表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
天空の村・アタシはミーナ  作者: シード
30/42

第二十九話『激流』

「はい。なみこ、を頭に戻したのねっ。これでどうなのよねっ」

「うん。やっと可愛いお人形さんらしくなったわん」

「髪は人形の命にゃあ。大切にした方がいいと思うのにゃよ」

「なみこ、は身体の一部だしねっ。もちろん、なのねっ」

「それはそうと、よしこにゃんたちは妖魔の海に出たのにゃろ? 結果はどうなったのにゃん?」

「だめだったみたいなのねっ。ほとんどが返り討ちのような目にあったみたいねっ」

「それはまたどうしてなの?」

「吸血鬼としての弱点は克服していたんだけどねっ。人形としての弱点はそのままだったのが敗因みたいねっ」

「人形としての弱点って?」

「人が、両手あるいは道具で簡単に壊せるのねっ。火にくべれば灰になってしまうのねっ。みたいな感じで、要するに普通の人形が壊れるようなことをやれば、簡単に壊れてしまうっていう話なのねっ」

「あれっ。でも、火には強くなったんじゃなかったっけ?」

「霊体としてはねっ。でも、人形としては弱いから結果的には燃えてしまうのよねっ。本当、意味がないのよねっ」

「じゃあ、よしこ、は、なんとか吸血鬼の元に戻れた、数少ない一体ってわけ?」

「そういうことねっ」

「よしこ、は、そのあと、どうなったの?」

「他の仲間とともに、部屋の隅っこに片づけられたのねっ。つまり、捨てられてしまったのねっ」

「その、よしこ、が、どうしてここにいるの?」

「そこにゃ。ウチもそこが聞きたいのにゃん」

「よしこ、はねっ。いつまでも『ほこりにまみれた人形』でいるのは嫌だったのねっ。だからねっ。自力で、みよこ、とともに、妖魔の海へ飛びこんだのねっ。あとは流れ流れて……、ふと気がつけば、妙な空間へと通じる入口が開いていたのよねっ。なんだろう? と思って興味本位で流れていったらねっ。ここにたどりついた、ってわけなのよねっ」

「それで、アタシたちと会ったんだぁ」

「もちろん、あなた方と逢えたのはねっ。あなたが、みよこ、を引っくり返したからなんだけどねっ」

「ご、ごめんね、よしこ」

「もう責めてなんていないわねっ。むしろ、それで逢えたことに感謝すべきかもねっ」

「感謝を? どうしてにゃん?」

「どうしてなの?」

「だってねっ。あなた方は、よしこ、を……そのぉ、初めて……友だちといってくれた霊体たちなのよねっ」

「そうかぁ。そうよねぇ」

「ウチも逢えてよかったと思っているのにゃよ」

「よしこ、も……」

 ばたっ!

