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天空の村・アタシはミーナ  作者: シード
41/42

第四十話『増える友だち』

「ミーにゃん。唐突なのにゃけれども」

「なによん」

「ミーにゃんには、ウチが『ねこ』に見えるのにゃろ?」

「うん。どう見ても『ねこ』だわん」

「ところが、にゃ。ミーにゃん、よく聞くのにゃよ」

「(な、なに? ミアンが毛むくじゃらの顔をアタシのすぐ目の前につきだしたわん)

 う、うん」

「実は、にゃ。……ウチはミーにゃんと同じ花の妖精だったのにゃん!」

「うん。知っているわん」

「にゃ、にゃんと! いつにゃん! いつ、どこで知ったのにゃん!」

 ぐぐっ。

「く、苦しいわん、ミアン。首を持ちあげるのをやめ」

 はっ!

「……ごめんにゃ、ミーにゃん。それで? 一体どうしてにゃん?」

 ぜいぜいぜい。

「あのね……。アタシにそんなことを教えてくれる誰かさんっていったら、イオラぐらいしかいないじゃない」

「にゃんと!」

「えっ。そこでも驚くの?」

「ぶふふっ。にゃんにゃんにゃん。いやあ。この際、もう一回ぐらいは驚いたふりをするのも悪くにゃいのでは? と思ったのにゃん。ウチもにゃかにゃか可愛いところがあるにゃろう?」

「ふぅ。よけいなことを。

 あと、ミアンって寝ている最中に、花の妖精の姿に戻ることがあるの。知ってた?」

「にゃんと!」

「ふふっ。今度は本当に驚いたみたいね。

 このことはイオラやアタシはもちろん、ネイルさんも知っているわん」

「にゃにゃんと! ネイルにゃんも。知らにゃいのはウチばかり、だったのにゃん。でもにゃんでネイルにゃんは、ウチにそのことを話してくれなかったのにゃろうか……」

「ああ、それ。アタシが、黙っていたら? っていったの。ミアンが知られたくないみたいだったから」

「ウチが知られたくにゃかったのはミーにゃんだけにゃん」

「どうして?」

「もし知ってしまったら、『ええっ! どういうことなの! ええっ! 全然わっかんない!』、にゃんて混乱したあげく、小さな頭がふっ飛ぶんじゃにゃいかと思ったのにゃ。夢でそうなっちゃったミーにゃんを見たことがあってにゃ。ウチはもう怖くて怖くて」

 がくがくがく。

「ゆ、夢と現実を、ご、ごっちゃにしないでもらいたいわん」

 ぶるぶるぶる。

「そ、そればかりじゃないのにゃよ。顔が半分ににゃったミーにゃんがウチの方へ来て、『ねぇ、遊ぼぉっ』って静かな声で」

「きゃあああ!」「ふにゃあああ!」

 がくぶるがくぶるがくぶる。

 たらぁりぃ。たらぁりい。


 ふきふきぃ。ふきふきぃ。

「にゃあ、ミーにゃん。ウチら、読書の間へ入って、これが二回目のおもらしにゃ」

「ミアンがおどかしたのがいけないんじゃない。

 でもまぁ、きれいにふきとったし、またまた証拠隠滅完了だわん」

「それじゃあ、ウチは雑巾を片づけてくるのにゃん」

「アタシのもお願いするわん」「いいにゃよ」

 ぽい。

 ぱくっ。

「行ってくるにゃよぉ」

 ずぼっ。

「本当。もわんもわんな身体のくせに、身軽な『ねこ』さんだわん」

 ずぼっ。

「帰ってきたのにゃよぉ」

「お疲れさまぁ」


「ところでミーにゃん。ミーにゃんは何故ウチが花の妖精かは知っているのにゃん?」

「まぁ、イオラから聴いたことは聴いたんだけど……、話がこみ入ってて判りづらいの。ようするにあれなんでしょう? このお話に登場するミーナの世代では、ミアンは普通の『ねこ』として生まれたのよね」

