第二十話『湖底にて』
「にゃから注射はだめにゃんよ」
ぶるぶるぶる。ぶるぶるぶる。
「(うずくまって両方の前足で頭を抱えているわん)
ミアンがそんなに怖がるなんて……。ねぇ、注射を打ったことがあるの?」
「なにをいっているのかにゃ。毎年にゃんよ」
「ひっ! ま、毎年! 一体なんで? どこか具合でも悪いの? 顔色はいつ見てもいいと思うんだけど」
「ウチは健康にゃよ。打っているのは予防注射にゃ」
「予防注射? でも、ミアンは実体じゃなくて、実体波を纏っているだけでしょ。それなのになんで?」
「実体波といっても、霊体とつながっているのにゃん。実体波の損傷度が大きければ、霊体にも少なからず悪影響が出てしまう。それにウチの身体は生前の実体を元に造られている。にゃから猫がかかる病気は悪性であればあるほどウチもかかる可能性は極めて高い。他の家猫が予防注射を打つ際には、ウチもご主人様のネイルにゃんに連れていかれて……ぶずっ! となるのにゃん」
「こ、怖いわん!」
がくがくがく。
「ち、注射って怖いものなのねっ!」
がたがたがた!
「(よしこ、まで震えている。人形なのに……)
でも、ミアンはずっとやっているのよね。それじゃあ熟練しているから全然恐怖なんて感じないんじゃないの?」
「熟練って……。毎年やっても慣れることは決してないにゃよ。セレンにゃんの病院には毎日行っているのにゃけれども、自分がなにかされるわけじゃにゃいから、なんの恐怖もにゃい。ところが、いざ自分が注射を打つ身になると、やっぱり違うのにゃん。待合室でも落ちつかなくにゃってくる。そんでもって診療室に入った途端、一種の緊張感と恐怖感に包まれる。にゃんというか、いつも見慣れている筈にゃのに、全く違う空間に思えてならにゃい。それに注射器を手にした呪医が、にこやかな顔をして猫なで声でいうのにゃん。痛くないからねぇ、とか、すぐに済むからねぇ、とか。あれって脅しているとしか思えないのにゃよ。本当は痛いんだよぉ、でも我慢してねぇ、なんて、ささやいているような気がするのにゃん。大体、痛くないって、あんた、猫になったことがあるのにゃ? 猫の注射をうったことがあるのにゃ? って問いかけたくなるのにゃん。同じ猫だってにゃ。種や体質、その日の健康状態で感じ方が変わるっていうのににゃよぉ! ふにゃ、ふにゃ、ふにゃ」
「(ミアンったら、息切れするほど思いのたけをぶちまけているわん)
でもねぇ。アタシは注射を打ったことがないからなぁ。猫でもないしね。共感できないんだわん」
「よしこ、もなのよねっ。幾ら力説されても残念ながら人形なのよねっ。でも、怒りとかやるせない思いだけは伝わってくるわねっ」
「ねぇ、ミアン。そんなに怖いならやめちゃえば? 実体波を一回分解して、再構成させれば済む話じゃない」
「そうよねっ。絶対そうすべきよねっ。
……なにをいっているのかさっぱり判らないけどねっ」
「実体波の破壊と再構成には、普段、日常で消費するのに使う霊力じゃにゃくて、寿命に直結する霊力を使うのにゃん。やればやるほど短命ににゃってしまう」
「そうだけど……、そんなに気にするほど消耗はしないと思うわん」
「まぁにゃ。ウチが実体波の身体をそのままにして予防注射を受けるのには、別の理由があるのにゃん」
「というと?」
「普通の家猫が我慢して毎年受けているのにゃよ。それを化け猫のウチがぶるってやらないのは、にゃんとも情けないじゃにゃいか」
「なるほどね」
「それに、にゃ。ウチが注射をしている間、ネイルにゃんはしっかりと抱きかかえてくれる。ネイルにゃんの愛と温もりが伝わってくるのにゃん。打たれた瞬間、思わず鉤爪を出して作務衣を引っかくこともある。それでもやさしく微笑んでいてくれる。よし、我慢するにゃん、って気持ちになってくるのにゃ」
「ふぅん」
「そうなのねっ」
