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天空の村・アタシはミーナ  作者: シード
29/42

第二十八話『穴の中で』

「ミーにゃん、さっきは済まにゃい。昔話なのに、ウチとしたことがつい取り乱してしまって」

「ううん。いいのよ、ミアン。悪いのはアタシなんだから」

「こんなウチでも親友のままでいてくれるのにゃん?」

「あたりまえじゃない。アタシたちは未来永劫、親友だわん」

「ミーにゃん……」

「ミアン……」

 ひしっ。

「……なんか見ているだけで背中がかゆくなってきたわねっ。それに、なんで抱きあっている二体ふたりの周りだけが桃色の色彩を帯びているのかしらねっ。濃い桃色の『はぁぁと』も、ぶんぶんと湧きあがってきたしねっ。あっ、こっちにも飛んできたわねっ」

「よしこにゃん。これが愛というものにゃんよ」

「そうね。今、アタシたちは愛の中に埋もれているんだわん」

「うわぁ! じんましんが身体中にぃ! ……なのねっ!」

「よしこにゃん。あんたは人形にゃ。その黒ずんでいるのはただの汚れにゃよ」

「あら……本当。拭いたらきれいになったわねっ。やっぱり、こまめな手入れは必要みたいねっ」


「ミーにゃん。そろそろよしこにゃんに話を再開して貰おうにゃん」

「それがいいわん。よしこ、お待ちどうさま」

「ええとねっ……」

「どうしたの?」

「よしこ、どこまで話したかしらねっ。間が開いたから、忘れちゃったのよねっ」

「もう、なの?」

「妖魔力が切れかかっているから、記憶を保つのが難しくなっているみたいなのよねっ」

「アタシは覚えているわん。種を血に浸す、まで聴いたのよ」

「あっ、そこまで話しているのねっ。それじゃあ、つづきを始めるわねっ」

「うん。お願いするわん」

「血をぜぇぇんぶ吸いとったあとはねっ。種を人形の真上から落とすのねっ。すると自然にねっ。身体の中へ沈んでいくのねっ」

「ふんふん。それで?」

「あとは……ただひたすら待てばいいのねっ。種の中では吸血鬼の念がゆっくりと熟成されて、一つの命を形造っているのねっ。種が発芽するのは、霊体が生まれいでたあかしなのよねっ」

「種から霊体が生まれるんだぁ。それって妖魔なの?」

「違うのよねっ。ただの霊体……、ううん、それも違うわねっ。使える妖魔力もあるしねっ。さしづめ、『妖魔もどき』っていうところじゃないかしらねっ」

「それが、よしこ、なのかぁ」

「ううん。よしこ、だけじゃないのねっ。吸血鬼は一度にたくさんの吸血人形を造って、『妖魔の海』へ流したのよねっ」

「よしこ、妖魔の海って、なんなの?」

「それを説明する前に、第二十八話へいきたいのよねっ」

「うわぁん! また先にいわれちゃったわん!

 ミアン、今の聞いた? また、よしこが」

「ウチはにゃ。台詞のほとんどをミーにゃんに取られてしまったのにゃん」

「えっ。……ごめんね、ミアン」

 第二十八話『穴の中で』


 ひゅぅっ。……どがっ!

「うっ!」

 ラミアさんは穴の底に激突する。

「……あ痛たたた!」「ラミアさぁん、大丈夫?」

 上の方から声が聞こえてくる。レミナさんは穴の内壁に張りついていた。

「今、行くよぉ!」

 黄色い霊波に覆われた彼女がロープを伝っておりてくる。アタシはてっきり、底につくまでそのままだと思っていた。ところが。

「そらぁ!」

 何故か途中から、ふわっ、と飛びおりた。

(どうして、あんな高いところから? 一体あの行動にどんな意味が)

 べたっ! 「むぎゅ!」

「よし。着地は百点満点。うまくいった」

(なにが? レミナさん。もう少し妖精にも判る行動をお願い)