「本の内容も、そういうことになっているにゃ」

「で、ここからは本に記憶されていることより、ずっと先の話になると思うんだけど……。

 長い歳月を経たのち、……あんまりいいたくはないけど、ミーナとミアンは滅んじゃったわん。そこで……、ここらへん、イオラもはっきりとは理由をいわないんだけど……、とにかく、いつものように次世代のミーナを造るだけじゃなくて、ミアンも造ることにしたの。そうよね?」

「イオラにゃんがウチを造ろうとしたのは、『次の世というものがあるのにゃら、またミーにゃんに逢いたい』と思っていたウチの願いを受けとめてくれたからにゃと思うのにゃん」

「へぇ、そうなの?」

「確か、とまではいえないのにゃけれども。そんな気が、というか、何故かそう思えてならないのにゃん」

「ふぅん。もし、本当に当時のミアンがそう思ってくれていたのなら嬉しいわん。

 まぁそんなわけで、次世代のミアン以降は、普段は『ねこ』の姿だけど、本当は花の妖精として生まれているのよね」

「今のウチが何故『ねこ』の姿ににゃっているかといえば……。花の妖精である自分に違和感を覚えるからにゃよ。不思議にゃことに、元々ウチには、『ねこ』に変化へんげできる能力が備わっていた。違和感がある程度まで大きくなるとにゃ。自然とこの姿ににゃってしまう。するとにゃ。違和感がまったくなくにゃるばかりか、この姿以外の自分は自分でにゃい、とさえ思うようになるのにゃ。イオラにゃんの話によれば物心がつく前からこの姿ににゃっているというから、本能がそうさせているのかもしれにゃい。前世代や前前世代のウチもきっと同じ考えで『ねこ』に、と思うのにゃん」

「アタシも本能のせいかな。ミアンが花の妖精だと知ったあとも、いや、やっぱり『ねこ』だわん、って否定する自分がいるの。だからその姿でいいわん」

「そういってくれると嬉しいにゃん。イオラにゃんからも、我慢しにゃいで自分が望む姿でいにゃさい、みたいにゃことをいわれている。ありがたいことにゃん。

 ただ……本来にゃらば、ウチらは姉妹ってことになるのにゃろうけども」

「特にそういう意識をしたことはないわん。これも本能のせいなのかな。ミアンはアタシにとって親友以外の何物でもない、って思っているわん。ミアンはどう思っているの?」

「ウチもそんな感じにゃ。姉妹っていわれても、にゃにかぴんとこないのにゃん」

「いいんじゃない、それで。アタシたちはイオラが生きているかぎり永遠の関係。永遠の親友同士。過去も今もそして未来も」

「うんにゃ。ずっとずっと仲良くありたいものにゃん。

 さて。ウチらの話はこれぐらいにして、と。それではミーにゃん」

「うん。第四十話へ突入だわん!」

「…………」

「あれっ? つっこまないの?」

「なんにゃろう。昔のことを想いだしたせいなのにゃろうか。無性に懐かしさがこみあげてきたのにゃん。

 ミーにゃん。しばらくは静かに、しっとりと落ちついて読書を楽しもうにゃん」

「うん。それがいいわん」

 第四十話『増える友だち』


「おい、セレン。ネイル」

 ラミアさんは、立ったままでお茶を飲んでいる二人に声をかける。

「なんだ?」「なんでしょう?」

 ラミアさんはアタシを右手に乗せ、近づいてきたセレンさんたちの前に差しだす。

「ほら。ここにいるのが今度新しくあたいの友だちになった妖精の」

「ミーナだな」「ミーナさんですね」

「……二人とも知っているのか?」

「はい。つい先ほどお友だちになって、握手をしたばかりなんです」

「そうか。ネイルとはもう友だちになっていたのか。

 ……それにしても、セレンも知っていたとはな」

「ああ。この病院に初めて現われた時から知っている」

「そうだったのか……。でも友だちではないんだろう?」

「いや、既に友だちだが」

「ええっ!」

 セレンさんの一言に、彼女以外の全員が驚きの声をあげる。

「でも……」

 アタシはいってみた。

「アタシ、セレンさんとまともに話をしたのは初めてここに来た時だけよ。それも、『誰だ、君は』っていわれたから、それじゃあと思って勢いこんで名前をいったら、『そうか』、だけで終わっちゃったの」

