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天空の村・アタシはミーナ  作者: シード
33/42

第三十二話『再び病院にて』

「ミーにゃんたら探険に行くって部屋を飛びだしたっきり、いまだ帰ってくる様子もにゃい。一体にゃにをしていることやら。

 ふわぁぁんにゃ。……にゃんか眠くなってきたのにゃ。気温、湿度ともに良好。それに部屋の中にもかかわらず、どこからともなくすがすがしい風が吹いてくる。これもまた心地よいのにゃん。こんなまどろみの中でウチがやることといえば……ふわぁぁぁんにゃ」

 すやすやすや。すやすやすや。


 ずぼっ。

 ぱたぱたぱた。

「ミアァン。聞いて聞いて。今ね、通路沿いに並んでいる部屋の一つが開いていて……」

 すやすやすや。すやすやすや。

「おや、ねこ(寝子)っているわん。んもう、ミアンったら。ちょっと目を離すとすぐこれだものなぁ。無理矢理起こすのもなんだし、目が覚めるまで待つしかないわん。

 それにしても大きな口を開けたままでよく眠っていられるなぁ、きっと、あくびしたまま眠ってしまったに違いないわん」

 ぱたぱたぱた。

「ミアンったら口を大きく開けすぎだわん。ひょっとしてあごがはずれているのかも。

 ……そうだわん。いい機会だから、ミアンの口の中へ入ってみようっと」

 ぱたぱたぱた。すたっ。

「ここがミアンの口の中ねぇ。いろいろなものを口にしている割にはきれいだわん。舌でなめまわして綺麗にしているのか、それとも実体波を操作してきれいにしているのか……。あっ。ネイルさんに歯を磨いてもらっているっていうのもあるかも」

