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天空の村・アタシはミーナ  作者: シード
20/42

第十九話『湖の精霊』

 ざざざざーん!


『やぁ、またあったな』

「セレンにゃん……。あんた、どうして戻ってきたのにゃ?」

『いい忘れたことがあったのだ』

「いい忘れたこと? 一体にゃにを?」

『さっきミーナが紙きれを読みあげていた筈。実は……そのぉ……我も聴いていたのだ』

 ぎくっ!

「にゃ、にゃんと! まさかウチを怒りに……」

『いや、身構えるには及ばない。だが、誤解は解いて貰いたいのだ』

「(ふぅ。今度こそ注射をむけられるかと思ったのにゃよ。ほっとしたにゃん)

 誤解って?」

『紙きれには「拡大解釈」との文字が使われていたようだが……、それは誤りだ』

「どうしてにゃん?」

『(紙きれにある)村役場自らが決めた、我ら呪医の権利についてだが……、その文言を一字一句間違いなくいうのであれば、次のとおりとなる。

「全ての呪医あるいはその補助にあたる者は、理由の如何いかんを問わず、天空の村全区域の立ち入りを許可する」。

 判って貰えただろうか? われが昼間、アーガを使って森へ行くのは、この権利を行使したにすぎない』

「ウチはこの件を村役場のマリアにゃんから知らされたのにゃけれども……。公式の文言を聴いたのはこれが始めてにゃん。

 にゃあるほど。これにゃらセレンにゃんの主張も判らなくはにゃい……か。でもにゃ。そもそもこの権利は、『患者を救うのに不都合があってはならない』との考えから生まれたもの、って思うのにゃん。それを果たして遊びに使ってもいいのにゃろうか?」

『それは……、ごほん。確かに、本来の目的にはかなっていない……かもしれない。だが、紙きれにもあったと思うが、但し書きは一切加えられていない。となれば、だ。我の行為が拡大解釈でもなんでもないことは明らかだ。権利の示す範囲内で行なっている。それをきちんと理解して欲しい』

「とはいっても……。にゃあ、ミーにゃんはどう思うのにゃ?」

 ぐわっ。

「あっ。話が終わったの? それじゃあ、第十九話へいってみよう!」

「うつらうつらしていたのにゃあ……。ミーにゃん。それはそうと、よしこにゃんは?」

「よしこ、なら、風呂敷をかぶって隠れているわん。話が終わったら呼んでって」

「相手にしにゃかったから、すねてしまったのかもにゃあ」

 第十九話『湖の精霊』


 お魚さんを食べ終えたのだろう。ミアンが、のっし、のっし、とやってきた。

「さっき、『どぼぉん!』と大きな水音が聞こえたのにゃけれども。なにかあったのにゃん?」

 ミアンは化け猫の風格を現わす威厳ある足どりで、ネイルさんへと近づいていく。

「あっ、ミアンさん」

 ネイルさんはミアンの声を聞いて我に返ったみたい。

「実はたった今、先生が湖の中へ」「にゃんと!」

「僕と釣りを楽しんでいたんですけど、強い引きが来て、あっという間に……」

 ネイルさんは今しがた起きたできごとをミアンに語った。

「それは大変。……でも、おかしいにゃん。大きなお魚さんが引きこんだにしても、釣り竿を放せばそれですむことにゃ。それがまったくあがってこにゃいというのは……」

「とりあえず、湖の中を探してみますよ」

 ネイルさんは作務衣を脱ぎかけたものの、その手をとめた。

「うん? ネイルにゃん、どうしたのにゃ?」「ミアンさん……。あれを」

 ネイルさんが指さす方向にアタシたちは視線を向けてみる。

「あ、あれは!」「一体にゃにが!」

 アタシたちもネイルさんと同様、視界へ映しだされた光景に、釘づけとなっていた。


 湖面の中央付近が、ざざぁっ、と波立ってきたと思ったら、いくつもの白い光芒が円柱を形造るように湖底から湧きあがってくる。

 アタシたちが固唾をのんで見まもる中、光は次第に輝きを弱めていく。やがて光の中に、人のような姿をした影が浮かびあがってきた。

(まるでイオラみたい。間違いない。あれは精霊だわん)


