第三十四話『花をこの手に』
「うふふふもじ。うはははもじ。うわはっはっはっもじ」
どでぇぇん!
「にゃ、にゃんともでかい……」
「うん。黄緑色のでっかいお豆が一つ横たわっているわん」
「ミーにゃん。そればかりじゃにゃい。正面とおぼしきところを見てみにゃ。でっかい黒文字で『あ』の一文字が書かれているのにゃん」
「本当、『あ』、だけだわん」「にゃろ? 『あ』、のみなのにゃ、ミーにゃん」
「どうだもじ。怖れ入ったかもじ」
「…………」「…………」
「ふはっはっはっもじ。怖ろしすぎて声も出ないのかもじ」
「っていうか……。ねぇ、ミアン」
「あきれかえって声も出にゃい、といった方が正しいのにゃけれども」
「うふふふもじ。やはり思ったとおりもじ。見た目だけでわじの強さが判るほど、優れた霊体ではなさそうもじ」
「あれっ。ミアン、今の聞いた? なんかアタシたち、さげすまれているみたいだわん」
「ミーにゃん。にゃあんとなく相手にしない方がよさそうに思えるのにゃん」
「そうね。そうしようか」
「うんにゃ。そうと決まったら、にゃんか遊びでも始めようにゃん」
「なにやる?」
「そうにゃあ……、たとえば」
「こらぁ! もじ。わじを無視するなら痛い目に合わせるもじぃ!」
「だって。ミアン」
「仕方がにゃい。それにゃら少しばかり質問をぶつけてみるのにゃ。あんたも構わないかにゃ?」
「一向に構わないもじ」
「ほにゃら聞くけどにゃあ。まずあんたの名前を教えてほしいのにゃん」
「わじの名は『文字喰い』。名前のとおり、文字を常食としているもじ。本の中にある文字を食べ、文字にこめられている霊力を食べて強くなる妖魔もじ」
「本の文字を食べる……。まさか!」「よもや、あの本を……。ミーにゃん!」
ぱたぱたぱた。すたすたすたっ。
「ええと、これから読むぺーじは、と」
ぺらぺらぺら。
「そうそう。この次のページよ」
ぺらっ。
「あっ! ミアン!」「にゃ、にゃんと! 第三十四話から真っ白にゃん!」
「こらぁっ、文字喰い! ここから先の文字はどうしちゃったのよぉ!」
「ふふふもじ。わじの丸みを帯びたこの身体の中につまっているもじ。わじは文字を食べれば食べるほど、身体も巨大化していくもじ」
「返せ、早く文字を返せぇ!」
「ミーにゃんのいうとおりにゃ。本から文字をとったら、それはただの……ただの……」
「ただの、なに? もじ」
「ミアン、どうしたの? しっかり」
「(みんにゃが固唾を飲んでウチが喋るのを待っているのにゃ。にゃにかこの場にぴったりの言葉はにゃいものか……)
……い……い……いたずら書き帳になってしまうじゃにゃいか。
(ふぅ。やっといえたのにゃん)」
「ミアン、すごい。よく思いついたわん」
ぱちぱちぱち。
「いやあ、ミーにゃん。それほどでもないにゃよ。にゃははは」
「あははは」
「うはは……ぐふっ。ついつられてしまったもじ。
ええい! うるさい霊体どももじ。お前たちには消えてもらうもじ」
ぐぃぃん! がぎん!