 ぱんぱんぱん。

「これがミアンの歯かぁ。思ったよりもごつごつとしているわん。かなり硬そう。これならなんでもかみくだいてしまうかも。それで舌は、と」

 ぐにゅんぐにゅんぐにゅん。ぐにゅんぐにゅんぐにゅん。

「こうやって立っても安定感にとぼしいわん。……うわっ!」

 ぐにゅん。

「ほら、倒れてしまったわん。あっ、ちょっと湿っているわん。まぁ、これくらいなら……。えっ! なに? いきなり水分が増えて……、ひょっとして、これって『つば』?」

 どぶどぶどぶ。

「ちょ、ちょっと多すぎるわん。……うわぁん。身体が『つばまみれ』になっちゃったぁ。翅もぬれ始めてきたし、そろそろ外に」

 かぷっ。

「あっ。口が閉じちゃった……。ま、まずい! 絶対にまずいわん!」

 べたべた。べたべた。

「もうぬれてもかまわないわん。早く口を開けないとぉ。うぅぅん。うぅぅん。

 ……駄目だわん。全然口が開かない。こんな暗いところにいたらアタシの霊力がどんどんなくなっちゃうぅ。でも、一体どうしたら……。

 ミーナ、こういう時こそ落ちつかなくちゃいけないわん。ええと、落ちつくには……、そうだ。ミアンがいっていたっけ。深呼吸が一番だって。よぉし」

 すぅぅはぁぁ。すぅぅはぁぁ。

「うん。驚くほど冷静になったわん。それじゃあ、とりあえず灯りを、と」

 ぽっ。

「霊灯が灯ったわん。霊力が失われるのをこれで少しは遅らすことができるわん」

 きょろきょろ。

「口から出られないとすれば、お尻の穴から……。いや、それは待った方がいいわん。排泄物にまみれて飛びだすのは、ちょっと気が引けるわん。とはいってもほかには……。

 そうそう。鼻と耳にも穴があるわん。待てよ、確か目の縁からも出られるはず。それじゃあ……、よぉし。目の縁から出ることにするわん」

 ぱたぱたぱた。

「ええと、とりあえずは鼻の中を抜けて……、あっ、空気が吸いこまれたわん」

 ひゅぅぅ! べたっ。

「うわっ。入ってきた空気の勢いで皮ふの一部にはりついちゃったわん。早く抜け出さ」

「はっ、はっ、はっ、はっくっにゃああん!」

「きゃあああ! ミアンがくしゃみしたわぁぁん!」

 すっぽぉぉん! ぱたっ。

「ずるずるずる。……なんでにゃろ? 眠っていたら自分のくしゃみのせいで起きてしまったのにゃん。自分で自分を起こすにゃんて、うっかりもいいとこにゃん。

 ずるっ。おや、鼻水が出ているのにゃん。ひょっとしてウチは花粉症にかかったのかもしれないのにゃ。時期が時期だけにあり得ないことではにゃい。花粉に対するウチの許容範囲をついに越えてしまったに違いないのにゃ」

 はっ、はっくっにゃん!

「にゃるほど。これが『荒れるぎぃ』というやつにゃん。『ぎぃ』にゃんが荒れたから、くしゃみが始まったのにゃ。それにしても、『ぎぃ』にゃんって誰のことにゃろう?」

「(……新語が出てきたわん。ミアンったら、相変わらずわけの判らないことをいって一体ひとりで悩んでいるわん)

 ねぇ、ミアン。悩むのはそれくらいにして、ちょっとこっちへ来なさい」

「おや、ミーにゃん、帰ってきたのにゃん」

 すたすたすた。

「にゃあ、ミーにゃん。『ぎぃ』にゃんって誰のことにゃと思う?」

「そんなことどうでもいいわん。それより早く助けてよ」

「助けて? あれっ。にゃんでそんなべとべとな状態になっているのにゃん?」

「話せば長いことながら、聞けば短いなんとかだわん。いいから早く助けなさい」

「判ったにゃん」

 ぺろぺろ。ぺろぺろ。ぺろぺろ。

「よぉし。ミーにゃん、きれいに取れたにゃよ。にゃけど、このねばねば。にゃんだかウチの鼻水のような味がしたのにゃん」

「ふぅ。やっと身体が動くようになったわん。

 あのね、ミアン。鼻水のようなじゃなくて鼻水そのものだわん。しかもミアンのね」

「ウチの? にゃんでウチの鼻水にミーにゃんがとっぷりと浸っていたのにゃん?」

「その話をする前にね。やんなきゃならないことがあるでしょ?」

「なんにゃ? それ」

「えへん。第三十二話の始まりよぉ」

「ミーにゃん。にゃんでそんなに嬉しそうな顔をしているのにゃん?」

「だって今回はここまでが長すぎたんだもん」

 第三十二話『再び病院にて』


 びゅぅん! アタシは緑色の光弾となって飛んでいる。急ぐ時にはこれが一番。

 病院へつくと、すぐさま休憩室へと向かった。おそらく昼半はとうにすぎている。この時間ならミアンはそこにいるだろう、と予想をしてのことだ。

 ぬうぅっ。

 霊体のアタシには、休憩室のドアが開いていようがいまいが関係ない。そのままの状態で入っていける。

(とはいってもやっぱり入る時ぐらいは、『こんにちは』とか声をかけた方がいいのかな)

 アタシの予想どおり、ミアンは休憩室にいた。でも、今は毛づくろいに余念がないみたい。

「ねぇ、ミアン。ちょっと聞いてよ」とアタシはミアンの身体をゆさぶる。

「おや、ミーにゃん。戻ったのかにゃ。ちょいとお待ちにゃさい。あともう少しにゃから」

 ぺろぺろ。ぺろぺろ。

 盛んに自分をなめまわすミアン。『いつ終わるのかな?』と思ってじっとながめていたら、急にミアンはアタシに背を向けてしまった。

「どうしたの? ミアン」

 ミアンはアタシの言葉に顔を、くるっ、とこちらへ向けて、

「ミーにゃん。そんなに見つめられると、そのぉ、あのぉ」「うん?」

「……照れるにゃよ」といいつつ、ぽっ、と顔を赤らめた。

(ミアン。あなた今、なん歳だっけ?

