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天空の村・アタシはミーナ  作者: シード
18/42

第十七話『お食事中』

 つか。つか。つか。……。

「もう、絶対許さないんだからねっ」

 ごごごっ! ごごごっ! ごごごっ!

 つか。つか。つか。……つか。

「読書の間……。ここみたいねっ」

 ずぼっ!

 つか。つか。つか。……つか。


 すーっ。すーっ。すーっ。

 すーっ。すーっ。すーっ。


「やっぱり、いたわねっ。ふーん。……かわいい寝顔ねっ。

 だけど……、あんなひどいことをしたんだからねっ。きっと悪者に違いないよねっ」

 きょろきょろ。

「一緒にいるところをみると……、両方とも悪者だよねっ。でも、やったのはどっち……。

 あっちのちっちゃい方はできるわけないよねっ。となると、消去法でこっちが……。

 どうりで毛むくじゃらねっ。なんか頭にきたわねっ。もう絶対に許せないよねっ!」


 ぼこぼこぼこ! ぼこぼこぼこ! ぼこぼこぼこ! ぼこぼこぼこ!


「はぁはぁはぁ。と、とりあえず、ここまでね。あとは起きたらやればいいよねっ。

 それまではこの部屋のどこかに隠れちゃおうねっ」


 …………………………………………………………………………。


「ふわぁんだわぁん。むにゃむにゃむにゃ」


 すーっ。すーっ。すーっ。…………。


「みーにゃん。どこに行くのにゃ?」「うん? ちょっとおんも(表)まで」

「だめにゃよ。イオラにゃんにいわれたじゃにゃいか。おとなしくしていにゃさいって」

「ほんのちょっとなの。ねぇ、いいでしょぉ?」

「困ったにゃー。みーにゃんはいいだしたら聞かないもんにゃあ」

「じゃあ、行ってくるねぇ!」「こらぁ。待つのにゃ、みーにゃん!」

「わぁい! おんもおんもぉ!」「待て! 待つのにゃ。みーにゃん!」


「……へぇぇ。ミアンって、アタシが小さい頃は、みーにゃん、って呼んでいたんだ」

「そうにゃよ。だって、すっごっく可愛かったのにゃもん」

「今は?」

「もちろん、可愛いにゃよ」

「すっごく、はないのね?」

「うんにゃ」

「……まぁ、いいけどね。でも、そんなことがあったの。アタシって物心つかない頃から、未知なるものにあこがれを抱いていたのね」

「いや、単に退屈にゃったからだと思うのにゃよ」

「違うって。探究心と好奇心のなせる業だわん」

「物はいいよう、とはよくいったものにゃん。……ふわあぁい」

「ミアンってば、もう眠っちゃうの?」

「ふわぁい。ウチは猫にゃもん。ずっと起きては……、ふわぁぁい」」

 すーっ。すーっ。すーっ。

「ねぇ、もうちょっと話を……。 あぁあっ。本気で眠っちゃったぁ。

 じゃあ、アタシは…… それにしても気持ちよさそうに眠っているなぁ。

 ふわあぁぁん。アタシも眠たくなっちゃったぁ。

 ……ミアン。背中を貸して貰うわん。お休みぃ」


 すーっ。すーっ。すーっ。…………。

 

 がたっ。

「ふわぁん。……うん? なんだ夢かぁ。それにしても……変な夢だったわん。ちっちゃい頃のアタシが出たのはともかく、それが想い出話で、終わったらすぐに眠っちゃうなんて。夢の中のアタシまで眠ってどうするの? っていいたいわん。

 ねぇ、ミアン。って声をかけても、どうせ、まだ『おねむ』に違いないしぃ。

 ふわぁぁん。どれ、眠気覚ましに親友の寝顔でも見るとするわん」

 のそのそ。のそのそ。

「アタシの親友はいつ見ても、もわんもわん。顔もふにゃあとしていて……。

 きゃああああ! ミアン! 起きて! 起きてよぉ! 一体どうしたのよぉ! 頭が原型をとどめないほど『ぼこぼこ』じゃない。『うわまぶた』もふっくらと腫れあがって、おまけに顔中血だらけ。

 誰がこんなことをやったのよぉ! 起きて! 起きてよぉ! ミアーン!」

「…………」

「ぴ、ぴくりとも動かないわん……。まさか……。そんなぁ。

 大変だぁ! 化け猫殴打殺害事件だぁぁ!」

 じたばたじたばた。じたばたじたばた。

「ど、どうしたらぁ……。ええい! ミーナ、しっかりするのよ。無意味にうろたえてもしょうがないわん! ……そうだ。ミアンがいってたっけ。こういう時は深呼吸だって」

 すうぅっ。はあぁっ。すうぅっ。はあぁっ。

「うん。驚くほど冷静になったわん。それじゃあこの事件の解決にとりかか……。

 あっ、その前に読書、読書。ええと、今回は……第十七話だわん。それじゃあ早速」

 ぺらっ。

「ミーにゃん。おはようにゃん」

「(なんか後ろからミアンの声が。といって、後ろを振りむくのも面倒だわん)