 イオラにかぎらず、精霊のほとんどが白い霊布をまとっている。姿を現わした精霊もやっぱり同じ。髪と身体は透きとおったうすめの青緑。身体からも同色の霊波を漂わせている。腰あたりまで伸びた髪が、やたらと目につく。きれいな顔立ちでイオラよりも若々しい感じがする。

(いけない。こんなことをいったら、イオラに怒られちゃうかも。でも、なぁ。どちらかといえば、落ちついた雰囲気の漂うイオラの方がアタシは好きだわん)


「みなさん。ワタクシはレイ」「あれっ、レイナスさんだ。お久しぶりです」

「おや、ネイルさんじゃありませんか。本当にお久しぶり……ですが、どうせなら、台詞を全ていったあとで声をかけてくださればよろしいでしょうに。ほら、いうじゃありませんか。親しき仲にも礼儀ありとか」「これは気がきかないことを。どうもすみません」

「ネイルにゃんネイルにゃん」「なんでしょう? ミアンさん」

「この変な生きものとは知りあいなのにゃん?」

「ミアンさん。こちらは湖の精霊で、名前をレイナスっていうんです。村にある全ての湖を守っているそうです」

「ずいぶんと親しげみたいなのにゃけれども、会ったことがあるのかにゃ?」

「はい。実は……、はずかしながら僕は小さい頃、この湖でおぼれちゃいましてね。それを助けてくださったのがレイナスさんなんです。以来、泳ぐことはなくなりましたけど、釣りは好きでしたから毎日のように行っていたんです。そしたらその都度、顔をあわせるようになって……」

(なるほどね。そんな過去があったから、ネイルさんはすぐに湖の中へ飛びこまなかったんだわん)

「でも、僕が見習い呪医として病院でのお務めを始めてからは、どの湖にも行く機会があまりなかったんですよ。それが最近、昼休みに先生とのつきあいでここへ来るようになったじゃないですか。だから、いずれは会えるんじゃないかと思っていたんですが……、まさか、こんな時に」

 ここでネイルさんは、はっ、とした表情になる。

「そうでした。のんびりと昔話なんかしている場合じゃなかったんですよ。

 ……レイナスさん。ちょうどいいところに現われてくださいました。たった今、大変なことが起きたんです。実は僕の先生が」

「判っています。その先生のことでちょっと」

「えっ。先生についてなにかご存じなんですか?」

「実はどうしてもご協力をして頂きたいことがありまして、セレンさんをこの湖の中へお招きしたのです」

「お招きって……。そういえばレイナスさんって、昔から強引な送り迎えをしていましたっけ。すっかり忘れていたものだから、びっくりしてしまいましたよ。じゃあ、先生はご無事なんですね」

「もちろんです。怪我一つなさってはいません」

「そうですか。よかったぁ」

 ミアンの方へふり向いたネイルさんの顔。ほっとしたような表情が浮かんでいる。レイナスさんは言葉をつづけた。

「ネイルさん。ワタクシがここに姿を現したのは、そのことを伝えるためと、彼女からあなたへの伝言を頼まれたからなのです」

「先生からの伝言? ……伝言ねぇ。……精霊が、……人間の『ぱしり』をやっている……」

 ちょっとあきれ顔のネイルさん。

「ネイルさん! ワタクシは『ぱしり』じゃありません!」

「す、すみません、レイナスさん。つい、思ったことをそのまま口に出してしまいました」

「なお、いけません! ぷんぷん!」

 ネイルさんが、まぁまぁ、と、怒っているレイナスさんをなだめている。

「それにしても、先生が僕に伝言ですか……。一体どんな?」

「セレンさんがおっしゃるには、ぜひ、あなたにも湖の中へ来てほしいとのことでした」

「えっ、僕も。それはまた何故?」

「実は彼女には『あること』をお願いしているのですが、それをやるにはどうしても協力者が必要だということでして……、できればあなたを連れてきてほしい、と頼まれたのです」

「そうでしたか。じゃあ、レイナスさん。僕を先生の元へ連れていってください」

「判りました。では、すぐに参りましょう」

 レイナスさんの周囲を覆っている光芒が、最初の時と同じような強い光に。

「な、なんにゃ!」「ど、どうしてアタシまで!」

「だからそういう強引なやり方はよろしくないと何度も……って、うわっ!」

 ミアン、アタシ、ネイルさんの順で、光の中に引きずりこまれた。

(ネイルさんのいうとおり。湖の精霊って招き方が荒っぽすぎるわん)