 ……まぁ、いいわん、この際、ミアンの『しゃい』な性格は、ほぉっておいて、と)

「ねぇ、ミアンってばぁ」と再びアタシはミアンをゆさぶる。

「判っているのにゃよ」

 ミアンは、これが仕上げとばかり、最後に、『ぺろん』。

「はい、終わったのにゃん。どうにゃ? ずいぶんときれいになったにゃろ?」

「えっ。あっ、うん」

「適当に返事をするにゃあ」「ううっ。……ごめん。よく判らないの」

「そうにゃのか。……残念だにゃあ」とミアンはがっかりしたようだ。

「ミアン。そんなことよりさぁ」「うん?」

 アタシは早速、フーレの森で起きた一件をミアンに話し始めた。


「……ということがあってね。ラミアさんったらブルクにつき落とされて、穴の中へ真っさかさま。『うわぁ』っていいながら、こんな風に腕をぐるぐると回して。哀れだわん。ふふふ」

 身ぶり手ぶりを交えて、ミアンにことの仔細を説明した。今、想いだすだけでも愉快でたまらない。アタシはミアンの背中で笑いころげてしまった。

「面白いわん。本当にあの人にはあきないわん」

「ミーにゃん。そんなに動きまわると、ウチの背中から落ちるにゃん」

「ははははは。だって穴よ。穴に、ずどぉぉん、だなんて。ははははは」

「つぼにはまったみたいな笑い方にゃ。なんかラミアにゃんが可哀そうになってきたにゃよ」

「ひひひひひ。どうして穴に、穴になんか……、ひひひ。

 あぁ、笑いすぎて苦しいよぉぉ。ひひ……」

 笑いがとまらず、のたうち回るアタシの脳裏に、『もっと大事な話があるじゃない』との声がささやいてくる。

「ひひひ。……あっ、そうだ! ミアンに、もう一つ知らせたいことがあったんだ」

「なんのことにゃ?」

「あのね」

 アタシはミアンの、ぽやぁっ、とした顔の前へ降りたつ。

「ほら。以前、アタシがいっていたじゃない。探している花を見たことがあるって」

「そうにゃった。確かにそんなことをいっていたのを聞いた覚えがあるのにゃ」

「それよ。その場所が判ったの」

「にゃ、にゃんと! 一体それはどこなのにゃん?」

 先ほどまでとはうって変わって、ミアンは身を乗りだして聞いている。アタシとしても、これぐらいの態度を示してくれた方が、話しがいがあるというもの。

「ほら。ミアンも知っているでしょう? 『亜矢華』の頂上に穴が開いていることを」

「うんにゃ。知っているのにゃよ」「あの中を少しおりていくとね。内壁に沿って咲いているの。アタシ、遊びがてら、何回か行ったことがあるから間違いないわん」

「さすがは遊び好き妖精。たいしたものにゃ」

「それって、あまりほめたいい方じゃない気がするんだけど」

「まぁ、いいじゃにゃいか。でも、そうと判れば善は急げにゃ。ネイルにゃんに報告して、アリアでウチと一緒に行ってもらうことにするにゃ」

「そう? アタシもついていくね」

 アタシたちは、探している花『麻耶』があると思われる穴の中へと向かうことになった。

(さてと。ラミアさんは今、どこに?)


 どかどかどか! どかどかどか!

(あっ、やっときた!)

 ラミアさんが休憩室へと入ってきた。

「セレン。花が、やっと……」

 彼女は部屋をきょろきょろと見回している。今、この部屋にいるのはアタシだけ。ミアンはネイルさんのところへ行っちゃった。一瞬、アタシと目と目があった気がする。でも、声をかけてくることもなく、すぐに視線をそらした。やっぱり、アタシが見えないのだろう。となれば、部屋の中には誰もいない、と思うのは至極当然のこと。

「今は休み時間のはずなんだけどな」

 ラミアさんは休憩室を飛びだし、病院内を歩き始めた。『早く知らせたい』って気持ちが、ひしひしと伝わってくる。アタシもミアンたちの出発まで彼女のそばにいることにした。