「ミアン、見てよ。『あ』の部分だけがつきだしたわん」
「ますますもって判らないのにゃん。あれは一体どういう意味なんにゃろう?」
「うふふふもじ。思ったとおりもじ。しょせんお前たち程度では、これを理解するのは無理というものもじ。これはわじが唯一持つ、最大にして最強の兵器もじ。その名も」
「なに?」「なんなのにゃ?」
「『あ砲』、というもじ」
「えっ。ミーにゃん?」
くるっ。
くるっ。
「ねぇ、ミアン。ちょっと聞きたいことがあるんだけど」
「なんにゃ?」
「なんであの兵器の名前を聴いた途端、アタシの名前を呼びながら、アタシの方をふり返るのよ」
「にゃって……。ついこの前、いったばかりじゃにゃいか」
「なにを、よん」
「こんな風ににゃ。『♪ ウチがあほにゃら、ミーにゃんもあほにゃん。同じあほにゃら、踊らにゃそんそん。ミーにゃん音頭で、どどんがどん! ♪』」
「『♪ あっ、そぉれそぉれっ ♪』
(ま、まずい! 思わずのってしまったわん)
ごほん。あのね、ミアン。いかにもパクりましたといわんばかりの、『のり』のいい唄を、たとえ、替え歌であっても造るんじゃないわん」
「ミーにゃん……。今、ひょっとして、『のりのり』、だったのじゃにゃいか?」
「う、うるさいわん!」
ぷい。
「顔をそらして、しかも真っ赤になっているのにゃん。可愛いにゃあ、ミーにゃんは」
「お前ら……脱線しすぎもじ。
まぁ、いいもじ。これから放つ『あ砲』の威力、とくと見るがいいもじ。あの白い壁を粉々にしてくれるもじ」
「えっ。あの壁を?」「にゃんと!」
「……いいかぁもじ。いくぞぉもじ。『あ砲』、発射ぁ!」
ばががぁぁん!
ひゅぅぅぅ! ずばばばばばぁぁん!
「うわっ! 巨大な『あ』が白い壁にぃ!」「激突にゃあん!」
ぷひゅうううう。
「ふぅ。あれは砲筒だったのね。あっ。立ちこめていた白煙が薄らいでいく……」
「ミーにゃん、見てごらんにゃさい。『あ』があとかたもなく消えているのにゃん」
「本当。でもこれじゃあ、威力がよく判らないわん。そうじゃない? 文字喰い」
「ううっ。こんなはずでは……もじ。
ええい! こうなったら有無をいわさずお前たちを葬ってくれるぅもじ!」
ぐぃぃん! がぎん!
「あっ。砲口がこっちを向いたわん」
「どうやら、文字喰いにゃんは本気みたいにゃ。にゃら、ウチも正々堂々と正面からぶつかるのみにゃん」
「ミアン。大丈夫なの?」
「ミーにゃん。ミーにゃんは危にゃいからウチの後ろにさがっていにゃさい」
「えっ。……うん」
ささっ。
「これでよし、にゃ。さぁ、文字喰いにゃん。来るならいつでも来い、なのにゃあ!」
「いわれるまでもないもじ。それぇっ、『あ砲』、発射ぁ!」
ばががぁぁん!
「にゃら、こちらもいくにゃよぉ! それっ! 『ねこねこ反射』ぁ!」
ぷるぷるぷるぷるぷる。
ひゅぅぅぅ! ばん! ひゅぅぅぅ!
「い、いけないもじ! 放った『あ砲』が、わじの方にぃ……、うわぁぁっ!」
ずばばばばばぁぁん!
「や、やったわぁん!」「正義かどうかは判らにゃいけど、とにかく勝ったにゃん!」
ぷしゅぅぅっ。
「あれあれ。ミアン、見てよ。文字喰いの身体から文字がいっぱい飛びだしてきたわん」
「本当にゃ。みんにゃ、本の中へと戻っていくのにゃん」
「それに文字が飛びだすにつれて、文字喰いの身体がどんどん小さくなっていくわん」
「にゃるほど。文字喰いは文字を食えば食うほど、大きくにゃっていく半面、痛手を被れば被るほど、蓄えたはずの文字が逃げだして小さくなっていくのにゃん」
「く、くそっ! もじ。わじとしたことが油断したもじ。ここは一旦引きあげた方がよさそうもじ」
ざざざざぁぁん!
