第一話『花を探して』
「ミーにゃあん。これでも食べないかにゃあ」
「これでもって……。木の串に三個のぷよぷよした丸いものが突き刺さっているわん。ひょっとして、おだんご?」
「そうにゃよ。しかもただのおだんごじゃないのにゃ」
「ふんふん。紫がかった黒いものが載っているわん。と言うことは……、
ずばり、『あんだんご』よね!」
「残念。半分不正解にゃ」
「どうして?」
「ミーにゃん。よく見るのにゃ。たっぷり粒あんの下で、身を隠すように並んでいるおだんごの色を」
「どれどれ……。あっ! ミアン、こ、これは、あの伝説の!」
「どうやら判ったみたいだにゃ。
そうにゃよ。これこそ、究極のおだんごと呼ばれている『よもぎだんご』にゃあ!」
「ははぁ……って、土下座するほどでもないか。
ふふふ。ミアンったら、感激のあまり、後ろ足二本で立ちながら、おだんごの串を握っている右の前足を天井へと伸ばしているわん」
ぴかぁっ!
「うわぁっ! おだんご様から聖なる光がぁ
……って、もういいじゃない、ミアン。これぐらいにしておこうよ」
「いただきますにゃあん!」
「ふぅ。やっと四つ足に戻ってだんごにパクつきだしたわん。さてと。アタシもあとで頂くとして、とりあえずはこの本の第一話でも眺めるとしようかな」
「もぐもぐもぐ」
「ミアーン。ミアンも、その一本が食べ終わったら、一緒に読書をしてよ」
「もわぐかもっぐたもぐにゃあ」
「なに言っているのかさっぱり判らないわん」
第一話『花を探して』
アタシはとりあえず村の外側を飛びまわることにした。
村の側面は切りたった崖になっている。崖の赤茶けた岩壁は陽に映えると、とてもきれい。岩の割れ目から飛びでている草花もオシャレを演出。崖全体を見ごたえのあるながめにしている。
崖のはるか下には雲海が見える。時折、雲海から、ぼん! と爆発したかのように火を伴うガスの塊が放たれる。この火の玉は大きなものではないけれど、それなりの力がある。村の上空まであがることも。でも、勢いがなくなれば、当然、さがってくる。火の玉は曲線を描くような軌跡をたどる。とはいっても、今まで村に墜ちたことがないため、それを気にする村人は誰もいないらしい。崖は直撃を受けることがあるので、表面の岩壁はでこぼこしている。
「ふぅ。崖ばかり見てもつまらないわん。それに、火の玉にでもあたったら、それこそ大変。早く、村の上空へ戻ろう」
アタシは翅をばたばたさせながら、風の流れを感じている。
「これは、……違うわん。……これなら、……だめだわん。……あっ、これだ!」
望んでいた風を見つけた。すぐさま、その風に乗り、流れに身を任せる。
ひゅぅっ。
あとは風にあわせて身体を動かすだけで大丈夫。アタシは村の上空へと運ばれていく。
「自分の力が必要ないから楽でいいわん。これで怖い火の玉とも、おさらば。
さてと。なにか面白いことは、……あっ、あった。誰かが、崖近くに生えている木へ、ロープを巻きつけているわん。ちょっと、様子をのぞいてこようっと」
アタシは翅を使って風の流れから抜けだした。
妖精の姿は、たとえ霊力者であってもかなりの力がなければ、見ることはもちろん、感じることさえできない。近くにいても邪魔にはならないはず。それでも、少し離れた場所でなりゆきを見まもることにした。
(あれっ。男の子だと思っていたら、帯紐が紅いわん)
『天空の村』では、村人の誰もが『作務衣』と呼ばれる衣服を着て、腰を帯紐でしめている。帯紐の色は男女で異なる。男性の場合は服と同じ色。女性は紅い色と決まっている。となれば、この人は女の子ということになる。
「よし。木にはロープをしっかりとくくりつけたぞ。じゃあ、行くか!」
声に聞き覚えがある。アタシは改めて、こちらに背を向けている人の姿を見た。
茶褐色の髪が首筋あたりまで伸びていて、後ろ髪の毛先全体が外向きにはねた形にそろっている。額には『バンダナ』と呼ばれる水色の布地を巻いていて、着ている作務衣も水色だ。こんな格好をする村人は、アタシの知るかぎり、一人しかいない。
その人はこちらを、ちらっ、とふり向いた。
(やっぱりね。ラミアさんだわん)
ラミアさんは、アタシがこの村で一番気に入っている村人だ。きれいな顔立ちにもかかわらず、勇ましい風貌の女の子。体格もなかなかのもの、といっていい。いつも元気いっぱいに動きまわっているから、見ているこっちもその元気をもらって、はつらつとした気分にさせられる。彼女は霊翼竜アーガの使い手で、人や荷物の運搬、手紙や伝言の受け渡しが主なお務め。
一度も声をかけてくれないから、多分、彼女もアタシの姿が見えないのだろう。残念だけど、こればかりはどうしようもない。
(それにしても、ラミアさん。一体、なにをやろうとしているのかな)
ラミアさんはロープを頼りに、村の側面である崖をくだっていく。