 とある治療室の前に来た時、セレンさんの声が聞こえてきた。

「ここだ!」

 ドアを開けたラミアさんは、白いカーテン越しにセレンさんを見つける。「セレ……」

 声をかけようとしたラミアさんは目に映った光景に言葉を失う。

 カーテンの向こうにあるベッドの上には、少女が一人眠っていた。そのかたわらではセレンさんが真剣な表情で、患者の家族と思われる人たちに病状の説明をしている。

 ラミアさんはそっと耳をそばだてた。

「セレン殿。アムはまだ幼い。なんとかならぬものかのう」

「セレンさん。私からもお願いします。アムは歳こそ離れてはいますが、私の可愛い妹なんですよ。どうか治してやってください。お願いします」

「お二人の気持ちは痛いほどよく判る。だが、なにぶん新種の病ということもあって、治療薬が完成するまでにはまだ時間がかかりそうな気配だ。今、我らにできることといえば、病状の悪化をおさえるぐらいが関の山。すまないがもう少し辛抱してもらいたい」

 セレンさんと話をしているのは二人。どちらも着ている作務衣は藍色。村役場関係者であることを物語っている。ラミアさんは二人の姿を見て驚いたみたい。実は、アタシも誰だか知っている。一人は村役場の村長を務めているロゼルさん。もう一人はロゼルさんの秘書であり、かつ孫でもあるマリアさん。マリアさんもラミアさんとは学生時代、同級生だった人。今も親友の間柄とか。二人の思いつめた表情に、ラミアさんは声をかけることすらできなかった。


 ラミアさんは気づかれまいとしてか、無言のまま、そっと治療室を出ていった。

「そうか。『麻耶』はマリアの妹を治すのに必要だったんだ」

 彼女は急いで病院の玄関口から外へと飛びだす。

(ラミアさんはきっと、『亜矢華』へ向かうつもりなんだわん)


 病院の外でラミアさんの後ろ姿を見送っていたアタシに、『ここにいたのにゃん』とミアンが声をかけてきた。

「セレンにゃんもネイルにゃんも、今は忙しくて出かけられそうもないみたいにゃよ。手が空き次第、ネイルにゃんが行ってくれるらしいのにゃけれども」

「そう……。ラミアさんがたった今、向こうへ行ったの。だからアタシも先に行くね。あっちで落ちあおうよ」

「判ったにゃん。こちらが片づいたらウチらもすぐに行くから」「うん。お願い」

 アタシはミアンを背に、ラミアさんのあとを追った。

 第三十二話『再び病院にて』


 びゅぅん! アタシは緑色の光弾となって飛んでいる。急ぐ時にはこれが一番。

 病院へ着くと、すぐさま休憩室へと向かった。おそらく昼半はとうにすぎている。この時間ならミアンはそこにいるだろう、と予想をしてのことだ。

 ぬうぅっ。

 霊体のアタシには、休憩室のドアが開いていようがいまいが関係ない。そのままの状態で入っていける。

(とはいってもやっぱり入る時ぐらいは、『こんにちは』とか声をかけた方がいいのかな)

 アタシの予想どおり、ミアンは休憩室にいた。でも、今は毛づくろいに余念がないみたい。

「ねぇ、ミアン。ちょっと聞いてよ」とアタシはミアンの身体をゆさぶる。

「おや、ミーにゃん。戻ったのかにゃ。ちょいとお待ちにゃさい。あともう少しにゃから」

 ぺろぺろ。ぺろぺろ。

 盛んに自分をなめまわすミアン。『いつ終わるのかな?』と思ってじっとながめていたら、急にミアンはアタシに背を向けてしまった。

「どうしたの? ミアン」

 ミアンはアタシの言葉に顔を、くるっ、とこちらへ向けて、

「ミーにゃん。そんなに見つめられると、そのぉ、あのぉ」「うん?」

「……照れるにゃよ」といいつつ、ぽっ、と顔を赤らめた。

(ミアン。あなた今、何歳だっけ?

