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天空の村・アタシはミーナ  作者: シード
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第三十九話『知っていた』

「じゃあ、また逢う日までなのよねっ」

「元気でいるもじ」

「また逢おうにゃあ」「その日を楽しみにしているわん」

 すぅぅっ。

「ミアン。消えちゃったね」

「別れって、やっぱりさみしいものにゃん」

「そうね。さみしいわん」

「よしこにゃんたちは行ってしまったし、いつまでも物置き部屋にいてもしょうがにゃい。

 それじゃあ、ミーにゃん」

「うん。アタシたちも読書の間へ戻ろう」


 ずぼっ。ずぼっ。

「白くて広い部屋に、ぽつん、と一冊の本。この本もさみしいんじゃないかな」

「ウチらがいるじゃにゃいか」

「でもアタシたちだって読み終われば」

「いなくにゃる……か。そうにゃったら、ここはどうなるのにゃろう?」

「どうなるのかなぁ。また誰か来てくれるといいけどね。そしたら本もさみしがらなくてもすむわん」


「ねぇ、ミアン。ちょっと聞きたいことがあるんだけど」

「なんなのにゃ? ミーにゃん」

「この本に出てくるミーナのこと。三世代前だ、ってアタシとミアンの意見は一致しているけど」

「にゃから、お話のミーにゃんがどうにゃろうとも今のミーにゃんが消えることはにゃい。とまぁ、そんにゃ話をしたと思ったのにゃけれども。それがどうしたのにゃん?」

「でもさ。お話のミーナとアタシって、全然関係がないわけじゃないんでしょ?」

「らしいにゃ。まぁ、これもイオラにゃんから聴いた話ではあるのにゃけれども……。

 ミーにゃんはイオラにゃんと命がつながっている。今回の話では助かったことになっているのにゃけれども、もし仮に、お話のミーにゃんがガムラにゃんの霊火に包まれて霊体を滅ぼされたとしてもにゃ。ミーにゃんに分け与えられたイオラにゃんの命の欠片が消えることはにゃい。必ず、イオラにゃんの待つ精霊の間へと戻ってくることににゃる」

「イオラは戻ってきた命の欠片を使って、次世代のミーナを造るのよね」

「命の欠片が二世代のミーにゃんをつなげる橋渡しの役目を担っているみたいなのにゃけれども、それ以上のことは、『気にしないで』ってイオラにゃんにかわされてしまうのにゃん」

「別にいいわん。知らなくったって。でもアタシ、イオラからこれだけは聞いたことがあるわん。『世代間でつながりがあるから、イオラの木に咲く花の妖精は代々、「ミーナ」、っていう同じ名前をつけるのよ』って」

「にゃるほろ。

 ……とまとめたところで、幸せいっぱい、第三十九話へいってみようにゃん!」

「しまったぁ。自分の説明に夢中になって思わず油断してしまったわん!」

 第三十九話『知っていた』


 セレンさんやネイルさんが立ち去ったあとも女の子たちに引きとめられ、ラミアさんはお喋りをしていた。やがて時が経つと、患者の二人は疲れたらしい。横になって目をつむった。

「マリア。それじゃあ、あたいはこれで」

「はい。今日はいろいろとありがとうございました。あとで私も部屋に行きます」

「そうか。なら待っているよ」

 ラミアさんはそういうと病室を出て、いつも集っている休憩室へと足を運んだ。

(もちろん、アタシも)

 半開きになっているドアの向こうには、おなじみの風景が。


 窓際にはセレンさんとネイルさんが立っていた。カルテをのぞきあって、なにやら話をしている。

「先生。危ないところでしたが、この患者も一命をとりとめました」

「薬の安全性を確かめるのに多くの時間を費やしてしまったからだ。

 ……『ガラン・ドール』さえ完成してくれれば、大幅に短縮できるのだが」

「先生。ガラン・ドールって、研究棟で先生が造っているやつですよね。先輩方も何人か出入りされているようだし……。一体なんなのですか?」

 研究棟。……セレンさんが村役場にかけあって強引に造らせた医療の研究施設。中央病院ののとなりに建てられている。セレンさんの許可がないかぎり、たとえ、ネイルさんといえども入ることはできないという。自分の好きな研究に没頭できるため、セレンさんは『楽園』とすら呼んでいる……とのこと。