(今日は珍しく怒られたり、それに訴えたりもしたけどね。あれは会話とはいえないわん)

 このあとセレンさんが返した言葉に、アタシは自分の耳をうたがった。

「そのとおりだ。我が声をかけて君はそれに応じた。その瞬間、友だちになったのだ」

「ええっ! たったあれっぽっちで」

 アタシは驚きを隠せない。

「セレン。お前って前から変なやつだとは思っていたが……」

 ラミアさんもあきれている。

「ちょっと、ラミアさん、ミーナさん」

 後ろの方でネイルさんがなんかあわてたように手招きをしている。

「なんだよ? ネイル」「なんなの? ネイルさん」

「ラミアさん、ミーナさん。先生を普通の人の常識や感覚でとらえちゃいけません。先生がああいう以上、間違いなく先生にとってはその時がミーナさんと友だちになった瞬間だったんです。お二方の気持ちはよく判りますが、どうか先生の意をくんで、『そうだな』といってください」

「ネイル、そんなことをいったってなぁ」

「ラミアさん。別におどかすつもりはありませんが、ここでへたに反論したり否定したりすると、あとが大変ですよ。なにをしでかすか判ったもんじゃありません。ここは一つ僕の顔にめんじて納得してもらえませんか。それでみんな丸く収まるんですから。

 ……平和が一番ですよ。そうは思いませんか?」

「……その方が無難みたいだな」「……そうね。ネイルさんのいうとおりだわん」

 アタシたちはネイルさんの言葉に賛成した。

「どうしたのだ。君たち」

「い、いいえ、なんでもありません。

 先生。ラミアさんもミーナさんも、先生が友だちであることを認めてくださいました」

「そうか。理解してもらえたか。……安堵した」

「ええ」「ああ」「うん」

 ネイルさん、ラミアさん、それにアタシがそろってうなずいた。

(そうね。平和が好きだもの)