「あっ! 文字喰いが本の中に沈んでしまったわん」
「おにょれ。逃がしてしまったのにゃん」
「でも、ミアン。これなら勝てるんじゃない。希望の光が見えてきたわん」
「ウチもそう思うのにゃん。さっき、文字喰いにゃんも『あ砲』が最終兵器だっていっていたし、にゃ」
「それじゃあ、ミアン。ちょっと早いけど勝利を祝って」
「判っているのにゃよ。『けーき』とそれに合う飲みものを差し入れてもらうのにゃろう?」
「ううん。違うわん。第三十四話へ突入よん」
「でもミーにゃん。今、『勝利を祝って』、って」
「んもう、ミアンったら。食べることばっかしだわん。折角、一話分でもお話を取り戻せたんじゃない。まずは読書、読書よ」
「読書ではにゃあ。お腹に満足感は与えられないのにゃん」
第三十四話『花をこの手に』
「どこまでもおりていったら、どうなるんだろう」
そんな好奇心が芽生えているのか、ラミアさんは一人つぶやいている。
「おっと、いけない。つまらないことを考えてしまった。ひょっとすると、あたいはこの世界に引きこまれようとしているのかもしれない。危ない危ない」
ラミアさんは頭をふったり、たたいたりしている。しばらくすると、気持ちが落ちついたのか、またゆっくりと周りを見まわす。
「へぇ。内壁の土に小さな草や花が生えている。
……こんなところにも命のいぶきがあるんだな」
内壁の岩はいたるところにおうとつがあり、変化に富んでいる。そのつきでている部分には、花が連なって咲いていた。彼女は横をふり向く。少し離れてはいるものの、目の前の内壁にも同じ花が微笑んでいた。
「白い花だ。ひょっとすると……」
ラミアさんは身体の向きを変えて、花が咲いている内壁を正面にした。彼女はロープを使って自分の身体を少しずつ大きくゆらし、最後一気に、その反動で内壁へと持っていく。
「うわぁうわうわぁ!」
足の先だけがかろうじて、花が咲いているのと同じ岩場の上に乗った。だけど、身体がのけぞってしまい、後ろへ倒れそうになっている。彼女は両腕をぐるぐると回し、足に踏んばりを効かせようとあがいたものの、結局は、宙づりの状態へと戻ってしまった。『よぉし。今度こそ』と何度かくりかえしてはみるものの、結果は同じ。どうしてもたどりつくことができない。時間は刻々とすぎていく。
びしゅぅ!
ラミアさんの身体から蒼い霊波が放たれる。
「これなら、どうだぁ!」
彼女は再びふり子のごとく身体を動かす。霊力が加わったことで十分なふり幅を確保したみたい。安定した姿勢で目的の岩場に足を乗せることができた。
「ふぅ。やっとたどりついたか。思いもかけないところで時間をつぶしちまった。
まぁ、よく考えればあせる必要もないか。今日中に病院へ花を届ければ十分間にあうはずだ」
ラミアさんは足元を見おろした。岩の割れ目からは、花が飛びだしている。彼女は連なっている花の一つを摘みとると、花びらの裏をじっと見つめた。
「これだ。この花だ。ふぅ。やっと見つけたかぁ!」
うぉぉっ!
ラミアさんは感動の雄叫びをあげる。空洞の中でその声がこだましている。
「人の命がかかっているとはいえ、冷静に考えてみれば、よくこんな秘境まで来たもんだ」
ラミアさんは周囲を見まわし、一人つぶやいていた。
「さてと。じゃあ、早く採ろうか」
ラミアさんは『麻耶』を何本か摘みとったあと、腰にさげた袋に入れた。
「よし。これくらいあれば十分だろう」
念願の花が手に入ったので、さぞや嬉しいに違いない、と思っていたら、意外や意外、しかめっ面をしている。
「さっき、身体をゆらしたせいかな。ロープを巻きつけたあたりがきつくなってきた。ちょっとだけ休むか」
ラミアさんは腰に巻いているロープをゆるめると、その場に腰をおろした。
「あとは帰るだけか……。なぁ、セレンよ。あたいはどうしてここにいるんだろうな」
ラミアさんはひとりぼっちになると、ほうけた表情を顔に浮かばせることが多い。
(セレンさんはいないけど、アタシならいるわん)
突如、上の方から不気味な音が聞こえてきた。
ぐおおぅっ!