「ミアン。レイナスさんが登場したわん」

「ネイルにゃんを救ってくれた精霊にゃし、やさしいし、ウチとしても大歓迎……といいたいところなのにゃけれども」

「なにか問題でも?」

「にゃんで迎えいれる時と送りだす時ってあんなに乱暴なのにゃ? あれさえにゃければかなりの好印象にゃのに」

「アタシもそう思ったんだけどね……。まぁ、どこから見ても欠陥のない精霊っていうのは難しいんじゃない? もちろん、アタシのイオラは完璧だけどね」

「(さりげなく創造主を立てているのにゃん。可愛いにゃ、ミーにゃんは)

 そうかもしれにゃい。というより、逆に、みんないい子にゃったら、考え方も同じってことで、かえって不気味な感じがするのにゃん。安定したにゃかにも変化を求める。そういう意味では、いろんな性格の精霊や人間がいた方がより健全なのかもしれにゃい」


『ごほん。ところでさっきの話なのだが』

「あっ。ごめんにゃ、セレンにゃん。ミーにゃんは言いだしたら聞かないものにゃから、つい、お話の方を先に読んでしまったのにゃん」

『それは構わないが……、ミアンは我の考えをどう思う? 率直に聞かせてくれ』

「ウチは……。うーん……。

 判ったにゃよ。文言がそうある以上、セレンにゃんのいうことを認めるにゃん。非があるのはウチの方にゃった。ごめんにゃ」

『いや、謝る必要はない。判って貰えればそれで十分なのだ。ただ』

「ただ、なんなのにゃ? セレンにゃん」

『謝罪の気持ちがあるなら、……そのぉ、新薬の』

「その気は全然ないのにゃん」

『そうか。……では帰るとするか』

 ざざ。

「待つのにゃ、セレンにゃん」

『なんと……、やっぱり、やってくれるのか!』

「手を差しだす必要はないのにゃん。やる気がないのは変わらにゃいもの」

『そこをなんとか。やるのは君じゃなくてもいい。すぐに済ませるから誰か新薬の被験体に……』

 きょろきょろ。

 がたっ。

「し、しまったわねっ」

『(壁にもたれていたまな板が倒れた……。おや? その音に驚いたのだろうか。風呂敷からなにやら顔を覗かせているものがいる。一体あれは、……いや、この際、なんであろうと構わない)

 どうだ、君は? 新薬の被験体になってみる気はないか?』

「か、顔を見たのねっ。あのねっ。よしこはねっ。だめだめなのねっ。やる気は全くないのねっ」

『よしこ、か。いい名だ。……よしこ、そんなことをいわず、困っている我に愛の手を』

「セレンにゃん。嫌がっているじゃにゃいか。無理強いはいけないのにゃよ」

「アタシもそう思うわん」

「おや、ミーにゃん。いつもと違って口数が少ないじゃにゃいか」

「突っ込みどころがない話だったからね。しょうがないわん」

「それは済まなかったにゃ」

「まぁ、今回だけは許してあげるわん」

『ミアン』

「なんにゃ? セレンにゃん」

『君のいうとおりだ。我は少し焦りすぎていたのかもしれない』

「それじゃあ」

『うむ。あきらめてお話の世界に戻ることにする。……君たちに幸あらんことを』


 ざざざざーん。


「やっと行ったみたいねっ」

「よしこにゃんがセレンにゃんの毒牙にかからなくてよかったのにゃん」

「セレンさんも行ったことだし、よしこ、それじゃあ、さっきの続きをお願いするわん」

「続きって……、、なんかいってたかしらねっ」

「(よしこ、ったら、吸血人形の説明を始めようとしたことをすっかり忘れているわん)

 だから……」

「あっ。想いだしたのよねっ」

 くるっ。

「それじゃあ早速……、って、あれっ? なんでミアンの方をむいているの?」

 くるっ。

「ねっ。注射の話よねっ? 打つのの打たないのって話よねっ?」

「えっ。(またアタシの方へむき直った……。それに同意も求めているわん)」

「ねっ。そうよねっ?」

「……そ、そうね。注射の話だったわん。

(だめだわん。注射の話が、自分が喋った言葉の前に立ちはだかっているみたい。これだから人形頭は……。ふぅ。しょうがない。そっちから先に片づけて……)

「注射は痛いから嫌なのにゃん!」

「あれぇっ? ミアンが話に乗ってきた」

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