 がちゃ。

「やっぱり、まだみんないましたね」

 休憩室に女の子が入ってきた。ちょっと丸みをおびた愛らしい顔には、嬉しそうな表情が浮かんでいる。ラミアさんが、『よぉ』と声をかけると、そちらへと足を運んだ。

「ラミアさん。それにみなさんも、今日はありがとうございました」

「お礼はもういいよ。それよりマリア。アムちゃんたちはどうした?」

「もうぐっすりと。寝顔を見ていたらこっちまで眠たくなってきましたよ」

 ふあぁあ、と口に手をあて、大あくびするマリアさん。

「あれっ、珍しいね。マリアちゃんが首飾りを服の外に出している」

「ああ、これですか」

 レミナさんに指摘され、マリアさんは鎖を首にかけたまま飾り具を手の上に置いた。

「アムが見たいっていうものだから……」

 レミナさんとラミアさんがマリアさんの手元を、じぃっ、とながめている。

「ねぇ、マリアちゃん。飾り具に埋めこまれているこの紅い石、とってもきれいだね。どうやって手に入れたの?」

「さぁ。この飾り具は、うちに先祖代々受け継がれているものらしいんですけど……、これをくれたお祖父さんもそれ以上のことは知らないみたいですよ」

「なぁんだ」

 がっかりしたようなレミナさんにラミアさんは声をかけた。

「でも確かにきれいだよな。レミナ、お前の赤い石といい勝負じゃないか」

「だめだめ。全然だよ」

 レミナさんは勢いよく首を横にふる。

「輝きがまるで違うもの。マリアちゃんの持っているのは、なんていうかな。高級感にあふれまくっているんだよ。ほしいなぁ。

 ねぇ、マリアちゃん。いつでもいいからさ。いらなくなったら声をかけてよ」

「すみません、レミナさん。多分、そういう日は永久に来ないと思います」

「だよねぇ」

 レミナさんはテーブルの上に座って、ふぅ、とため息をつく。

「仕方がないだろう、レミナ」

 しょうがないやつだな、といわんばかりの顔をレミナさんに向けたあと、ラミアさんはマリアさんへと視線を移した。

「マリア。きれいなものを見せてくれてありがとうよ」

「いいえ、これくらいならいつでも」

 マリアさんは飾り具をえりの奥へと収めた。

「そういやあ、ネイル。お前もあんな石を持っていなかったっけ?」

「腕輪の石のことですか? 大きさは同じぐらいだけど、あれは緑色ですよ」

「今日はしていないんだな」

「ええ。僕もお祖父さんから頂いたものです。お祖父さんの命日にだけ、はめることにしています」

「あっ、すまん。気にさわったならかんべんな」

「かまいませんよ。お祖父さんが亡くなったのは、ずいぶんと前のことですから」

「ラミアにゃん」

 うとうととしていたのか、黙ったまま、うずくまっていたミアンが声をかけた。

「マリアにゃんにもミーにゃんを紹介してもらえないにゃろうか?」

「うん? ああ、そうだな。マリア、ほら」

 ラミアさんは再びアタシを手のひらに乗せ、マリアさんへと差しだす。

「はい? ラミアさん、なんかほしいものでも?」

 きょとんとした顔でマリアさんはラミアさんを見つめている。

「いや、違うんだ」

 あわてて手をふるラミアさん。

「実は今、あたいの手のひらに『ミーナ』っていう妖精がいるのさ。ここにいるみんなが友だちになったんだけど、お前もならないかと思って」

「ミーナさん? ひょっとして」

 マリアさんはミアンに顔を向ける。

「ミアンさんのお友だちの? 確か以前、聞いたことがあるような気が」

「さすがはマリアにゃん。よく覚えていてくれたのにゃん。どうにゃろう? マリアにゃんにも友だちになってほしいのにゃけれども」

「それは一向にかまいませんが……、すみません。アタシには見えないんですよ。どうしたらいいのでしょう?」

「マリア」

 ラミアさんが口を開きます。

「あたいの手のひらにそっと手を伸ばしてくれ。そうすりゃあ、指先になにか感じるはずだから」

「感じるって……、まさか、しびれるとか……」

 マリアさんの顔にはおびえた表情が浮かんでいる。

「あっ、それはないから。安心していい。さぁ、やってみな」

「そうですか。それなら」

 マリアさんは恐る恐るといった感じで右手を差しだす。

 そぉぉっ。

「ええと、こんなもんで……、あっ」

 マリアさんの手がアタシの手に触れた。

「ラミアさん、ミアンさん。感じました。感じましたよ」

「それがミーナの手なんだ。友だちになるしるしに握手をしてくれないか」

「頼むにゃよ、マリアにゃん」

「これがミーナさんの……。判りました」

 マリアさんはラミアさんの手のひら、つまり、アタシに向かって喋りだした。

「ええと……。ミーナさん。私はマリアといいます。ここにいるみんなと同じように、私の友だちになってもらえますか?」

 はっきりとは判らないだろうけど、マリアさんは今、アタシの手を握っている。

「アタシはミーナ。喜んで友だちにならせてもらうわん」

 アタシの言葉を耳にしたラミアさんがマリアさんに話しかける。

「マリア。ミーナが友だちになるって」

「そうですか。……ありがとうございます。ミーナさん」

「よかったにゃあ、ミーにゃん」

「うん。よかったわん」

 アタシも含めて休憩室にいる全員が笑顔になった。


 アタシは霊体。ミアンのような実体波を持たないアタシは、形あるもの、つまり、実体に触れることはできない。つきぬけてしまう。でも、自分の身体にまとっている霊波を強めることで、触れる、あるい感触を味わう、ことができるようになる。人の手に触れたり、岩の上に足をおろしたりできるのはこのため。でもミアンにいわせると、これらは実体波をとおして触れた場合とは全然違うらしい。生前の時と変わらないくらいの感触を覚えるというから、ますますもって実体波を使ってみたくなる。