「にしても大変にゃよ。待合室に入ってから注射を打ち終わって痛みを感じなくにゃるまでの間は。うろたえている自分をおくびにも出さず、いつものように平然と振るまっているのにゃから」
「へぇ。ミアンもいろいろと大変なのねぇ。というわけで、第二十話へ突入よ」
「ミーにゃん。注射の話に飽きたのかにゃん?」
第二十話『湖底にて』
最初、アタシたちの周りは光に覆われ、近くにいるものの姿すら見えない状態だった。それでもしばらく経つと、その光は弱まり、周りの光景が見え始めてきた。
「ここは……、湖底ですね」「本当にゃん」「とても信じられないわん」
ネイルさんは来たことがあるらしい。こんなでしたっけ、と想いだしながら歩いている。もちろん、ミアンとアタシは初めてだ。半ば呆然とした状態で周囲を見まわしていた。
アタシはイオラの木に咲く花の妖精。本来であれば湖の中に入ることなんかできない。棲む世界が違うのだ。それなのに今は……ここにいる。二度とできないかもしれない貴重な体験を味わっている。霊体にもかかわらず、身体がぞくぞくしてきた。
(やったぁ。イオラに喋る面白い話がまた一つ増えたわん)
「レイナスさん」
ふに落ちないことでもあるのか、ネイルさんが首をかしげている。
「前から聞こうと思っていたんですけど……、水の中なのにどうして服がぬれないんでしょうか? 呼吸だって、ほら、地上と同じようにできますよね」
湖の精霊が見ている前で、自分の服をなで、深呼吸をくりかえしている。
「ネイルさん。あなたの身体がぬれないのは、『水霊波』といわれる見えない膜で覆われているからです。それと水霊波の一部は絶えず、湖の水面とあなた方を行き来しています。水面から取りこんだ空気を送りこむ、あるいは吐いた息を外へ出す、などの役割を担っているのです」とレイナスさんはこともなげに話した。
「それで喋っても空気の泡が現われないのか……。なかなか不思議な……」
ネイルさんは周りを見ながら、はたとなにかに気がついたみたい。
「不思議といえば、ここは湖底でしょう? それなのに、どうしてこんなに明るいんですか?」
「ワタクシが湖の妖精である佐那にそう頼んだのです。もちろん、必要な霊力は全てこちらから与えています」
「『佐那』……。自由の森にあるこの湖と同じ名前ですね」
「そうです。この湖にかかわらず、天空の村にある湖のいずれもが、主である湖の妖精の名を頂いています」
「レイナスさん。湖の妖精に頼んでいるってことは、もしかして」
「ふふふ。ネイルさん。あなたの想像しているとおりです。この明るさは水の妖精たちの放つ光がもたらしたもの。体内振動を強くしてもらうことで実現しています。ワタクシが佐那に頼み、佐那が水の妖精に頼んだのです。あなた方の身を守っている水霊波が使えるのも、水の妖精たちの協力があればこその『たまもの』です」
「水の妖精が僕たちを。……水の妖精が」
ネイルさんはほんの束の間だったけど、深い思いにとらわれたかのごとく黙りこんでいた。
「あのぉ、レイナスさん。その中にひょっとしてフローラは?」
口を開いたネイルさんの顔には、期待と不安の両方をにじませたような表情が浮かんでいる。
「はい、彼女も」
レイナスさんはにっこりと微笑んだ。
「元気だと聞いていますよ」
「そうですか……。よかったぁ」
ほっ、と安堵のため息らしきものをついたあと、レイナスさんの笑顔につられるようにネイルさんも微笑んだ。
「ネイルにゃんネイルにゃん」
興味深げな顔でミアンが尋ねる。
「フローラって誰にゃん?」
ミアンの言葉にネイルさんは、『あれっ、まだ話していませんでしたか?』といわんばかりの不思議そうな顔を向ける。その意味するところをさとったのか、こくこくとうなずくミアン。それを見たネイルさんはすぐに答えを返してきた。