「ネイル。今は知らなくていい。場合によっては実用化にいたらず、研究段階で終わる可能性もないとはいえないからだ。教えるのはある程度、完成のめどが立ってからにしたい」

「そうですか……。判りました」

(なんなの? 一体。あっ。ネイルさんがこっちを見た。……ふふっ。やっぱりね)

 アタシと同じようにネイルさんは首をすくめて両手を『へ』の字にしていた。


 テーブルは、と目を向ければ、いつの間に来たのか、レミナさんが椅子に座っていた。目の前にいるミアンの言葉に耳をかたむけ、ふんふん、とうなずいている。

(あぁあ。終わっちゃったみたい。先にこっちの方へ来ればよかった。ミアンがどんな話をしたのか聴きたかったわん)


「おっ。みんな、ここにいたのか」

 ラミアさんは誰ともなしに言葉をかけた。部屋にいる全員の目が一斉に彼女へと注がれる。

「診療が終わったからな」

 そっけない口調で言葉を返すセレンさんに、『相変わらずだな』とラミアさんが顔に苦笑いを浮かべたのも束の間、

「あっ、そういえば」といって、まるで誰かさんを探しているかのように視線をあちらこちらへと向けた。

「おい、ネイル。ソラは?」

「通路で会いませんでしたか? たった今、ラミアさんと入れ違いに出ていったばかりですが」

「いや。どこに行ったんだ?」

「アーガの森に帰ったんですよ。留守を任せているカスミさんが心配だからって」

「心配って……。確かに可愛い顔をしちゃあいるけど、カスミはあたいの第二補佐でしかもメル・ドラスだ。あの子にたてつく度胸のあるアーガなんて一匹だっていやしないさ」

「ラミアさん……。二人は幼なじみなんですが」

「ネイル。あたいだってそれくらいは知って……、ああ、そういうことか」

「ねっ。判ってあげてくださいよ」

「なるほどな。用もないのにここにいて、うるさい姉御連中や、むさい野郎とつきあうよりは、ってわけか」

「そんなとこでしょうね。『姉御たちが集まる休憩室は苦手だ』とかいつもこぼしていますし」

「まぁ、あいつらしいといえば、あいつらしいか」

「ええ。あっ、そうそう。むさい野郎が相手ですみませんね、ラミアさん」

「ははっ。冗談だよ、ネイル。気にすんな」

 ラミアさんとの話が終わると、『なにか飲みましょう』といってネイルさんは部屋の奥にある台所へと引っこむ。しばらくして出てきた彼の両手にはお盆が握られていて、その上には四人分の茶飲みが乗っていた。セレンさん、レミナさん、と配ったあとに、『さぁ、どうぞ』とお盆をラミアさんの前へ差しだす。

「おっ、ありがとうよ」

 喜んだ表情で茶飲みの一つを持ち、ずずずっ、とすすった。

「うん。美味い」

 ラミアさんは茶飲みを片手に、カルテに視線を落としているセレンさんへ言葉をかけた。

「セレン。あの子たちは眠ったよ」

「うん? ああ、そうか」とセレンさんは顔をあげ、ラミアさんに目を向けた。

「それでやっと解放されたってわけか。二人ともずいぶんと元気になったものだ。

 ラミア。さっきもいったが、花を採ってきてくれてありがとう」

「いや。お礼をいわれるほどのことじゃないさ」

「とんでもない。本当におてがらだった。アムちゃんといい、キヌちゃんといい、ラミア、君がいなければ救えなかったかもしれない」

「それにしても、あたいに盛った薬がアムちゃんを助けたなんて。ちょっと信じられないな。だってあの時は本当に気分が悪くてさ。あんなにふらふらになったのは初めてだよ。もうこりごりだ。二度とやらないでくれ」

「それもいったと思うが、本当にすまなかった。以後、注意をしよう」

「絶対にやるなよ」「注意する」「だから」「できるだけ」

 セレンさんが見せるどたんばの抵抗に、ラミアさんは困っているみたい。元々、人を問いつめるというのは、あまり好きな性分ではなさそうだ。『まぁ、いいや』と適当なところで話を打ちきり、レミナさんへと向かう。一方、セレンさんは『勝った』と口に出してこそいわないものの、ラミアさんが後ろをふり向いたとたん、その口元に、にやり、と笑みを浮かべた。