ラミアさんの身体が一瞬、びくっ、と痙攣する。
「まるで空洞自体がうなっているみたいだ」
それは上空からふきこんでくる風が造りだす音色。ラミアさんも気がついたはず。だけど、ここは草花と銀光虫以外は他の生きものの気配がまるで感じられない、静寂だけが支配する世界だ。咆哮にも似たその音色に、ラミアさんは戦慄を覚えたのに違いない。
「こんなところで聞くと、単なるすきま風の音も空恐ろしく聞こえるな」
ばらん! ばらん! ばらん! ばらん!
風のせいか、天井となっている岩盤の朽ちた欠片が次々と墜ちてくる。
「危ない危ない」
ラミアさんは頭を抱え、その場に伏せた。
やがて音は静まり、風もやんだ。小さい欠片こそあたりはしたものの、怪我をせずにすんだのは不幸中の幸いといっていい。ラミアさんは身体を起こすと、ほっと一息をつく。
「ここにいるのも危険だな。『麻耶』は手に入れたし、帰るとするか」
ラミアさんは立ちあがり、ロープを手に握りしめた。
「ミーにゃーん!」
(あっ、ミアンの声だぁ!)
「ミアン、やっと……」といいかけたアタシは、天井を見あげたとたん、言葉を失う。頂上の穴からなにやら、むにょぉん、と長いものがおりてきたからだ。あっという間にアタシの元まで伸びてきた。
「にゃんにゃんにゃん。ミーにゃん。どうにゃん? この格好。いいにゃんどうにゃん? いいにゃんどうにゃん?」
(にゃんにゃん、うるさい!)
ミアンだった。彼女は今、実体波を消し、霊体の半透明な姿となっている。長いのは胴体で、先端っていうかアタシと向きあっている部分には顔と前足がある。
(胴体はともかくとしてなんか変だわん。……あっそうか)
「ねぇ、ミアン。霊体だから身体が伸びても不思議じゃないけど、その色はなに? いつもは水色なのに、なんで今は紅く輝いているの?」
「ウチは今、お尻の方がミレイにゃんの身体に巻きついているのにゃん。霊力をもらっているからミレイにゃんの色に、つまり、あなた色に染められているってわけにゃんよ」
ミアンは、『たまにはこれも悪くないにゃあ』といわんばかりの嬉しそうな顔で、『にゃあぁん、にゃあぁん』と珍しく猫の啼き声をあげている。
(ミアンったら浮かれすぎだわん。いつも楽しそうだけど、今日はことさら。この化け猫さん、悩みってものとは無縁の存在なのかなぁ……。
はっ! そんなことを考えている場合じゃないわん!)。
「ミアン。今、ラミアさんはあそこに」
「ああ。あんなところにいるのにゃん。どれ、行くとするかにゃ」
「うん」
アタシがミアンの背中へと乗っかり、ラミアさんへと目を向けたその時。
「そぉれっ!」
ラミアさんは岩場を離れ、宙づりの状態になった。たぐいまれなる腕力を武器に、ひたすらロープをよじのぼっていく。このままなら無事に頂上へあがれる、とアタシは思っていた。多分、彼女も。ところが。
気がつかなかった。おそらく誰も。天井の岩盤からはがれた岩の欠片。それが、真っすぐラミアさんへと墜ちていることに。
ひゅうぅぅ!
「ラミアさん!」
アタシが声をかけるよりも先に彼女は気がついていた。その右手には光が生まれ、短い刀の形へと変化していく。
(あれは……『霊波刀』だわん)
《霊波刀。……霊力波を集中させることによって造られる刀。全体が蒼白い光を放っている。形あるものはもちろん、霊体までも滅ぼすことができる力を持つ》
ラミアさんは逆手で握っている霊波刀を頭上めがけてふるう。
きぃぃん!
刀の刃からは『霊刃』が放たれ、墜ちてきた欠片を真っ二つに切り裂いた。これらの欠片はラミアさんの頭を避けるような感じで左右に分かれ、亜矢華の底へと墜ちていく。
と、その時。
ばしん!