「ミアンさん。湖にはね。人が目で見ることはもちろん、霊覚ですらとらえられない小さな姿の妖精がたくさん棲んでいます。フローラもそういった妖精の一体なんです。彼女は以前……」
言葉が途切れた。なにか考えごとをしているみたい。
「……そうか。ある意味、彼女はミアンさんの先輩、といえるかもしれませんね」
そうひとりごとのようにつぶやいたネイルさんに対し、
「先輩? ネイルにゃん、それは一体?」と尋ねるミアン。なにをいっているのか判らないらしい。きょとん、とした顔をしている。だけど、ネイルさんはレイナスさんと、くすっ、と笑いあっただけでなにも答えてはくれなかった。それでも、
「話せば長くなりますし、今は先生の方が気がかりでそれどころじゃありません。いつか機会があったら、その時は、ゆっくりとお話しますね。……心やさしい『水の妖精』の話を」とは約束してくれた。
「うんにゃ。楽しみにしているにゃん」
(アタシもだわん)
湖底を歩いているうちにここの雰囲気に慣れてきた。とはいっても、実際に足を動かしているのはネイルさんただ一人。レイナスさんは泳いだ姿で。ミアンはネイルさんが抱っこしている。もちろん、アタシはミアンの背中の上に座って足をぶらぶらさせている。
「呼吸もできるし、多少青みがかってはいるものの、周りの景色もよく見えます。これなら地上となんら変わりませんね」
ネイルさんの言葉にレイナスさんは、
「思った以上にすごしやすいでしょう?」と多少、自慢げだ。
「ネイルさん。歩いたり走ったりは、水の抵抗をどうしても受けてしまいますよ。それならむしろ泳いだ方が、空を飛んでいるみたいで移動しやすいと思うのですが」
「そうかもしれませんね」
ネイルさんも、ふわっと跳びあがり、泳ぎだした。
「さぁ。セレンさんはこの少し先におられます。すぐに行きましょう」
レイナスさんはネイルさんと知りあいということもあってか、親しげな素ぶりで腕を組む。
「えっ。あっ、はい」
「ミーにゃん。ウチらも泳いでみようにゃん」「うん」
視界は良好。水生植物などの障害物がないので移動もかなり楽。しばらく泳いでいると、前方から黒髪の女の子が姿を現わした。
「これはセレン先生。無事だったんですね。一体、どうなってしまったのかと心配しましたよ」
アタシとミアンはネイルさんの腕の中。他のみんなは湖底に足をおろした。
ほっとしたような顔を見せているネイルさん。セレンさんは、そんな彼に言葉を返すこともなく、ただ一点を凝視している。
「出会ってまだちょっとしか経っていないはずだが、ずいぶんと仲良さげだな」
レイナスさんとネイルさんが組んでいる腕のあたりを、彼女は訝しげにながめている。
「あれっ。先生、まさか」「なんだ?」「嫉妬しているとか」「違う!」
即座に否定したけど、不機嫌さが際立っている。
(まさか、本当に?)
「まぁ、いい」
セレンさんはネイルさんとレイナスさんの肩に手を置き、なにげない仕草で割りこんできた。二体は無理矢理引き離された格好になる。
「ネイル、君にも手伝ってもらいたいことがある。こっちへ来てくれ」
「判りました。……うわぁっ! ちょ、ちょっと先生!」
セレンさんは強引にネイルさんと腕を組み、一緒に湖の向こう側へと泳いでいく。
レイナスさんは首をかしげながら、アタシたちに声をかけてきた。
「ちょっとお聞きしたいのですが、あの二人は好きあっていらっしゃるのでしょうか?」
「どうなの? ミアン」
はっきりいってアタシはこの手の話には疎い。
「師としては慕っているみたいなのにゃ。でも、恋人としては見ていない気がするにゃん」
「では、まだ期待してもいいと?」「あんたも無理だと思うにゃ」「精霊だしね」
「大丈夫ですよ、ミアンさん。愛さえあれば種が違おうが、霊体であろうが」
「にゃら、ウチも」
ミアンとレイナスさんはうなずきあうと、えいえいおぉ!