「……あれっ。ラミアさんがいない。先に落ちたと思ったんだけど」

 レミナさんがあたりを見まわすも、誰もいないので首をかしげている。

「お、お前……」

 息もたえだえに聞こえてくるラミアさんの声。レミナさんは足元を見おろした。倒れている者の顔が霊火の灯りに照らされている。

「やあ、ラミアさん。こんちわぁ」

 レミナさんは、にこにこ顔でしゃがんだ。

「ひとりぼっちになっちゃったかと思ったよ。

 ねぇ、ラミアさん。どうなの? どこか痛いとこはなぁい?」

「なぁ、レミナ」「うん? なぁにぃ?」

「あたいの心配をしてくれるなら、早くおなかから降りてほしいんだけどな」

「えっ。あっ、ごめぇん。つい」

 ぴょん、とレミナさんは飛びおりた。

「ぐっ。……降りるなら、そっと降りやがれ」

 ラミアさんは不機嫌そうな顔をしている。

「あと、『つい』の二文字ですますな。あたいがこんな痛い思いをしたっていうのに」

「それなんだけどさぁ。急にロープがゆるんだよ。一体、上でなにがあったの?」

「へっ? ……そうか。お前は知らないんだっけ。

 ブルクがたくさん現われたんだよ。いきなり襲われて穴の中へつき落とされたってわけさ」

「ふぅん。たくさんか。割りと早く戻ってきたんだな。いつもはもっとゆっくり、なのに。

 ラミアさんって、ひょっとしたら疫病神やくびょうがみなのかもね」

 うんうん、と自分なりの理由を考えて納得したレミナさん。

「なにをいっているんだ。元はといえば、お前がこんなことを考えたのが」

「あれっ、もう忘れたの? ラミアさんも賛成したよ。じゃなかったら、やれなかったもん」

「そうだったな。今思えば、なんで装飾具なんてほしいと思ったんだろう。ひょっとすると、今日は厄日やくびなのかもしれない。……ところで、レミナ」

「なに? ラミアさん」

「お前。あの時、入り口近くにいたよな。いきなりロープに張りがなくなったはずなのに、なんで落ちなかったんだ?」

「ラミアさん。霊力者っていうのは本能的に危険を察知するもんなんだよ。理屈じゃない。さっきまで、あちきの身体が黄色い霊波をまとっていたのが、その証拠じゃない。前の時もそうだったけど、本能が『要注意』って知らせてくれたんだよ。

 あちきはね。ロープがゆるくなる前に胸騒ぎが起きていたの。『なにかあったな』って思ったから、ロープじゃなくて内壁の岩にしがみついていたってわけ」

「本能か……。あたいも霊力者なんだけどな。どうしてお前みたいに感が働いてくれなかったんだ? そうなってくれりゃあ、こんな風に穴の中へつき落されて、痛い目に遭わなくてもすんだのに」

「そんなの決まっているじゃない」「なんでだ?」

「あちきを見てごらん。こんな華奢な身体が穴の上からここまで落ちてみなよ。よくて大怪我、悪けりゃ命にかかわる事態が発生したんだ。だから、本能が教えてくれたんだよ」

「だって、お前には黄色い霊波が」

「黄色い霊波は自分で意識した時か、あるいはさっきもいったとおり、本能が危険を察知した時しか発動しないの。普段はただの可憐な美少女だよ。ラミアさんだって知っているじゃないか」

「それは判るけどな、……って、誰が可憐な美少女だ!」とつっこみを入れるラミアさん。

「あちきあちき」と自分を指さすレミナさん。

「あのなぁ。……まぁ、それはともかく、あたいは? あたいだって同じだろう?」

「ラミアさん。今、あちきのいったこと聞いていなかったの? あちきにとってこの穴に落ちるのは、死を意味するかもしれない事態だったんだよ。それに引きかえ、特異な身体を持つラミアさんには全然たいしたことじゃなかったのさ。だから、本能が働かなかったんだよ」

「お、お前なぁ」

「否定したかったらしてもいいよ。でもそれ以外、どう考えるっていうの?」

「くっ。いいにくいことをずけずけと。……だけど、あれだけの高さから落ちたのにもかかわらず、今は痛みすらないのも事実。認めざるをえない……か。

 判ったよ、レミナ。そういうことにしておいてやるよ」

「うん。判ってくれてなにより」

「ちぇっ。……それはそうと、ファライアだっけ。まさか、落として壊れた、なんてことは」

「大丈夫だよ、ラミアさん。この石はそんなやわな代物じゃない。それにさ。さっきもいったけど、思った以上に採れたんだ。これだけあれば当分は不自由なく、装飾具造りに没頭できる。ラミアさんの装飾具も造ってあげられるよ」

 レミナさんは背中の袋を、ぱんぱん、とたたく。

「ふぅ。骨折り損のくたびれもうけにならずにすんだってわけだ。やれやれ」


「ラミアにゃんはものすごく丈夫な体をしているのにゃあ」

「そりゃそうだわん。なんせ、ドラスの細胞と血を受け継いでいるんだもの」

「ミーにゃんも怪我をしたって記憶はないのにゃろ?」

「実体波を纏っているから、切り傷ぐらいはできるわん。でも、すぐに治せるけどね」

「痛覚も消そうと思えばすぐに消せるから、痛みに耐えるにゃんてことをしなくてもいいのは助かるのにゃ」

「ここらへんが実体を持つ人との差かな。とどのつまり、痛がる人を見て可哀そうだわん、とか気の毒だわん、とか思っても、それがどれほど辛いものかなんて、本当は理解できていないのよね」