 ……まぁ、いいわん、この際、ミアンの『しゃい』な性格は、ほぉっておいて、と)

「ねぇ、ミアンってばぁ」と再びアタシはミアンをゆさぶる。

「判っているのにゃよ」

 ミアンは、これが仕あげとばかり、最後に、『ぺろん』。

「はい、終わったのにゃん。どうにゃ? ずいぶんときれいになったにゃろ?」

「えっ。あっ、うん」

「適当に返事をするにゃあ」「ううっ。……ごめん。よく判らないの」

「そうにゃのか。……残念だにゃあ」とミアンはがっかりしたようだ。

「ミアン。そんなことよりさぁ」「うん?」

 アタシは早速、フーレの森で起きた一件をミアンに話し始めた。


「……ということがあってね。ラミアさんったらブルクにつき落とされて、穴の中へ真っさかさま。『うわぁ』っていいながら、こんな風に腕をぐるぐると回して。哀れだわん。ふふふ」

 身ぶり手ぶりを交えて、ミアンにことの仔細を説明した。今、想いだすだけでも愉快でたまらない。アタシはミアンの背中で笑いころげてしまった。

「面白いわん。本当にあの人にはあきないわん」

「ミーにゃん。そんなに動きまわると、ウチの背中から落ちるにゃん」

「ははははは。だって穴よ。穴に、ずどぉぉん、だなんて。ははははは」

「つぼにはまったみたいな笑い方にゃ。なんかラミアにゃんが可哀そうになってきたにゃよ」

「ひひひひひ。どうして穴に、穴になんか……、ひひひ。

 あぁ、笑いすぎて苦しいよぉぉ。ひひ……」

 笑いがとまらず、のたうちまわるアタシの脳裏に、『もっと大事な話があるじゃない』との声がささやいてくる。

「ひひひ。……あっ、そうだ! ミアンに、もう一つ知らせたいことがあったんだ」

「なんのことにゃ?」

「あのね」

 アタシはミアンの、ぽやぁっ、とした顔の前へ降りたつ。

「ほら。以前、アタシがいっていたじゃない。探している花を見たことがあるって」

「そうにゃった。確かにそんなことをいっていたのを聞いた覚えがあるのにゃ」

「それよ。その場所が判ったの」

「にゃ、にゃんと! 一体それはどこなのにゃん?」

 先ほどまでとはうって変わって、ミアンは身を乗りだして聞いている。アタシとしても、これぐらいの態度を示してくれた方が、話しがいがあるというもの。

「ほら。ミアンも知っているでしょう? 『亜矢華』の頂上に穴が開いていることを」

「うんにゃ。知っているのにゃよ」「あの中を少しおりていくとね。内壁に沿って咲いているの。アタシ、遊びがてら、何回か行ったことがあるから間違いないわん」

「さすがは遊び好き妖精。たいしたものにゃ」

「それって、あまりほめたいい方じゃない気がするんだけど」

「まぁ、いいじゃにゃいか。でも、そうと判れば善は急げにゃ。ネイルにゃんに報告して、アリアでウチと一緒に行ってもらうことにするにゃ」

「そう? アタシもついていくね」

 アタシたちは、探している花『麻耶』があると思われる穴の中へと向かうことになった。

(さてと。ラミアさんは今、どこに?)


 どかどかどか! どかどかどか!

(あっ、やっときた!)

 ラミアさんが休憩室へと入ってきた。

「セレン。花が、やっと……」

 彼女は部屋をきょろきょろと見まわしている。今、この部屋にいるのはアタシだけ。ミアンはネイルさんのところへ行っちゃった。一瞬、アタシと目と目があった気がする。でも、声をかけてくることもなく、すぐに視線をそらした。やっぱり、アタシが見えないのだろう。となれば、部屋の中には誰もいない、と思うのは至極当然のこと。

「今は休み時間のはずなんだけどな」

 ラミアさんは休憩室を飛びだし、病院内を歩き始めた。『早く知らせたい』って気持ちが、ひしひしと伝わってくる。アタシもミアンたちの出発まで彼女のそばにいることにした。