互いの手(ミアンは前足)を、ぱちん、とたたき、更には腕を組んでぐるぐる回る。
(ずいぶんと無茶苦茶なことをいっているなぁ。
……あれあれ。初対面なのに意気投合している。なんか妬けちゃうわん)
「ラミアにゃんが無事でよかったにゃん」
「ネイルさんは多分、判っていたんじゃないかな。大丈夫だって」
「心配はしていたと思うのにゃよ。でも、呪医というのは呪術師の中でも最高水準の技能があるものしかなれにゃいということにゃん。セレンにゃんは村でだんとつの呪医。めったなことでは、お亡くなりにならにゃいと考えたとしても当然にゃよ」
「フローラの話が出たわん」
「この本とは別なお話みたいにゃ。フローラについてはにゃにもいわず、このまま終わりにしようにゃん」
「『天空の村・水の妖精』で、ってわけね。日の目を見ることがあるのかな?」
「ミーにゃん」
「なに、ミアン」
「猫はにゃ。未来を『予測すること』はできるかもしれにゃい。
……でもにゃ。『知ること』はできないのにゃよ」
「そんなの猫にかぎったことじゃないわん。未来が判るってことは、未来が確定しているってわけでしょ? そんなのあり得ないわん。決まっているのは現在まで。そこから先には、あらゆる可能性、あらゆる選択肢が待っている。未来なんて判る筈がないの。たとえ明日のことだってよ。これは確実だ、なんていえるものはなに一つないんじゃないかな」
「ミーにゃん……。ウチが悪かった。このあたりでやめようにゃ。いつの間にかお話の感想からだいぶずれてしまったのにゃん」
「ミアンが暴走したの?」
「いや、ミーにゃんの方だと思うのにゃけれども」
「注射の話に戻るわん。ミアンには悪いけど、アタシが注射をすることはないと思うの。だってアタシの実体波はアタシ専用に造った身体でしょ。ミアンのように動物の身体を具現化したものじゃないから病にかかる心配がない。痛い目にあわずに済むわん」
「ミーにゃん。その油断が命取りになるのかもしれないのにゃよ。最近では、汚染の浄化や抗細菌用の新薬開発がめざましい進化を遂げている。にゃから新種の悪性細菌が発生する率はどんどん低くなっている。とはいってもにゃ。全然ないわけじゃにゃい。むしろ、数が少なくにゃった分だけ、より強力な悪性細菌が生まれている。近い将来、ミーにゃんのような、どちらかといえば異種ともいえる実体波でさえ、冒されてしまう場合もにゃいとは決していえないのにゃ」
「大丈夫。アタシにはイオラがいるわん。どんな病であろうと、あっという間に治してくれるわん」
「それもそうにゃん。ミーにゃんには関係のない話にゃった」
「うん。でもさぁ。仮に今から何百年かたって、アタシがなにかの病にかかったとするじゃない」
「うんにゃ。それで?」
「あり得ない話だけど、イオラにその病が治せなかったとするわん」
「あり得ないにゃあ」
「だからあくまでも仮の話。それでね。人間の治療を受けなくちゃいけなくなったとしても、よ。その頃までには注射よりも痛くない治療法が見つかるんじゃないかな。第一、アタシみたいな小さな妖精に打てる注射器なんて絶対に造れっこないわん」
「注射器の歴史は長いのにゃけれども、そうかもしれ」
『ちょっと待ったぁ! その挑戦、あちきが受けるよぉ!』
ざざざざーん!
「レミナさんがまた本の中から……。げっ! そ、その手に持っている物は!」
『今、話題になったものだよ。ずばり、ミーナ専用注射器さ!』
「ア、アタシ専用注射器……。ど、どうしてそんなものが」
『前にね、セレンが嘆いていたんだよ。「ミアンには猫用注射器があるからいいとして、ミーナにはなにもない。なにかあっても注射という最高の治療が受けられず、明らかに不公平。はなはだ不憫といわざるを得ない」ってね。そこでいったのさ。「あちきに任せない! 必ずやミーナちゃんにぴったりな注射器を造ってあげる」ってね。あちきの得意な装飾技術を生かすのは今だ、と思ったな。いやあ、いつになく張りきったよ。寝食を忘れて没頭したあげく、完成したのがこれなの。どう? 気に入ってくれる?』
ぴきーん!
「(気に入ってくれる? って……。よけいなことを。しかも使うことは絶対ないのに注射針まで造ってあるわん。でもまぁ、ここは一つ社交辞令で)
そ、そう。とりあえず、ありがとう、だわん」
『よかったぁ。気にいって貰えたんだ。それじゃあ早速、刺し心地も試してみてね』
「えっ! ちょ、ちょっとそれは……遠慮しておくわん。だって……、ほら、どこも悪くなんかないし」
『そんなぁ。遠慮なんかしなくてもいいよ。あちきたちは親友じゃない』
すたすたすた。
「遠慮なんかしていないわん! ……こ、こっちへこないでよぉ! レミナさぁん!」
ばたばたばた。
『いいのいいの。ほんのちょっと、ちくっ、ってするだけなんだから』
すたすたすた。
「よくないよくないよくないわん!」
ばたばたばた。
「ふぅ。ミーにゃんとレミナにゃんが部屋中、駆け回っているのにゃ。随分と仲がいいことにゃん、って……うん?」
『レミナさん。やめてください』『レミナさん、めっ、ですよ』
ざざざざーん! ざざざざーん!