(折角、銀霊お母さまがくださった能力。早くイオラに実体波の使い方を教えてもらわなくっちゃ)

 切にそう願うアタシがそこにはいた。


「じゃあ、セレンもマリアも友だち……と。あとは、……なぁ、ミアン。お前は」

「ウチとミーにゃんは、あんたたちが生まれる前からの親友にゃん! ぷんぷん!」

(ふふっ。ミアンが怒ってる怒ってる)

「そんなムキにならなくったって……。いや、判ってはいたけどな。念のために聞いてみただけだよ。……ということは、ここにいつも来るやつらはみんな、ミーナと友だちになったってわけだ。よかったよかった」

 ラミアさんは右目でアタシにウインクする。

「じゃあ、ミーナちゃん」

「あっ。はい」

 急にレミナさんが声をかけてきた。

「これからは友だち同士。この部屋に入って、どんどん、あちきたちとお喋りしよう。みんなも楽しみにしていると思うんだ」

 レミナさんが目を輝かせながらいう。

「そうだな。今までみたいに遠慮なんかするなよ」

「僕もミアンさんの親友とお話しできるのは嬉しいです」

「確かに、たまにはゆっくりと話をするのも悪くはない……かもしれない」

「ウチとはいつだって喋っているのにゃん」

 ラミアさん、ネイルさん、セレンさん、そしてミアンも微笑んでいる。

「うん。そうさせてもらうね」

 アタシは友だちになったみんなに囲まれて、とても嬉しかった。

(イオラ、またアタシの願いが一つかなったよ。この部屋の常連さんがみんな、アタシの友だちになっちゃった)


「どうやらお話のミーにゃんも、休憩室の常連と認められたみたいにゃん」

「よかったわん。アタシはとっくに、だけどね」

「ウチは今、気がついたのにゃけれども……、この頃のミーにゃんを取りまく人間や人間関係って、ウチらのそれと変わりないのにゃん」

「そういえばそうだわん。アタシの周りにも、セレンさん、ラミアさん、レミナさん、マリアさん、それに、ネイルさんもいるしね」

「しかもにゃ。みんにゃこのお話と同年齢で、しかもお務め内容も同じとくる」

「偶然にしてはできすぎだわん」

「にゃけれども、一概に、にゃい、とはいえないのにゃん」

「というと?」

「この村の住人は、生まれた子供に対して亡くなった先祖の名前をつけるのが慣わしというか不文律になっているそうにゃよ。とくにここ数百年の間は、ひぃおじいさんやひぃおばあさんの名前をつける場合が多いと、マリアにゃんが書類を見にゃがら不思議そうな顔で話していた。つまり、短い周期で同じ名前がつけられているのにゃん」

「へぇ。そうなんだ」

「さっきミーにゃん自身がいったと思うけど、ウチとミーにゃんは世代を越えていつも一緒にゃ。花の妖精であるウチらの寿命はよほどの不幸にでも見舞われにゃいかぎり、一世代が千年近い。一方、人間はせいぜい百年前後。となればにゃ」

「極めて稀ではあっても、同じ状況が生まれる可能性は否定できないってことね」

「そういうことにゃ。このお話にある人間模様が」

「今、アタシたちの世代にも描かれている……か。なんか不思議」

「イオラにゃんがこの本を残したのもそこらへんに理由があるのじゃないかにゃ。でもどうして、ウチらが読むことににゃるって判ったのにゃろう?」」

「えっ! この本に当時の記憶をとどめたのってイオラなの?」

「ほら。前にウチが『ねこねこ砕撃破』で文字喰いの中に入ったことがあったにゃろ?」

「えっ。……ああ。攻撃するつもりが逆に妖魔力にからめとられちゃったのよね。本当、あの時はどうしようかと」

「違うのにゃよ、ミーにゃん。あの時、ウチは妖魔力にとらわれていたんじゃにゃい。イオラにゃんとミーにゃんの気配を感じて、どこにいるのにゃろうと探しまわっていたのにゃん」