「よしこにゃん!」

「よしこ! どうしたの? 急に倒れちゃって」

「どうやら、妖魔力が限界に近づいてきたみたいなのねっ。このままでは」

「そんなぁ。……よしこ、アタシたちになにかできることはないの?」

「よしこにゃん。あるのにゃらいってみるのにゃ」

「ミーナ、ミアン……。それじゃあ、お願いがあるのねっ。よしこ、を、みよこ、に戻して欲しいのねっ」

「みよこ、に? ああ、棺桶にね」

「みよこ、にはねっ。まだかなりの妖魔力が残っているのよねっ。それで体力を補って、妖魔の海に戻ろうと思っているのねっ」

「妖魔の海に?」

「妖魔の海には妖魔波が絶えず発生しているのねっ。あそこで漂っていれば、血を吸わずとも、妖魔力を回復させることができるのよねっ」

「ミーにゃん。それじゃあ、人間の子ども姿になって、よしこにゃんを運ぶのにゃ」

「よぉし。アタシに任せなさい!」

 ぱかっ。

「ミーナ。あなたって、本当に変化へんげがうまいのねっ。人間そっくりねっ」

「えへん。それじゃあ、連れて……行く前に、第二十九話だわん」

「ミーにゃん……。にゃんか、ほっとしたような顔をしているのにゃけれども」

「ううっ。しまったぁっ、わねっ」

「よしこにゃん……。にゃんか、こっちは残念そうな顔をしているのにゃけれども」

 第二十九話『激流』


 レミナさんの身体に結びつけてあるロープは穴の上へと伸びている。

「これを使っても大丈夫かなぁ」

 彼女が念のため、みたいな感じで、ぐぃ、と引っぱると、なんの抵抗もなくロープのはしが落ちてきた。

「だめだ。切られている……。きっとブルクたちみんなで、よってたかってかみきったんだよ」

 ラミアさんは穴の入口を見あげる。でも、そこまでは遠い。

「のぼれるかなぁ」

 手につばを、ぷっ、とふきかけ、土と石で覆われた内壁へと張りつく。

「落ちないでくれよぉ。……うわあぁ!」

 上の石へ右手がかかる寸前、力んだせいか、左手、両足がすべって、……ずるり、と穴の底へ落ちちゃった。

「だ、大丈夫? ラミアさん」

「痛たたた! ……暗くてよく判らないな」と腰をおさえ、顔をゆがませるラミアさん。

「ここはこけのせいですべりやすい石が多いんだ。ロープなしでのぼるのは無理だよ」

「だけどなぁ、レミナ。それじゃあ、どうやってここから出ていくつもりなんだ? 他にどうしようもないじゃないか。ここは自由の森じゃない。フーレの森だ。使い手であるお前の許可がなくちゃ誰一人、この森には入れない。大声で叫んだってむだだ。アーガを呼ぶには呼べるが、こんな狭い穴になんか入れるもんか」

「アーガの実体波って確か変形が可能だったよね。細長い形になってもらえばいいじゃない。穴の上からここまで届くぐらいの長さがあれば、つかまってあがれるよ」

「無茶なことをいうな。霊翼竜がまとっている実体波は肉体とそう変わらない。身体もでかいから、それを壊したり造りなおしたりするのは負担が大きすぎる。容易にできるのは、大きさや形の決まった人型、獣型くらいとかぎられている。お前だって知っているはずだ。よっぽどのことがないかぎり、使い手としてそんな指示を出すことはできない。無理な話だ」

「となると、別な方法を考えなきゃだめだね」

「問題はまだある。なんとかして穴の外まで出られたとしても、だ。上にはブルクが群がっている。また襲われてここへ逆戻りが関の山さ。……ふぅ。本当にどうしたらいいんだ?」

 みけんにしわをよせ、腕を組んでいるラミアさん。

「まぁまぁ。そんなに真剣に悩まなくたって大丈夫だよ」

「というと? レミナ、なにかいい考えでもあるのか?」

「簡単な話、あちきが霊覚交信を使ってアーガに伝言を頼めばいいのさ。

『自分の森なのに動けなくなっちゃった。助けてぇ』って。あちきの了解があれば、誰でもこの森に入れる。助けにきてくれるよ」

「レミナ……。その案は却下する。こんなことで助けられてでもしてみろ。かっこ悪いったら、ありゃしない。物笑いの種にされるのは目に見えている。あたいは仮にも『使い手』と呼ばれる身だ。立場ってものがある。大体ここはお前の森だ。一番はじをかくのはお前じゃないか」

「まぁ、それはそうだけどね」

「そりゃあ、ネイルにでも頼めばすぐに来てくれるだろうし、あいつは口が堅いから誰にもばれないですむ。助ける力もある。だけどできることなら、それをやるのは最後の最後にしたい。

 レミナ、もっといい案はないのか?」

「うふっ。そういうと思った。大丈夫だよ、ラミアさん。とびっきりの方法があるんだ。しかも既に経験ずみ。必ずここから出られるよ」

「経験ずみ? ……そういやあ、お前、ここに来たことがあるんだっけ。一体どうやって抜けだしたんだ?」

「まぁ、任せておきなよ、ラミアさん」

 親指を立て、にっこりと微笑むレミナさん。『モーム!』って雨神の名を叫んだあとは、鍵状に曲げた人さし指を口にくわえてふき鳴らした。

 ぴぃぃっ! ぴぃぃっ!

「レミナ。なんでフーレを呼ぶんだ?」

「どうしても必要なの。ここから出るためにはね。まぁ、見ていなよ、ラミアさん」

「レミナ。あたいはもう一度だけ、内壁を試してみるよ」

「どうしてぇ?」

「お前と二人っきりになった時って、必ず悪いことが起きるからな。今回もなんか嫌な予感がする。……じゃあ、行ってくるぞ。それっ!」

 ラミアさんは再び内壁に張りつく。

「考えすぎだよぉ……って、また始めちゃった。相変わらず頑強な身体をしているなぁ。ラミアさんは。……あっ!」

 モームの気配を感じたみたい。レミナさんは霊覚交信を始めた。

「モーム。近くにいるよね」「けるるる(ええ。今、穴の上空にいるわ)」

「霊水をたっぷりと飲んだまま?」「けるるる(そうよ)」

「じゃあ、景気よく穴の中へぶちまけちゃってよ」

「けるるる?(またやるの? 本当に危険じゃないの?)」

「この前だって、ここを霊水でいっぱいにしたら簡単に出られたじゃない。だから、今度も大丈夫。安心して」

「けるるる(判ったわ)」

「遠慮は無用だよ。早く出たいんだ。思いっきりやっちゃって」

「けるるる(任せて)」

《モーム。……レミナさんご愛用のフーレ。全ての雨神フーレを統率する長でもある》


 どがっ!