「自分が同じ痛みを抱えた時、初めて知るのにゃよ。ああ、こんなにも痛かったのか、にゃんて。そして、自分の、認識の甘さについて反省することになるのにゃ」

「ねぇ、ミアン」

「なんにゃ? ミーにゃん」

「アタシたちってさ。今日は割と、まともなことをいっているとは思わない?」

「ミーにゃん。どんにゃに隠そうとしても、ウチらが知性と教養溢れる霊体であることは、隠しきれないものにゃん」

「そうよねぇ。隠しきれないのよねぇ」

「にゃははは」

「あははは」

「……どうしようかしらねっ。二体ふたりとも、こちらへ視線を、ちらちらっ、とむけているけどねっ。つっこんであげた方がいいのかしらねっ。うぅん、悩むわねっ」


「妖魔の海っていうのはねっ。簡単にいえば、大宇宙の縮図みたいなところなのよねっ」

「随分と簡単にいったにゃあ」

「あら、今度はミアンが相手なのねっ」

「ミーにゃんが、どうぞ、って譲ってくれたのにゃん」

「いい親友を持ったわねっ」

「ありがたいことにゃん。……それで、もうちょっと判りやすく説明して貰いたいのにゃけれども」

「そんな風に聴いてくれるのを待っていたのよねっ。

 妖魔の海はねっ。妖魔波を造りだす源であると同時にねっ。未知なる世界へ通じる空間でもあるのよねっ。そこには全宇宙の、ありとあらゆる世界への入口が点在しているのねっ。吸血鬼はここに目をつけたのねっ。よしこ、たちをこの海に流してねっ。無限ともいえる数の入り口から、自分たちの餌となりやすい、いや、支配しやすい生き物が多く棲む世界を探させようとしたのねっ」

「随分と怖い旅の動機にゃん」

「本当本当。まぁ、それはともかくとして。

 だったら、どんなところへでも行けるのね。まるで『天外魔境』みたいだわん」

「あら、ミアンを押しのけて、ミーナが口を出してきたわねっ」

「だって我慢できなくなったんだもん」

「ミーにゃん。『といれ』にゃら……」

「んもう! 『といれ』じゃないわん!」

「ふふっ。まぁ、『といれ』はこの際、置いておくとして。

 ミーナ。天外魔境って、自分が行きたいところを念じるだけで行けちゃう、っていう分岐点のことよねっ?」

「うん。アタシたちはそこをとおってここに来たの」

「そう……、あんたたちは天外魔境を使えるのねっ」

「よしこ、は、できないの?」

「天外魔境の分岐点にたどりつくには霊力の磁場嵐をくぐり抜けなくちゃいけないのよねっ。よしこ、では無理なのよねっ」

「苦労をしてまで天外魔境に行く必要はないわん。だって、よしこ、には妖魔の海があるんでしょ?」

「といいたいところなんだけどねっ。この海はあそこまで便利じゃないのよねっ」

「というと?」

「点在する入口っていうのはねっ。固く閉じられているのよねっ。だから、入りたくても入れないのよねっ」

「じゃあ、どうやって?」

「たまぁに、なんだけどねっ。その入り口付近に歪みみたいなものが生じることがあるのよねっ。その歪みが入り口を束の間、開放状態にしてくれるってわけなのよねっ」

「それなら歪みが起きない時は?」

「入口が解放されているところをめざしてねっ。ただひたすら、海流に沿って流れていくだけなのよねっ。ただ、うまく中に入れたとしても、そこが自分たちの望んだ世界とはかぎらないのねっ」

「天外魔境のように、さっ、と見つけられないのね。大変だなぁ」

「もっとも、妖魔波に満ちた海だからねっ。妖魔力切れ、みたいなことは絶対起きないんだけどねっ」

「その海を、よしこ、は泳いできたんだ」

「違うのよねっ。アタシは棺桶の中でおとなしく寝ていただけ。あとは『棺桶の美代子』に、ううん、みよこ、に任せているのよねっ」

「みよこ?」

「みよこ、はねっ。妖魔力を貯蔵保管してくれる妖魔なのねっ。と同時に、寝床でもあり、妖魔の海を旅することのできる船でもあるわけなのよねっ。みよこ、の中で寝ていれば、海の中でも安心して眠りにつくことができるのよねっ」

「ふぅぅん。あの棺桶、じゃなかった、みよこ、は妖魔だったんだ」

「妖魔もどきなのに妖魔を従えているにゃんて。よしこにゃんは、たいしたものにゃん」

「違うのねっ、ミアン。みよこ、がいうことを聞いてくれるのは、よしこ、の身体の一部だからなのよねっ」

「身体の一部? どういうこと?」

「ミーナ。よしこ、みよこ、なみこ、の、いわゆる『三子』一組が、一つの吸血人形なのねっ。よしこ、は、核にすぎないのねっ」

「そうだったの」

「よしこにゃん。それでその、なみこにゃんというのは?」

「ここにいるのねっ」

「えっ。どこ……、ああっ!」

 ゆらぁり。ゆらぁり。

「よしこ、の髪が頭から離れた……」

「この『髪かつらの奈美子』が、なみこ、なのよねっ」

「よしこにゃんって……、つるっぱげにゃん!」

「はげって……。がくっ! ……なのねっ」

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