「えっ。イオラとアタシの?」

「うんにゃ。で、そのうち気がついたのにゃ。この気配は文字喰いの中にある文字から発せられているってにゃ」

「そうか……。それでミアンは、イオラがこの本を、って考えたのね。でもアタシは? アタシ、こんな本があること自体、知らなかったわん」

「そこまではウチにも……。ただそうだったのは事実なのにゃん」

「へぇ。それも不思議ねぇ」

「砕撃破も放たず、文字喰いの中にいたのはそれが理由なのにゃん」

「そ、それじゃあ、アタシが爆風波を放つ必要なんかなかったってわけ?」

「もちろん、むだじゃなかったにゃよ。あれのおかげで、『ねこねこ砕撃破』を放つという本来の目的を想いだしたのにゃもの。

 ミーにゃんのおかげにゃ。ありがとう、ミーにゃん」

「えっ。……へへっ。そんなぁ」

 ぽっ。

「アタシは当然のことをしたまでだわん。お礼なんていわなくったって。でも……そういってくれるとやっぱり嬉しいわん」

「ミーにゃん。そろそろ判ってきたような気がしないかにゃ?」

「えっ。なにが?」

「『読書の間』を含むこの空間がどこにあるのか、にゃよ」

「ああ、そのこと。うん。もちろん、判っているわん」

「ウチと同じことを考えているのにゃろうか?」

「間違いないわん」

「それじゃあ、せぇのぉ、で同時にいおうにゃん」

「うん。判ったわん」

「ミーにゃん、いくにゃよぉ。せぇのぉ!」


「イオラの森だわん!」「イオラの森にゃん!」


「やっぱり、ミーにゃんもそう思ったのにゃん?」

「あったりまえよぉ。イオラやイオラの森から離れてだいぶ経っているはずよね。にもかかわらずアタシの妖力が全然減らないわん。ミアンだってそうでしょ。それは何故か?

 理由は簡単。この天井に輝く光のせいよ。これは精霊の間に拡がっている光と同じもの。つまり、霊力そのものだわん」

「それに差し入れに運ばれてきた数々のお料理。あれはネイルにゃんの手造りによるもの。ウチが絶対に間違えるはずはにゃい。ネイルにゃんは見習いとはいえ呪術師。にゃらば、『天空の村』のいかなる場所でも無許可で入ることができる。もちろん、イオラの森にもにゃ」

「極めつけは部屋の一つにあった温泉ね。あれはどう考えても、イオラの森の一角に沸いている温泉の泉質と同じものよ。小さい頃からつかっているアタシに判らないわけがないわん」

「ウチが話す前からイオラにゃんはネイルにゃんを知っているみたいにゃった。となればにゃ。全てはウチらにこの本を読ませたいがために、イオラにゃんとネイルにゃんの仕組んだこと。そう考えるのが妥当じゃにゃかろうか。

 ただ……ここで一つ問題があるのにゃ」

「それって前にアタシが指摘したことよね。アタシたちは天外魔境をとおって、ここへやってきた。アタシたち自身があそこの分岐点で願って、それでたどりついた場所だわん。いくらイオラがアタシたちに内緒で、前もって森のどこかにこの実体型空間を造りあげたとしてもよ。だからといって天外魔境が選んだ先もそこだったなんてねぇ。それこそ偶然にしてはできすぎだわん」