「あ、痛たたた!」

「あれっ、ラミアさん。ひょっとして今までのぼっていたの?」

「ああ、三分の一ぐらいまでは。だけど、油断したよ。また落ちてしまった」

「もうやめなよ、ラミアさん。そろそろモームが始めるから、それに備えていた方がいいって」

「モームが始める? 一体なにを?」

「なにを、って……。今の霊覚交信を聞いていなかったの?」

「のぼるのに神経を集中させていたからな。それどころじゃなかった」

 ラミアさんは底にぶつけた腰をもみながら答えている。

「この壁じゃあ無理もないか……。ラミアさん。簡単に説明するとね。モームが今、上空にいるの。これから穴の中へ霊水が、どかっ、と降ってくるよ」

「この穴に、か? なるほど。水の力でここから脱出しようっていうわけだな」

「そういうこと。うん? 水がぽたぽたと落ちてきた」

「始まったか。助かったよ。なんとかここから出られそうだな」

「うん。降れぇ! 降れぇ! もっと降れぇぇ!」

「そうだ。もっと……。おい、レミナ。あれは!」「うわぁぁん!」

 ざぶん! ざぶん! ざぶざぶざぶ……。

 霊水が激流となって、一気に穴の中へと流れこんできた!

「レミナ。お、お前、どんな指示を与え……、うっぷうっぷ」

「あ、あちきはただ……、うっぷ。思いっきり、やれと……、うっぷ」

「あのなぁ……、うっぷ。水を流しこむんだぞ。思いっきり、といったって……、うっぷ。限度ってもんが……、うっぷ」

「ああん。ラミアさぁぁん!」「もうだめだぁぁ!」

 浮上しようとしている身体を落ちてくる水が押しもどす。懸命にもがくものの、ぐるんぐるん、と穴にたまった水の中を回るだけで、外へ出ることができない。水の勢いにのまれて、とうとう力つきたのか、あるいは気を失ったかで二人は目をつむり、腕をだらりとさげた。

(大変だぁ。二人とも、洗濯槽に放りこまれた洗濯物のように回っているわん。

 ふぅ。こんなこともあるんじゃないかと思って、身体の霊波を弱めておいたのは正解だったみたい。おかげでアタシは巻きこまれずにすんだわん)


「水の中をぐるぐる……とはにゃあ。想像するだけでも身ぶるいがするのにゃけれども」

「本当よ。お話のミーナは偉いわん。よくぞ危険を回避したって、ほめてやりたいわん」

「ちなみにミーにゃん。水だけで汚れはとれるものなのにゃろうか?」

「しつこい汚れには……、なんてものもあるみたいね」

「実体波を持つ身としては、衛生管理の為、食器は清潔であってほしいものにゃん」

「そうね……って、これ、お話の感想とはだいぶ、かけ離れすぎてやしない?」

「まぁまぁ。たまにはいいにゃん」


「よしこぉ、物置部屋に着いたわん」

「やっと戻れたわねっ……て、ちょっとミーナ。口が悪すぎるわねっ」

「えっ。アタシ今、なんか変なこといったっけ?」

「物置とはなにごとなのねっ」

「だって、部屋を見回せば、どう考えても物置にしか見えないじゃない」

「うぉっほん。あのねっ、ミーナ。仮にも、よしこ、が寝室にしている場所なのよねっ。となれば、……ええと……そのぉ……、のど近くまで出かかっているのに、なかなか言葉にできないのねっ」