「うん。よいしょ……と。ありがたいな。この崖は足がかりとなるしっかりとした岩肌が多い。これならのぼる時も楽勝だ」
彼女の顔には余裕の笑みが浮かんでいる。
(ずいぶんとテンポよく足を動かしているけど、慣れているのかもね)
しばらくすると、外側につきでている岩場が近づいてきた。歩けるぐらいの広さはありそう。ラミアさんは足場を確かめるような仕草のあと、納得をしたのか、そこへとおりる。
「ふぅ。緊張したぁ」
(なんでこんなところに来たのか知らないけど、とりあえず、お疲れさん)
彼女は岩場に腰をおろすと、目の前にある空を見ながら、ほうけたような表情を浮かべた。
「空は相変わらず、青いなぁ」
(夕陽に染まれば、赤くなるわん)
「そろそろ動くか」
ラミアさんは立ちあがり、狭い岩場を壁づたいにゆっくりと歩き始めた。
「ええと。この岩場にあるはずなんだけどな」
(探しもの? でも、一体なにを)
ぴたっ。岩場のはしあたりで、彼女の足がとまる。
「これだ。この花だ」
ラミアさんの目の先。そこには白い花がいくつか岩の割れ目に沿って咲いている。彼女は顔に喜びの表情を浮かべながら、そのうちの一本を摘みとる。ところが、花びらの裏側を見たとたん、急に顔をくもらせちゃった。
「あれっ。確か頼まれた花は、裏側にうすい紫色の筋が入っていたはずだ。でもこれには……ないよなぁ。違う種類かもしれない」
念のために、といった感じで他の花もながめている。だけど、やっぱり見あたらないみたい。
「はずれかな。まぁ、いいや。一応、持っていくとするか」
ラミアさんは手にした花を、腰にさげている袋の中へ収めた。
「さてと。用事もすんだし、帰ろう」
彼女はロープを握って、岩壁に足をかけた。おりた時ほどではないにしても、手際よくのぼっていく。本人も、『すぐにあがれる』と思ったに違いない。ところが、花を摘んだ岩場と崖の上、その真ん中あたりまできた時に思いもかけぬ事態が。
ぼん!
雲海から火の玉が飛びだす。村の大地よりも高くあがったかと思うと、弧を描きながら村よりに落下。ラミアさんの少し上を直撃した。
ばあぁん! ぶちっ!
(ロープが……、焼ききれちゃった!)
「うわぁ!」
ラミアさんは手にしていたロープの支えを失う。火の粉が舞いおちる中、彼女は雲海に向かって落下し始めた。
(危険だわん。でも、アタシにはラミアさんを助ける手立てがない。一体どうしたらいいの?)
もぐもぐもぐ。ばりばりばり。
「ミアンったら、盛んに食べているわん。……うん? ばりばり? ミアン、一体なにを食べて……、ミ、ミアン。どうして木の串まで食べちゃうの? あれは残すものなのに」
「ミーにゃん。聞かないでくれにゃあ。これは苦渋の決断にゃんよ」
「苦渋って、なにが?」
「にゃあかあらあ……。まぁ、いいにゃん。他ならぬミーにゃんの質問にゃ。そっと教えてあげるのにゃ」
「ミアン。そんなに大それたこととは、とても思えないんだけど」
「じゃあ、知りたくないのかにゃん?」
「もちろん、知りたいわん」
「やっぱり知りたいのかにゃ……。にゃら言うけど、ほら、おだんごを食べる時って、歯でおだんごをぐぃ、と噛みながら串を引くじゃにゃいか」
「そりゃそうよ。そうしないと串からおだんごが外れないしね」
「だけどにゃ。食べ終わったあとには、串におだんごの生地が少し残っているのにゃよ」
「おだんごは、もちもちしていて、ねばりけがあるしね。ちょっとぐらいは仕方がないわん」
「そんなことを言うけどにゃ。このおだんごはネイルにゃんがウチの為に心を込めて造ってくれたお菓子にゃんよ。例え、僅かなこびりかすでも、無駄には出来ないのにゃ」
「気持ちは判るけどね。だからって、なにも木の串まで食べなくたって。
……あっ、そうだ。ミアン。じゃあ、こうしたら?」
「ミーにゃん。にゃにか名案でも思いついたのかにゃ?」
「木の串へ刺さずに、ばらばらなおだんごのまま、その上に粒あんを載せて貰うって言うのは?」
「にゃあんと! 串だんごの串からおだんごを引き抜くのではにゃく、串だんごになる前におだんごを食べてしまうにゃんて! まさに逆転の発想にゃ。さすがはミーにゃん!」
「えへん! どう? いい考えでしょ。これならおだんごを余すところなく、まるまる食べられるわん。それに、『月見だんご』みたいにするのもいいと思うわん。おだんごの中にあんこを入れちゃうの。そしたら、また一段と食べやすくなるんじゃないかな」
「ミーにゃん。それは却下にゃ」
「えっ。どうして? てっきり喜んでくれるものとばかり」
「『月見だんご』と串の『よもぎだんご』は似て非なるもの。一線を画すものにゃ。例え、ミーにゃんの考えでも、こればかりは譲れないのにゃん」
「変なところでうるさいのね、ミアンは」