「ただ一つとはいっても、この謎がとけにゃいかぎり、ウチらの推理は」

「砂上の楼閣だわん」

「うん? ミーにゃん。それはどういう意味にゃん?」

「さぁ。ただいってみただけ」

「ふぅ。まったくミーにゃんときたらぁ」

「別にいいじゃない。気にするほどのことじゃないわん。そんなことよりさぁ」

「やっぱり、違うのかにゃあ」

「やっぱり、違うのかなぁ」



 がさごそ。

「ミーにゃん、ドアの外になにか来たみたいにゃよ」

「どうするの?」

「もちろん」

 ずぼっ。


 ずぼっ。

「どうだったの?」

「それが……こんにゃものが」

 ぱた。

「どれどれ。……なんなの? 葉っぱがいっぱい入っているだけじゃ」

 すくっ。

「あっ。ミアン、見てよ。なにか白くてまん丸なものが葉っぱに包まれているわん」

「これは……ま、間違いにゃい! 『かしわもち』にゃ。ウォーレスに住んでいた移民から伝えられたといわれる、『和菓子』とやらの一つにゃん」

「へぇ。これが」

「しかもにゃ。和菓子の中でもこのかしわもちは特定の日にしか食べられにゃいという大変貴重なものなのにゃん」

「そんなすごいものなんだ」

「ミーにゃん。こうしてはいられないにゃよ。白いかごの中にちょうど空のお皿が二つあるから、これに分けるのにゃあ」

「判ったわん。大きさがアタシのとミアンのとじゃ違うから、分けるのが簡単だわん。

 ええと、アタシはこれとこれ」

「ウチはこれとこれにゃん」

「ミアン。お皿に盛ったらどうするの?」

「敬意をはらうため、まず上座に置いて、と。これでいいのにゃん。

 ウチらは下座で、お皿に向かって頭を三回さげるのにゃん。頭をさげるのと同時に、『いただきますにゃん』っていうのも忘れてはいけないにゃよ」

「判ったわん」

「じゃあ始めるのにゃよ。せぇのぉ!」

「いただきますにゃん。いただきますにゃん。いただきますにゃん」

「いただきますわん。いただきますわん。いただきますわん」

「よぉし。これで終わったのにゃん。さぁ、ミーにゃん。心おきなく食べようにゃ」

「よぉし。じゃあ、とりあえず最初は同時に食らいつくのよ。いぃい?」

「判ったにゃん」

「じゃあ、いくね。せぇのぉ!」

 ぱくっ! ぱくっ!

「もぐもぐもぐ。もぐもぐもぐ。……これはにゃかにゃか」

「もぐもぐもぐ。もぐもぐもぐ。……この粘り気といい弾力といい」

「美味いにゃん!」「美味いわん!」

「このこしあんって、まさに絶妙なこし具合にゃよ」

「アタシのは粒あんよ。このごつごつ感。『あずき』を食べたぁって、感じがするわん」

「どっちにしても、あたりはずれなしのとびっきりな美味さにゃん。

 ウチは生きててよかったとしみじみ思うのにゃん」

「そんなおおげさな。……ねぇ。ミアンは、これと、ミアンが最大級に賛辞する『よもぎだんご』と、どっちが好きなの?」

「それが……実はにゃ。ウチはこの件に関してのっぴきならにゃい情報をつかんでしまったのにゃん!」

「へぇ。なんなの?」

「にゃんと。かしわもちにも、『よもぎかしわもち』が現われたとのことにゃん!」

「そ、それじゃあ」

「いいや。まだどっちがいいとは決めていにゃい。というか決められないのにゃよ。

 あぁあ。ウチは自分がこんなにも浮気性だったとは夢にも思わなかったのにゃん」

「今まさに、『悩める子羊』。いや、『悩める化け猫』って心境なのね」

「しかもにゃ。ネイルにゃんと市場に行けば、お菓子にかぎらず、これでもかこれでもか、っていうぐらい、新作食べ物が目白押し。ウチに、どうにゃん? どうにゃん? って迫ってくるのにゃん。

