎたの……にゃん」
「……そりゃそうだわん」
「ふぅ。困ったのにゃあ、なにしろウチは」
「ウチは?」
「猫舌だし」
「ごもっともだわん。それじゃあ、しょうがないわん。もう少し冷めるまで」
「冷めるまでどうするつもりにゃん?」
「第五話へ突入よ!」
「まぁ、それもいいけどにゃ。さて、お次の話はどんな……、
はっ! ミ、ミーにゃん!」
「うん? なによん? ……うわぁっ、やっ、やったぁ!」
第五話『対決』
突然、すぅぅっと、壁から猫が現われる。
(あっ、ミアンだぁ!)
やっとやっと逢えたわん。
「ネイルにゃん。ラミアにゃんは気がついたのかにゃ?」
「ええ、ミアンさん。もう大丈夫みたいですよ」
「それはよかったにゃ。……うん?」
ミアンは、『ミアァン、こっち向いてぇ!』と、きゃあきゃあ、手をふっているアタシに気がついたらしい。それなのに、
「…………。じゃあ、ネイルにゃん。またあとで」と再び、壁の中へ消えようとしている。
「こらぁ! お待ちなさぁい!」
アタシはその背中に、がばっ、としがみつく。
「ミアン。親友がわざわざ来ているのに、なんで逃げるような真似をするの!」
「ミーにゃん。これは真似じゃにゃくて、実際に逃げようとしているのにゃけれども」
「だから、どうしてなの? さっぱり判らないわん」
「やれやれ。困ったものにゃん」
ミアンは尻尾を長く伸ばしてアタシの身体に巻きつけると、顔の前にぶらさげたわん。
「おはよう、ミーにゃん。今日も元気かにゃ?」「おはよう。元気だわん。ミアンは?」
「もちろん、元気にゃよ。ところでミーにゃん」「なによん、ミアン」
「今朝もまたあれをやる気かにゃ?」「当然だわん」
アタシの返事を聞くや否や、ミアンは、ふぅ、とため息をつく。
「それで前座のお芝居はどうする気にゃん?」「聞くまでもないわん」
はあぅ。ミアンは更に深いため息を。
(ミアンったら、ため息ばかり。このままじゃあ、いつまで経っても埒があかないわん。よぉし。こうなったら有無をいわさずやっちゃえ!)
「さぁ、ミアン。最初からやり直しよぉ!」
はああぅ。ミアンは更に更に深いため息をつく。
……壁から現われた猫は、アタシをふり向いた。
「はっ! あ、あんたは!」
(ふぅん。嫌がっていた割には、台詞と身がまえる仕草が完璧じゃない。どれ、アタシも)
「そういうあなたは!」
アタシも目の前にいる猫の姿に、思わず身を固くする。
「ば、化け猫ミアン!」
「にゃにおぉ、精霊イオラにゃんの箱入り娘。甘えん坊妖精ミーにゃんめ!」
「なにおぉ!」
(いうにこと欠いてなんてことを。確かに打ちあわせの時、台詞はなんでもいいっていったわん。だけど、なんかむかつくぅ)
もはや気分は本気モード。両手に拳を握りしめ、戦いのポーズをとるアタシ。一方、ミアンも二つ足で立ち、それを迎え討たんとしている。
きらぁん! きりっ! 妖精対化け猫。互いの目が輝き、闘志をむきだしにする。
(ミアン。前座の芝居はこれにておしまい。ここからが本番よ)
バトル開始!
「ミアン、勝負よ!」「ミーにゃん。受けてたつにゃよ!」
先制攻撃を成功させることこそ、勝つことへの近道。アタシは翅を拡げる。
「勝利はアタシのもの。ミアン、いくわよ! 『妖力波拡散』!」
ざぶぅん!
アタシの身体中から放たれた白色の霊波が大きな波に。
「ミーにゃん。そんなもので負けるわけにはいかないのにゃよ。それっ、『ねこねこ波散開』!」
ざざぁん!
ミアンから放たれた水色の霊波も大きな波に。
二つの大きな波がぶつかりあう。
ばざぁん!
「うわぁん!」「ふにゃあ!」
アタシたちは跳ねかえってきた自分たちの霊波に巻きこまれ、きりもみ状態に。
「はぁ、はぁ、はぁ。く、くやしいわん。相討ちなんて!」
「ふにゃ、ふにゃ、ふにゃ。お、おにょれ、ミーにゃん!」
「……でも、ミアン。ちょっと休まない?」「ウチも賛成にゃよ、ミーにゃん」
束の間の休憩をとったあと、アタシたちは再び対峙する。
「まだまだよ、ミアン。勝負はこれから。『妖力眼光弾』!」
ばきゅぅん!