「し、しまったぁ!」
霊刃の先がロープに触れてしまったみたい。切られたロープごとラミアさんも、岩の欠片を追うかのように真っさかさまに落ちていく。
「ちくしょおぅ! レミナのやつがいないのに、なんでこんな目に遭うんだよぉ!」
わが身の不運を嘆くラミアさん。心の底から湧きあがってくる叫びなのだろう。音声としても聞こえたけど、それよりも強く伝わる霊覚交信という形になってアタシたちの心に届いた。
「ラミアにゃん。それはにゃ。あんたの不幸が誰のせいでもにゃい。生まれつきのものであるという」
「ミアン! つっこんでいる場合じゃないわん!」
「そうにゃった。よぉし。急ぐにゃよぉ!」
ぐぃぃん!
ミアンの胴体がラミアさんめざして伸びていく。その速さはたいしたもの。たちまち彼女まであと一歩と迫る。……ところが。
がくん! アタシは衝撃で背中から転げおちそうになる。
「なに? どうしたの?」
「ミーにゃん、だめみたいにゃ。もうこれ以上は、ミレイにゃんの力だけでは身体を伸ばすことができないみたいなのにゃん」
「そ、そんなぁ!」
(このままじゃあ、ラミアさんが。ラミアさんがぁぁ!)
アタシは意を決する。
「ミアン。ここはアタシに任せて!」
アタシはミアンから離れ、飛びたった。
「にゃ、にゃに? ど、どうする気にゃああん!」
ミアンの叫ぶ声を背に、アタシは緑色の光弾となってラミアさんへと向かう。
びゅぅん!
「ラミアにゃんが、またまた『ぴんち』みたいにゃよ」
「いよいよ、満を持してアタシの登場ってわけね。さてと。今度はどんな活躍を見せるのかな」
「こうご期待、というところなのにゃけれども、なんせ、次の話が空白だものにゃあ」
「早く残りのお話を取り返したいわん。でないと」
「でないと、なんにゃ?」
「だんだんあきて、本をめくることすらしなくなってしまうわん」
「ウチも同じにゃ。早急になんとかしたいものにゃん」
「でもにゃ、ミーにゃん。このままではいけないと思うのにゃよ」
むしゃむしゃ。ごくごくごく。
「そうね。文字喰いが出てくれないとお話にはならないわん」
むしゃむしゃむしゃ。ごきゅごきゅ。
「それにしても、今まではウチらがお話全てを先導してきたつもりなのに、にゃ」
むしゃむしゃ。ごくごくごく。
「今じゃあ出てきたばかりの『きゃら』にふり回されっ放しだわん」
むしゃむしゃむしゃ。ごきゅごきゅ。
「まったくぅ。せちがらい世の中になったものにゃん」
むしゃむしゃ。ごくごくごく。
「なんとか主権奪回、みたいな手を打てるといいのにね」
むしゃむしゃむしゃ。ごきゅごきゅ。
「不満ばかりが拡がるこの世界で、この『けーき』の美味しさは格別にゃん」
むしゃむしゃ。ごくごくごく。
「本当。クリームや載っている果物。それに『けーき』の生地と。この三者が織りなす絶妙な『ばらんす』。もうたまらないわん」
むしゃむしゃむしゃ。ごきゅごきゅ。
「それだけじゃないにゃよ。甘さと柔らかさがかもしだす心惹かれる『けーき』の美味しさ。そのためにどんどんと口にほお張って、ともすれば、のどにつまりそうににゃる。と、そこへ、じゅわぁっと、あわあわの飲み物を流しこむ。するとにゃ。魔法にでもかかったように、すぅっと『けーき』が溶けていく。あとに残るは、飲み物が持つ芳しい香りと、おさえめな甘さだけ。口の中が『りふれっしゅ』されてしまうのにゃん。こうなるとにゃ。あとはどつぼにはまるだけ。『けーき』の味が恋しくにゃって、『お口がさみしい』とか理屈をつけて、またまた次の『けーき』へと前足が伸びてしまうのにゃん」