(『やらない』とはいわなかったわん。ほとぼりが覚めたらまたやる気なのね)


「あっ、来た来た」「よぉ、レミナ」

「ネイルとミアンちゃんから聞いたよ。ラミアさん、大活躍だったんだって?」

「終わりよければ全てよし、だな。いろいろあったが、無事に終わってよかったよ」

「セレンがすごく感謝していたよ。よくあの花を探しだしてくれたって」

「花のありかは判っていたからな。簡単に採れたよ。ロープを使って、さっとあがるつもりだったけど、岩の欠片に邪魔されてな。底の方へ落ちてしまったんだ」

「それでそれで?」

 レミナさんは目を輝かせてつづきを知りたがる。

「脱出したくても、ミレイはあの中には入れないだろう? 霊波をまとってあがろうとしても、落下速度を弱めるぐらいしかできなかった」

「絶体絶命ってやつだね。それじゃあ、どうして助かったの?」

「救世主が現われた。そいつが放った『霊風波』もどきの技で助かったんだよ」

 どきっ。

「えっ。それは誰なの?」

 ラミアさんの言葉に、『?(はてな)』顔のレミナさん。

「それはな」とラミアさんが右腕を伸ばす。

(えっ。えっ)

 彼女はミアンの背中に乗っているアタシをつかむと、テーブルの縁に座らせた。すぐ後ろにはミアンの顔がある。

「この妖精さんだ。あたいが助かったのは彼女のおかげさ」「へぇ。そうだったんだ」

 ラミアさんとレミナさんがアタシの顔をのぞきこむ。

「あ、あのぉ。二人にはアタシが見えるの?」

「ああ。いつもあたいの周りにいるだろう。知っていたよ。少し離れたところからこちらを見ているだけでちっとも話しかけてこない。だから、だめなのかなぁ、と思って見て見ぬふりをしていたんだ」

「あちきも。話しかけちゃ悪いのかなぁ、って考えてね。今まで黙っていたんだよ」

「そうだったんだ……」

(アタシはてっきり、『自分のいることに気がついていない』とばかり……。

 そうか。二人とも判っていたんだ)

「どうだ。こうやって知りあったわけだし、あたいたちと友だちにならないか」

「そうだよ。そうしなよ」

「えっ」

 アタシは思わず口ごもる。でも、それはひそかにアタシが願っていたこと。

「……うん」

 アタシははじらいつつ、やっと、自分の思いを口にする。

「そうか。じゃあ、改めて自己紹介するよ。あたいはラミアだ。よろしくな」

「あちきはレミナだよ。よろしくね」

 二人は手を差しだす。

「ほら、ミーにゃん」

 ミアンは多分、おでこを使ったのだろう。後ろから、ぽん、とついてきた。

「うん」

 アタシは文字どおり背中を押されて自己紹介を始めた。

「アタシはミーナ。イオラの木に咲く花の妖精なの」

「そうか。お前が」

「最長老の木に咲いている」

 ラミアさんにつづいてレミナさんも驚いたように目を大きくしてアタシを見つめている。だけどそれも束の間。すぐに『ああ、そうだったんだ』といわんばかりの表情になった。

「ミーナ、ほら」「ミーナちゃん」

 二人は自分たちの右手を並べてアタシの前に差しだす。アタシは恐る恐る両手をそれぞれの手と重ねた。ラミアさんたちはにっこりと微笑むと、アタシの手をそっと指先で握りしめてくれた。

「よぉし。これでミーナとあたいは友だちだ。ミーナ、今日は本当に助かった。感謝するよ」

「あちきも友だちだよ、ミーナちゃん。ラミアさんを救ってくれてありがとうね」

 彼女たちの笑顔にアタシもいつしか微笑んでいた。


「そうか。ミーナのことをラミアさんもレミナさんも気づいていたのね」

「ミーにゃんもラミアにゃんたちも相手が声をかけてくるのを待っていたのにゃ。それにゃのに、どちらも口を出さにゃい。なもんにゃから、双方、変にゃ誤解をしてしまって、友だちににゃるどころか話しあうきっかけすらつかめにゃいという、もどかしい状態がつづいていたのにゃん」