 にゃんといったらいいのか。もう……ウチには世界中の食べ物がウチのためにあるような気がしてならないのにゃよ」

「あのね……。おやぁ? とかなんとかいっているうちに、かしわもちは全部なくなってしまったわん」

「また来年までさよにゃら……か。よぉし。来年こそは『よもぎだんご』か、はたまた『よもぎかしわもち』かどっちかを」

「決められるの?」

「……無理に決まっているじゃにゃいか。はぁう。ついにウチは『ふたまたねこ』になってしまったのにゃん。ぐすん」

「泣かなくてもいいわん。それより、『ふたまたねこ』ってなに? 『ねこまた』って言葉があるけど、それとは違うの?」

「ぐすん。……多分。ミーにゃん、調べておいて」

「どうしてそうなるのよぉ!」


「ミーにゃん。おなかは?」

「ええっ。まだ食べるの?」

「だってにゃ」

「……ああ、そういうことね。判ったわん。アタシもつきあうわん」

「さすがはミーにゃん」

「それで? なんにするつもり?」

「ここへ来てからというもの、かなり食べすぎたきらいがあるのにゃん。それで今回はあっさりと、『照り焼きの肉に、あわあわの飲み物』で乾杯、というのはどうにゃろう?」

「それはいいわん。アタシも上品に決めてみたいわん」

「では造ってもらうとするのにゃん。

 おぉい。今ウチがいったのを、ウチとミーにゃんが食べやすい大きさでそれぞれ一つずつ頼むにゃあ」

「来るかなぁ」「今まで来なかったことはにゃい。絶対に来るのにゃん」


 がさごそ。


「あっ!」「来たみたいにゃん。じゃあ、取りにいってくるのにゃよぉ」

 ずぼっ。


 ずぼっ。

「どう……、うわっ。注文どおりだわん」

「にゃろにゃろ。さぁ、湯気が出ているうちに食べようにゃん」

「熱くないかなぁ」

「大丈夫だと思うのにゃけれども。ではまず一口」

「あっ。待って、ミアン」

「どうしたのにゃ? ミーにゃん」

「なんか知らないけど、ほら、こんなものが入っていたわん」

「細長いものが二本? 金属製ってやつかにゃあ。先の方を見ると、片方は、刺す、ようににゃっていて、もう片方は、切る、みたいにゃものになっているのにゃけれども」

「それに、違う形の白い布地も二枚入っていたわん」

 ひらひら。ひらひら。

「一体にゃんに使うのにゃろう?」

「あっ!」

「どうしたのにゃん?」

「同じものがもう一組あるわん。とはいっても、ミアンが今持っているものよりは小さいんだけど」

「ふむふむ。こっちはウチが使うもので、そっちにあるのはミーにゃんが使うものらしいにゃん」

「ねぇ、これどうする?」

「決まっているじゃにゃいか」

 ぽい。

「なるほどね。使い方が判らないんじゃしょうがないわん」

 ぽい。

「では、がつがつ、といただくつするにゃん」

「アタシはお上品に手を使って食べるとするわん」

「汚れるにゃよ」

「そうだ。さっき、ぽい、したやつで、刺す、っていうのはどうかな?」

「いい考えかもしれにゃい。それじゃあ、いただくにゃあん」

 がつがつ。がつがつ。

「アタシもいただくわぁん」

 ずぶっ。むしゃむしゃ。むしゃむしゃ。

「美味いにゃあ。照り焼きのたれが絶妙にゃん」

「お肉も最高だわん。舌に乗せると、ほら、とけちゃうみたいな柔らかさだわん」

「刺しごごちはどうにゃん?」

「肉がちょっと大きいけどね。なんとかなるわん」

「ミーにゃん。思わずお肉にかぶりついてしまったのにゃけれども、ここらへんであらためてお飲物の『ぐらす』を手にとるとしようにゃん」

「うん」

「それではミーにゃん。これが最後の晩餐ばんさんにゃ」

「時間的に晩餐になるかどうかは別として……、

 これがここでの最後の食事になるのは間違いないわん」


 すっ。すっ。


「まだ早いのにゃけれども……、とりあえずは。

 ミーにゃん。お疲れさまでしたにゃん」

「うん。ミアンもお疲れさまでしたわん」


 かきん!

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