「その手は食わないにゃ。これでも受けるがいい。『ねこねこ眼光線』!」
びぃっ!
アタシの目から放たれた光弾と、ミアンの目から放たれた光線が衝突。
ずばばばばぁん!
「ううわわわぁん!」「ふふにゃにゃにゃあ!」
アタシたちは爆発の勢いで、それぞれが反対方向へ、くるくる、と転がった。
「な、なかなかやるわね」「ま、またしても互角にゃんて」
ぜいぜい。ぜいぜい。アタシとミアンは早くも息切れ寸前の状態。
「ミアン、タンマ(休みたい)」「ウチも、にゃ」
アタシは休みの間、こんなことを考えた。
(元々アタシは小柄だし、それほど体力に自信はないわん。この化け猫と張りあえば、最初のうちは互角でも、やがては)
心は決まった。自分からいいだした休みを強引に打ちきり、またまたミアンと対峙。
「ええい! この闘い。妖精としての意地に賭けても負けるわけにはいかないわん。
ミアン、これが最後よ! 『妖力爆風波』でとどめを刺す! 妖力充填!」
アタシは妖力をためこむ。完全に充填が終われば、二枚翅から強力な妖力波が放たれる。
(ふふっ。背中の翅が輝き始めたわん。この勝負、もらったぁ!)
「おにょれ、ミーにゃん。切り札を使うつもりかにゃ。こっちも負けるわけにはいかないのにゃよ。『ねこねこ砕撃破』で返り討ちにゃん。ねこねこ力充填!」
二つ足で立っているミアン。四肢を拡げている彼女の身体全体が水色へと変化。輝きを増していく。
「ミーにゃん。降参するなら今のうちにゃよぉ!」
「ミアン。それはこちらの台詞だわん!」
ぶぉぉっ! ばぁぁっ!
「ミアン! 充填はもうじき完了するわん」「ウチの方もにゃ。ミーにゃん!」
ならばと、それぞれが切り札を放つかまえに入る寸前。
ごつん! 「あっ、痛たたた!」
ごつん! 「ふにゃあっ!」
「君たち。さっきからなにをしている。診療室は騒ぐところではない」
セレンさんにげんこつで頭をたたかれ、怒られた。
「ごめんね」「ごめんにゃ」
アタシとミアンは並んで謝った。
(忘れてたわん。そういえばセレンさんって、アタシが見えるんだっけ)
いざという時の場合、アタシはミアンだけを残して逃げるつもりだった。その英知を結集したともいえる目論みが、たった一つの見落としだけで、ものの見事に瓦解した。
(もぉう。くやしいわん。くやしいわん)
そこには地団駄を踏むアタシの姿があった。
「……おかしいわん。『イオラの木』は数万年もの間、この村で生きつづけてきた最長老の樹木。イオラはそのイオラの木に宿る精霊。そんでもってアタシはそのイオラが造りだした妖精なのよ。言わば、数いる精霊の中でも、名門中の名門の出の筈だわん。それなのにどうして、今は化け猫とは言え、前身が普通の猫であるミアンと同じ力なの?」
「……おかしいにゃん。同じ霊体とは言っても、ウチとミーにゃんでは体格差がありすぎる。当然、ウチの方が多くの霊力を使える。それにゃのに、何故、こうも力が均衡しているのにゃろう?」
「うん?」「うん?」
「……あははは」「……にゃははは」
「ふぅ」「ふぅ」
「まぁ、そんなのはどうでもいいけどにゃ……。
それにしても、ついにウチが、このどうしようもないお話に現われてしまったのにゃん。しかも、今まで謎のベールに包まれていた正体があばかれようとしているみたいにゃし」
「謎のベールって……。単に化け猫だって言うだけのことでしょ? そんな大げさに騒ぐほどのことじゃないわん」
「それもそうだにゃ。それにしてもミーにゃん。……じーっ」
「な、なによん!」
「はぁふぅ」
「なんなのよ、アタシの顔をじっと見たかと思えば、深い溜息なんかついたりして」
「別にぃ。ただ、どの世界でもミーにゃんはミーにゃんだにゃあ、と思って」
「なに言ってんのよ、アタシがアタシでどこが悪いのよ」
「はぁふぅ。……にゃからお守りが大変なのにゃあ……」
「うん? よく聞こえなかったわん。もう一度言いなさい、ミアン」
「はぁふぅ」
「んもう!」