「だめでもともと、と割りきって、とりあえずは声をかけてみる、っていう努力は必要なのかもしれないわん。もちろん、しつこすぎるのはまずいけどね。でもまぁ、事情が判って、友だちにもなれたんだからよかったじゃない」

「まぁ、にゃ、それにしても」

「どうしたの? ミアン」

「あまりにまともすぎて、全然おもしろくにゃい話をしているのにゃ。ウチらは」

「でもミアン。これってアタシたちがつまらない生きものだから、っていうよりかは」

「うんにゃ。今回のお話のせい、としか思えないのにゃん」

「というわけで」

「ウチらがつまらないから、じゃにゃい!」

「うん! アタシもその意見に賛成だわん!」

「にゃから、こんなたぐいの話が展開されてもにゃあ」

「そうね。確かに困るわん。どこかで、すぱっ、と切り替えてもらわないとね」

「ところが、にゃ……」

「なに?」

「次回もこの手の話になりそうなのにゃん」

「げっ!」


「ところでミーにゃん」

「なに? ミアン」

「ウチはこう見えても『ねこ』なのにゃけれども」

「うん。どう見ても『ねこ』としか思えないわん」

「その『ねこ』がミーにゃんのような妖精に対してこんにゃことをいうのもなんなのにゃけれども」

「なに遠慮してんの? アタシとミアンの仲じゃない。堂々といったらいいわん」

「ほにゃらいうけどにゃ。ミーにゃんって口が悪い割には、泣きべそをかいたり、恥ずかしがったりと、純情すぎる一面をのぞかせることがよくあるじゃにゃいか」

「そんなこと……急にいわないでほしいわん。……なにもいえなくなってしまうわん」

 ぽっ。

「顔を赤らめているのにゃ。ミーにゃんは可愛いにゃあ」

「んもう、ミアンったらぁ。

 それで? ようするに、なにがいいたいの?」

「にゃけれども、怒ったところは見たことがないのにゃん。にゃから、実際はどうにゃのかと思って」

「よくぞ聞いてくれたわん。実は、アタシもそのことで日夜、努力をしていたの」

「努力? にゃんの?」

「だから怒る練習。アタシが怒らないのは怒ることがないからだけど」

「反対に怒られることはあるのにゃん?」

「アタシを怒る可能性がある相手っていったら、ミアンかイオラぐらいね。イオラからはないわん。アタシってほら、よくできたいい子だから」

「…………」

「なに黙ってんのよ」

「いや。ミーにゃんについて聞き慣れにゃい言葉を耳にしたものにゃから」

「えっ。アタシ、今、なにか変なことをいった?」

「(自分っていうものの自覚が全然ないのにゃあ。まぁ、ミーにゃんらしいといえば、らしいのにゃけれども……)。

 まるっきり違うとはいわないのにゃけれども、そこまで断言するのはちょいと無理が」

「だから、なにが無理なの?」

「(やめよう。いってもどうせむだにゃん)

 ……まぁ、それはいいとして。その怒る練習って?」

「あっ、そうそう。それでね。万が一アタシが怒るような事態になっても今のままじゃ迫力がなさすぎると思うのよ。やっぱり怒る以上は相手の心に訴えるようなものじゃないといけないわん」

「ふむふむ。それで練習をしていたというわけにゃん」

「そういうこと。最近になってやっと納得がいくものができるようになったわん」

「へぇ。それは是非とも見てみたいのにゃん」

「そう? じゃあ、やるね。……よいしょ、と」

「ミーにゃん、どうしたのにゃ? 四つんばいになんかにゃって」

「あと、お尻を上にあげてね。肩をいからせた状態で顔を前につきだすの。口は歯がむきだしになるような感じで横に拡げれば……。そう、こんな感じ。準備は整ったわん」

「ふぅぅん。それじゃあ、ミーにゃん。怒ってみてほしいのにゃん」

「うん。

 いぃい? アタシが苦心して開発した怒り方。とくとそのお目目に焼きつけるのよ」

「判ったにゃん」

「じゃあ、始めるわん」


『うぅぅわんわん! うぅぅわんわん!』


「どう? かなりいい線いっていると思うんだけど。

 ……あれっ? どうしたの、ミアン。両目から急に、だあぁっと涙が」

「ミーにゃん……。ぐすん。それは……別な生き物のような気がするのにゃけれども」

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