むしゃむしゃ。ごくごくごく。
「やめられない、とまらない、って、まさにこれだわん」
むしゃむしゃむしゃ。ごきゅごきゅ。
「にしてもミーにゃん。ドアがあるのにもかかわらず、つきぬけて向こう側からこっちまでつながっているこの『べるとこんべやぁ』。『けーき』と飲み物が一皿ずつ載せられて運ばれてくるのにゃけれども、いつまで食べたら終わりになるのにゃろう? 大体、ドアの向こう側って、どうなっているのにゃろう?」
むしゃむしゃ。ごくごくごく。
「さぁ? それよりミアン。そんなにお喋りばかりしていると、『けーき』が端っこまできて、床に落ちてしまうわん。もっと食べることに集中しなさい」
むしゃむしゃむしゃ。ごきゅごきゅ。
「ミーにゃん。それを心配するのにゃら、もっと自分の方の分配率をあげてほしいのにゃん。今んとこ、ウチが七、ミーにゃんが三の割合で交代しにゃがら、『けーき』に食らいついているじゃにゃいか」
むしゃむしゃ。ごくごくごく。
「ミアンったら。アタシだって努力しているわん。でも、この身体じゃ限界があるわん」
むしゃむしゃむしゃ。ごきゅごきゅ。
「にゃったら、人間の子ども姿になればいいじゃにゃいか。あれなら、ウチ以上に『けーき』をほお張れるはずにゃん」
むしゃむしゃ。ごくごくごく。
「判ったわん」
ぱかっ!
「これならかなり食べられるわん」
むしゃむしゃむしゃ。ごきゅごきゅ。
「ミ、ミーにゃん。大変にゃあ、『べるとこんべやぁ』の移動速度が二割増ぐらいで速くなってきたのにゃん」
むしゃむしゃ。ごくごくごく。
「大丈夫、大丈夫。アタシにまかせなさい」
むしゃむしゃむしゃ。ごきゅごきゅ。
「にゃけど、ミーにゃん。お話の内容とウチらの置かれている状況が深刻になりつつある今、こんなことをしていて本当にいいのにゃろうか?」
むしゃむしゃ。ごくごくごく。
「いいんじゃない? ほら。どんな闘いでも、『戦士の休息』ってやつがあるでしょ? アタシたちにそれがあったって、ばちはあたらないと思うわん」
むしゃむしゃむしゃ。ごきゅごきゅ。
「あっ。また速くにゃった。
ミーにゃん。ウチにはとても、これが『戦士の休息』とは思えないのにゃけれども」
むしゃむしゃ。ごくごくごく。
「泣きごとをいっているわん。……ってことは、ミアンは降参ってわけね。じゃあ、この勝負はアタシの勝ちぃ!」
むしゃむしゃむしゃ。ごきゅごきゅ。
「だ、誰が泣きごとにゃん! ミーにゃんごときに負けるわけにはいかないのにゃあ!」
むしゃむしゃ。ごくごくごく。
「ふふん。無理はしない方がいいわん。アタシなんてまだまだ余裕なのよん」
むしゃむしゃむしゃ。ごきゅごきゅ。
「化け猫の『ぷらいど』にかけても、ぜ、ぜ、絶対に負けないにゃん!」
むしゃむしゃ。ごくごくごく。
「アタシだってぇ!」
むしゃむしゃむしゃ。ごきゅごきゅ。
むしゃむしゃ。ごくごくごく。むしゃむしゃ。ごくごくごく。むしゃむしゃ。……。
むしゃむしゃむしゃ。ごきゅごきゅ。むしゃむしゃむしゃ。ごきゅごきゅ。……。
「げっぷぅ、にゃん!」「げっぷぅ、だわん!」
ばたん! ばたん!
「ぜいぜいぜい。ミ、ミーにゃん。ウチは夢を見ているのにゃろうか。幸せを呼ぶという青い鳥が、倒れているウチの上を何羽もぐるぐる……」
「ぜいぜいぜい。き、奇遇。ア、アタシにも見え……」
がくっ。がくっ。
すやすやすや。すやすやすや。