『あっ。ネイル、マリアちゃん』
『お話を飛びだしてなにをやっているかと思えば。人騒がせもほどほどに』
『ネイル。ミーナちゃんは人じゃないよ。妖精なの』
『どちらでも構いませんよ。他の世界でいたずらに不安をまき散らすのはやめてください。さぁ、早く帰りましょう』
『ネイルさんのいうとおりです。それにそうやって遊んでいる間に出番が来たらどうするんですか? 私が出る話だってどんどん遅れるじゃありませんか。早く戻ってください』
『マリアちゃんの出番はもっとあとじゃないか。そんなに焦らなくったって』
『レミナさん、なに甘いことを。あまり時間をかけていると、ここにいるミーナさんとミアンさんがこの本に飽きて、最後まで読まないかもしれないじゃありませんか。疲れて私の出番を見逃さないともかぎりません。お願いです。私たちと早く一緒に』
『ふぅ。やれやれ。ネイルだけじゃなくてマリアちゃんにまでそういわれちゃあ、ここでいつまでも遊んでいるわけにはいかないね』
「アタシ……、遊ばれていたのか……」
「よかったにゃあ、ミーにゃん。本気じゃにゃくって」
「アタシは本気で逃げていたわん。ぷんぷん!」
『判ったよ、マリアちゃん。二人のいうとおり、一緒に帰るね』
『ありがとうございます、レミナさん』
『よかった。忙しいところ、来た甲斐がありましたよ。……あっ、ミアンさん』
「うん? ネイルにゃん。なんにゃ?」
『今晩はなにを食べますか?』
「そうにゃあ……。うん。えびふらいにゃんかはどうにゃろ?」
『たまにはいいですね。しゃきしゃき感を出す為に野菜の盛りあわせもつけて、上からたっぷりと「たるたるそぉす」をかけるっていうのはどうです?』
「うんにゃ。それでいいにゃよ。ずるっ」
「ミアン、よだれよだれ」
『えびふらいはいつもどおり、大きめのやつを十匹、でいいですよね。肉は分厚く衣は薄く、で。それじゃあ、帰ってくるまでに造っておきますから』
「にゃ、にゃんと! 十匹もかにゃ!」
『それではみなさん。長いことお邪魔して申しわけありませんでした。どうぞ、このあともお話の続きをお楽しみください』
『あちきの出番も楽しみにしてねぇ!』
『僕のも。よろしければ、ですけど』
「みんなも元気でねぇ」
「ネイルにゃあん! 声をかけてくれてありがとうにゃん」
ざざざざーん!
「行っちゃったね」
「また静かになったのにゃん。それにしてもにゃ。ふふふ」
「ミアン、なに笑っているの?」
「だって、今晩はえびふらい十匹にゃよ。まだよだれが」
ずるっ。
「ミアン……。いっておくけど、えびふらいを食べられるのはお話の中にいるミアンよ。あなたじゃないわん」
「にゃ、にゃんと! で、でも今、ネイルにゃんがウチに」
「混同しているのよ。お話のミアンと、ここにいるミアンを」
「そんにゃあ! ……とはいっても、なんとにゃくそんな気もしていたのにゃん」
「どうして?」
「こっちのネイルにゃんが出してくれるえびふらいは、いつも中くらいのやつで、数も五匹と決まっているのにゃん」
「あっ。それで」
「お話の中のミアンがうらやましいにゃよ。きっと、今晩は……、うっうっうっ」
「ミアン、泣くことなんてないわん。アタシも頼んであげるわん。今夜はえびふらいにしてって」
「大きめで十匹にゃよ」
「そこまでいくかは判らないけどね。ネイルさんなら数を増してくれるんじゃないかな」
「うんにゃ。お願いしてみようにゃん」
「ねぇねっ」
「よしこにゃん……。今までどこに行っていたのにゃん」
「どこって……、そこにある風呂敷を被っていただけなのよねっ」
「どうして隠れちゃったの?」
「なんかすごくて……ねっ。ええと……ねっ。そろそろ、よしこ、の話を聞いてくれてもいいんじゃないか、って思うんだけどねっ」
「ミアン、どうやら思いだしたみたいだわん。きっと『注射』っていう障害物か消えたせいね」
「誰もいなくなったことにゃし、ゆっくりと聞かせて貰おうにゃん」