 とある治療室の前に来た時、セレンさんの声が聞こえてきた。

「ここだ!」

 ドアを開けたラミアさんは、白いカーテン越しにセレンさんを見つける。「セレ……」

 声をかけようとしたラミアさんは目に映った光景に言葉を失う。

 カーテンの向こうにあるベッドの上には、少女が一人眠っていた。そのかたわらではセレンさんが真剣な表情で、患者の家族と思われる人たちに病状の説明をしている。

 ラミアさんはそっと耳をそばだてた。

「セレン殿。アムはまだ幼い。なんとかならぬものかのう」

「セレンさん。私からもお願いします。アムは歳こそ離れてはいますが、私の可愛い妹なんですよ。どうか治してやってください。お願いします」

「お二人の気持ちは痛いほどよく判る。だが、なにぶん新種の病ということもあって、治療薬が完成するまでにはまだ時間がかかりそうな気配だ。今、我らにできることといえば、病状の悪化をおさえるぐらいが関の山。すまないがもう少し辛抱してもらいたい」

 セレンさんと話をしているのは二人。どちらも着ている作務衣は藍色。村役場関係者であることを物語っている。ラミアさんは二人の姿を見て驚いたみたい。実はアタシも誰だか知っている。一人は村役場の村長を務めているロゼルさん。もう一人はロゼルさんの秘書であり、かつ孫でもあるマリアさん。マリアさんもラミアさんとは学生時代、同級生だった人。今も親友の間柄とか。二人の思いつめた表情に、ラミアさんは声をかけることすらできなかった。


 ラミアさんは気づかれまいとしてか、無言のまま、そっと治療室を出ていった。

「そうか。『麻耶』はマリアの妹を治すのに必要だったんだ」

 彼女は急いで病院の玄関口から外へと飛びだす。

(ラミアさんはきっと、『亜矢華』へ向かうつもりなんだわん)


 病院の外でラミアさんの後ろ姿を見送っていたアタシに、『ここにいたのにゃん』とミアンが声をかけてきた。

「セレンにゃんもネイルにゃんも、今は忙しくて出かけられそうもないみたいにゃよ。手が空き次第、ネイルにゃんが行ってくれるらしいのにゃけれども」

「そう……。ラミアさんがたった今、向こうへ行ったの。だからアタシも先に行くね。あっちで落ちあおうよ」

「判ったにゃん。こちらがかたづいたらウチらもすぐに行くから」「うん。お願い」

 アタシはミアンを背に、ラミアさんのあとを追った。


「ミアン。残念でした。赤いマントじゃなかったみたいね」

「『毛づくろい』とは盲点だったにゃ。よく考えてみれば、これか眠っているか、のどちらかである可能性が高いのはあたりまえだったのにゃん。猫の生態としてはごく自然の姿なのにゃし」

「ねぇ、ミアン。気がついている? ついに出てきたわん」

「マリアにゃんにゃろ? もちろんにゃよ」

「ほら。以前、本から飛びだしてきたことがあったじゃない。あの時、このお話では出番が少ないって、ぐちをこぼしていたわん。ひょっとしたら、あれでおしまいかもよ」

「だとしたら、不遇の『きゃら』にゃん。可哀そうに、にゃ」

「もっと出番があるといいわん」

「ウチらのなじみだものにゃ。親しくさせてもらっているし、ぜひ、そうあってほしいものにゃん」


「ミアンがなめたから身体中がミアンの匂いになったわん」

「どんな気持ちにゃん?」

「悪くはないわん。だけどやっぱり、きれいに身体を洗いたいな」

「洗面所にでも行ったらどうにゃん? ウチもついていってあげるのにゃよ」

「そうしようかなぁ。……あっ!」

「ミーにゃん。どうしたのにゃん?」

「これまでのいきさつからすっかり忘れていたわん。あたし、ミアンに知らせたいことがあったのよ」

「知らせたいこと? 一体なんなのにゃ?」

「えへん。ミアン、よく聞いてよ。実はね」



 むしゃむしゃ。むしゃむしゃ。

「なかなかうまいもじ。それに食べれば食べるほど、霊力が身についてくるもじ。さてと。この部分のお話は全部平らげたから次の……。

 な、なんと! ここから前は誰かが既に読んでいるもじ。その証拠に文字の中にこめられている霊力が弱くなっているもじ。これではこの本に含まれている霊力を完全な形で手に入れることができないもじ。くやしいもじ。このままではいけないもじ。どうしたらいいか考えるもじ」

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