 おそようだわん。もう『ぺえぇじ』は、めくられているわん」

 第十七話『お食事中』


 アタシは親友を捜し求めた。

(陽は思ったほどかたむいてはいなかったわん。多分、あそこにいるんじゃないかな)

 そう思って村の上空を飛行していると、眼下に拡がる森の中に、アタシが今、一番逢いたいものの顔を見つけた。

(なにやら、夢中になっているみたい。声をかけずに近づいてみようっと)

「むしゃむしゃむしゃ。うっうぅん。やっぱり、獲りたては新鮮で美味いにゃあ」

(お食事中だったのね)

「ミィアァン!」

 アタシは大声を張りあげる。

「おや? この声、どこかで聞いたことがあるような気がするのにゃけれども」

「ミィアァン!」

 ばさっ。ご存じ、アタシ。華麗な姿で舞いおりる。

 両腕を拡げて上体を反らす。と同時に、つま先立ちした片方の足を軸にして、もう片方を後ろへとあげる。もちろん、顔は空を見あげたまま。

(さぁてと。ミアンには、これがなにか判るかな?)


「にゃあに木の枝の上に立って、変な格好をとっているのにゃん?」

(ぶぅぅっ。やっぱり無理だったわん。では正解を)

「ばれりーな」

「バレリーナ? ぶふふっ。今、ウチはお食事中にゃんよ。食べものを吐きださせるような、おかしなことをいってもらっては困るにゃよ」

 ぶふふふ。ぶははは。ぶゎははは。腹を抱えて笑いころげるミアン。

「もう、ミアンったら。そんなに笑わなくてもいいじゃないよ。ぷんぷん!」

(そりゃあ、アタシはミアンの笑顔が見たくて、ここまで来たんだけどね。自分が笑われるのは、やっぱり嫌だなぁ)

「ぶふふっ。まぁまぁ、ミーにゃん。おなかが空いているからって、そんなに怒らなくてもいいじゃにゃいか」

「ミアン。アタシはね。さっきイオラから霊力をもらったばっかりなのよ。

 大体さ。妖精がおなかなんか空くわけがないじゃない!」

(そりゃあね。そうやって食べられるミアンがうらやましいとは思っているけど)

「そうにゃった。でも、食べたそうな雰囲気が、どこはかとなく漂っているのにゃけれども。

 ……まぁ、いいにゃ。……もぐもぐ」

「本当にミアンったら。……それ、美味しいの?」

「うん。たかが池のお魚さんだと思って甘く見ていたのが間違いの元にゃ。この味わい。この風味。他のお魚さんと較べて、いささかも遜色ない。これはきっと、想像だけで物事を判断してはいけにゃいと、神にゃんがウチに教えてくれているのかも」

「ミアン。いくら大好物なお魚さんだからって、神さままで引きあいに出さなくても」

「食べられないものには、この敗北感は判らないのにゃ」

「敗北感って……。ミアン。あなたはいつ誰と闘ったの?」

「先入観と偏見でこりかたまっていたウチが、このお魚さんを食べた現実のウチに打ちのめされたのにゃ。つまり、ウチがウチと闘ってウチに敗れたのにゃあ!」

(ごめんね、ミアン。『つまり』を聴いても、いっている意味がよく判らなかったわん)

「ねぇ、ミアン。そのお魚さん。結構、大きかったみたいね。誰かにもらったの?」

「誰かにもらう? 失礼なことをいわないでほしいにゃ。ウチが獲ったお魚さんにゃんよ」

「へぇ、これを。一体どうやって?」

「こっちに来てみにゃ」「うん」

 ミアンは池からつきでている石の上にぴょこんと乗る。

「静かにして見ているのにゃよ」

 ミアンは実体波を操作して自分の尻尾を少し伸ばすと、その先を池の中へとたらす。すると、いくらも経たないうちに尻尾の周りがパシャパシャと水しぶきをあげている。ミアンの尻尾には、見事、お魚さんがくっついていた。