「『貴賓室きひんしつ』っていいたいのにゃん?」

「そう! それなのよねっ。さすがはミアンなのねっ。やっぱり、ミーナとはだいぶ頭の質が違うのよねっ」

「ああっ! その差別的発言! 絶対に許せないわん! こうなったら、この棺桶、いや、みよこ、を壊しちゃおうかな」

「うわぁっ、なのねっ。前言撤回するわねっ。ミーナもいい頭を持っているのねっ」

「ふふん。判ればいいのよ、判れば。ねぇ、ミアン」

「ねぇ、って、いきなり話をふられても困るのにゃよ。どちらにしても、ウチとミーにゃんじゃ、たいした頭じゃないしにゃ」

「ミアンってばぁ。そんなに自虐的な考え方をしなくてもぉ」

「事実をいっているだけなのにゃけれども。

 まぁ、お喋りはこれくらいにして、そろそろよしこにゃんを休ませてあげようにゃん」

「そうね。よしこ、も、ぐったりとしてきたみたいだから。ここらへんで幕とするわん」

「ミーにゃんも判ってくれたようだし、さぁ、よしこにゃん。これからどうすればいいのにゃ?」

「そうねっ。ええと、……まずはねっ。みよこ、をこの棚に置いてほしいのよねっ」

「ここね。わかったわん」

 がたっ。

「次に、よしこ、をねっ。みよこの中に寝かせてほしいのよねっ。あっ、乱暴に扱ってはいけないのよねっ。……そう、そんな調子で」

 さわっ。

「これでいい?」

「うんうん。なかなか寝かせ方がうまかったわねっ、ミーナ」

「それでお次は?」

「みよこ、のふたを閉じてほしいのよねっ」

「ふた? ああ、これね。じゃあ、閉じるわん」

「あっ、待って」

「どうしたの? よしこ」

「別れの言葉をいいたかったのねっ。

 いろいろあったけどねっ。ふり返ってみれば、楽しかったのよねっ。だから二体ふたりには礼をいうわねっ。ありがとうねっ」

「途中ぐらいまでは怖かったのにゃけれども」

「アタシも」

「いっておくけどねっ。そうなった原因っていうのはあんたたちにあるのよねっ」

「うわあぁぁ。ご、ごめん、よしこ」

「ふふ。ミーナ。もう終わったことなのよねっ。気にしてなんかいないのよねっ」

「あ、ありがとう、よしこ」

「よしこ、こそ。楽しい時間をくれてありがとうねっ」

「アタシも楽しかったわん」「ウチも、にゃ」

「よしこ、は、これから、妖魔の海に戻るわねっ。また逢えるかどうかは判らないけど、一応いっておくねっ。……じゃあ、またねっ」

「うんにゃ。また逢おうにゃん」「アタシもいつか逢える日を楽しみにしているわん」

「……なごりはつきないけどねっ。ここまでにするわねっ。ミーナ、ふたを閉じてちょうだいねっ」

「うん」

 がかっ。

「ミアン、終わったねっ。……あっ!」

 ぴかぁぁん!

「みよこにゃんが輝きだしたのにゃあ!」

 ひゅぅぅっ。

「みよこ、が……消えていくぅ。……あっ!」

「完全に消えてしまった……にゃん。よしこにゃんが妖魔の海に旅立ったのにゃ」

「行っちゃったかぁ」

 ぱかっ。

「妖精の姿に戻ったのにゃん」

「これが本当のアタシだもの。……ねぇ、ミアン」

「なんにゃ? ミーにゃん」

「またアタシたちだけになったね」

「静かになったのにゃん」

「ミアンはどこにもいかないよね? アタシのそばにずっといてくれるよね?」

「ウチにはご主人様がいるのにゃよ。にゃから帰らなきゃならないのにゃけれども……、

 それでも、一日ずっと逢えないってことはないと思うのにゃ。少なくとも、ミーにゃんが逢いたいって思ってくれるのにゃら」

「うん。それでいいわん。ありがとう、ミアン。アタシ、ミアンに逢えて本当によかったわん」

「ウチも、にゃよ。……それじゃあ、ミーにゃん。そろそろ読書の間へ戻ろうにゃん」

「うん。戻ろう」

 すたっ、すたっ、すたっ、……。

 ぱたぱたぱた、ぱたぱたぱた、……。



「ひさしぶりねぇっ。妖魔の海に、ぶらんこ、ぶらんこ、揺れる感じはねっ。

 ……ふぅ。意外と楽しかったわねっ。ねぇ、なみこ。なみこ、もそう思わない?

 …………えっ!」

 がばっ!

「あのがいないって……。そういえば、なみこ、の中で眠っていたはずよねっ。それがいないってことは……、確か、あの部屋には本が置いてあったわねっ。ひょっとすると、あの中に潜りこんだんじゃないかしらねっ。

 まずいわねぇっ。あの妖、よしこ、の友だちに悪さをするかもしれないわねっ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