 ミアンはお魚さんをつけたまま、尻尾をくるりとふりあげる。その拍子で尻尾からはずれ、宙を舞うお魚さん。ミアンは跳びあがって、ぱくっ、と口にくわえた。

 ぱちぱちぱち。

「すごい!」

 アタシはミアンの、一芸と呼んでもいい漁の仕方に拍手を送った。

 ミアンが口を開けると、お魚さんが地面に落ちた。ばたばた、と、もがいているお魚さんの身体をミアンは前足で押さえつける。

「でもそれって、お魚さんに尻尾を咬みつかれていたってことでしょ。痛くないの?」

 アタシは心配して尋ねた。

「ううん、全然。だってウチは化け猫にゃもん。この身体は実体波で本当の身体じゃにゃい。さっき、お魚さんはウチの尻尾に咬みつこうとして、逆に尻尾の実体波にからめ捕られてしまったのにゃ」

「そうだったの」

 アタシは納得した。


 ミアンは再び実体波を操作して、尻尾を元の長さに戻す。

「さてと。ゆっくり頂くとするにゃ」

 ミアンが舌なめずりをしている。

「あっ、待って。ミアン」「うん? どうしたのにゃ。食べたいにょか?」

「だからアタシは食べられないんだってば。もっとも食べられたって生魚をそのまま、っていうのは遠慮するわん。そうじゃなくって、ここにいるのはミアンだけなの?」

「違うにゃよ。ウチがご主人さまであるネイルにゃんから勝手に離れて、ここまで来るわけがないじゃにゃいか」

「あっ、ネイルさんも来ているんだ」

「セレンにゃんもにゃ。というより、彼女のつきあいで、ウチらはここに来ているのにゃよ。セレンにゃんご愛用のアーガ、アリアに乗ってここまで来たのにゃん」

「そうなんだ。それで二人はどこにいるの?」

「茂みの向こうにある湖にゃよ。釣りをしているのにゃ」

「ふぅん。釣れているの?」「行って見てみれば、判ることにゃん」

「判った。じゃあ、行ってくるわん」「うむ。むしゃむしゃ」

 アタシは盛んにお魚さんを食べているミアンを尻目に、二人のいる湖へと向かった。


 ……今、アタシの目の前には、ラミアさんとレミナさんの食事風景が幻のように浮かんでいる。食べながら笑いあったり、話しあったりしていた。とても楽しそう。でも……。

 アタシとミアンには、……できない。アタシたちだって親友なのに。アタシとミアンは違う。違うの。それを認めるのが嫌で、見せつけられるのが嫌で、アタシは……ミアンのそばから逃げだした。


「お話のミーにゃん。よくバレリーナを知っていたにゃあ」

「アタシも知っているわん。村役場のマリアさんが人間の歴史を綴った幾つかの資料を見せてくれてね。その中の一冊にあったの。資料の名前は忘れちゃったけど、確か『踊り』って項目のところだった筈よ。『ばれえ』は移民からもたらされた芸術の一つとかいう話だったわん。多分、このミーナもマリアさんから教えて貰ったんじゃないかな」

「惑星ウォーレスに住んでいた人間って、ほとんどが他のさまざまな天体から流れついた移民なんにゃと。なもんにゃからバレエに限らず、自然、文化、技術、芸術など、どの分野においても、多様性に富んだものとなっていたみたいにゃ。当然村にも、資料が渡っただけじゃにゃく、生活習慣及びその他でかなりの影響を及ぼしたってわけにゃん」

「他のことはどうでもいいけど、ようするに芸術なのよ。それにもかかわらず、笑うなんて……。このお話のミアンったら、本当、失礼しちゃうわん」

「あまりにも似合わなかったからじゃないかにゃあ……。

 それはそうと、ミーにゃんは、そんにゃに生魚を食べたかったのにゃん? それにゃら今度ウチと」

「あのね、ミアン」

 くるっ。

「ほら、『遠慮する』って書いてあるじゃない。別に食べたいわけじゃないのよ。よく読んで欲しい……、きゃああああ!」

 ばたん!

「うん? どうしたのにゃろ、ミーにゃんは? こっちを振りむくなり泡吹いてぶっ倒れたのにゃけれども。……ひょっとしてウチの顔ににゃにか」

 きょろきょろ。

「あっ、そうにゃ。ミーにゃんが物置から持ってきた鏡があったにゃん。早速、覗いてみるとするかにゃ」

 ひょい。すたっ。

「どれどれ、いつもきれいなウチの顔は、と。……ふふにゃにゃにゃにゃにゃああ!」

 ばたん!



 つか。つか。つか。


「うふっ。この子たちって案外、面白いねっ。許してあげ……だめだよねっ。よしこ、甘すぎるよねっ。まだまだ仕返しをしなくっちゃねっ。……あっ、身体をもぞもぞとさせているねっ。もうしばらく隠れて様子を見ようねっ」

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