第九話『くつろぎの場へ』
「ミーにゃん。これ、本当にいわないといけないのかにゃ?」
「なにいっているのよ。今回の話はミアンが造ったんじゃない。早くやりなさい」
「ふぅ。……仕方がにゃい。始めるとするかにゃ」
《砂嵐が吹き荒れる荒野。そこに、おのれの腕に自信がある二匹の拳銃使いの姿があったのにゃ》
「拳銃っていったって、使うのはやっぱり『霊波灯』なのにゃけれども」
「安全だしね。光が身体にあたったら、撃たれたってことにするわん。格好をつける為に、指先を銃口の代わりにしようよ」
「判ったにゃ。それじゃあ、ミーにゃん。始めるにゃよ」
「うん。いつでもかかってらっしゃい!」
「うぉっほん。ミーにゃん。早すぎなのにゃけれども。幾らなんでもこの時間はないと思うにゃん」
「へっ? (そう言えば早朝の闘いにしようって決めたけど、どんな台詞を返そうか、なんて考えてもいなかったわん)」
「ミーにゃん! ウチは朝は苦手なのにゃん。毛づくろいも朝食もゆっくりと得心のいくまでやりたいのにゃ。それにゃのに」
「そう……なの? ミアン、一度、セレンさんの病院へ行ってみたら」
「ミーにゃんもそう思うかにゃ?」
「うん。なんともないとは思うけど、一応、用心の為にね。安心が第一だわん」
「それもそうにゃあ……。よし、今度、検査を受けてみるのにゃ。ミーにゃん。おかげで決心がついた。ありがとうにゃん」
「ううん。どういたしまして」
「じゃあにゃ、ミーにゃん」
「うん、お身体はお大事にぃ……って、どこへと行くつもりだわん」
「ふにゃから、病院へ健康診断に」
「だめぇ。本を読み終わるまでは一緒にいてよ。っていうか、どうしてお芝居の途中で現実に戻っちゃうのぉ」
「お芝居? ああ、そうにゃったそうにゃった。でも、ミーにゃん。ウチが現実に戻ったのは、ミーにゃんが『病院へ行ってみたら』っていってくれたからにゃんよ」
「違うわん。ミアンが、朝が苦手とか毛づくろいがどうのとかいうから」
「まぁ、いいにゃ。どっちが正しいかはこれで決着をつければ済むことにゃん」
「(猫なのに右前足の指を器用に折り曲げて、銃の形にしているわん)
判ったわん。アタシも右手の指から、霊波光線を発射するわん」
「よし、決まったにゃ。それじゃあ、ミーにゃん。お互いの背中をくっつけるのにゃ」
「いいわん」
ぴたっ。
「いいか、ミーにゃん。一歩前へ進むたびに、『一、二、三』といった感じで声をあげるのにゃ。三歩まで歩いたら、それを合図にくるっと振り返り」
「第九話を読むのね。そして読み終わった途端、びーっ、と撃ち始めるってわけだわん」
「(ミーにゃん。どうしてそんなに読むことを盛りこみたがるのにゃ……。まっ、聞くほどのことでもにゃいか)
それじゃあ、いくにゃよぉ!」
「うん」
「一、二、三!」
くるっ。
第九話『くつろぎの場へ』
この場の雰囲気を少しでも和らげようとしてか、セレンさんが声をかける。
「レミナ。折角来たのだから、お茶でも飲んでいったらどうだ?
ラミアなら、すぐに戻ってくると思う」
「うん? あぁ、セレン。こんちわぁ。そうだね。じゃあ、もらおうかな」
「あっ、それなら」とネイルさんは、みんなにも声をかける。
「では、皆さんの分も用意しましょう。休憩室でお待ちください。
ミアンさん。あなたも、おやつはまだでしたよね。ミルクとお菓子を食べませんか?」
「うん。頼むにゃ」
ミアンは尻尾を大きくして喜んでいる。ネイルさんはミアンの言葉に、にっこりと微笑み、診療室をあとにした。
すたすたすた。
「じゃあ、我々も休憩室に行くとしよう」
セレンさんがそう言葉をかけると、レミナさんも、『うん』とうなずいた。
「ミーにゃん。ミーにゃんも行くにゃろ?」「もちろん、だわん」
アタシたちは休憩室へ。ここに入ると、まず目にするのが大きなテーブルとそのわきに並べられている椅子だ。ともに灰色っぽい色で統一されている。正面つきあたりは窓になっていて、
その左右の壁には黄褐色の本棚が設置されている。近くに行かなければ見えないけど、奥の方には台所があり、お茶の準備などはここで行なわれている。
アタシたちは休憩室に入り、テーブルへと着く。ほどなくして、湯気の立つお茶とお茶菓子が運ばれてきた。
「さぁ、どうぞ」とネイルさん。「頂きまぁす」と残り全員。
軽いおやつタイムとなった。セレンさん、ネイルさん、そしてレミナさんはお茶菓子などを食べながら、雑談をくりひろげている。
一方、アタシは、ミアンがミルクを飲み、お菓子にぱくついている姿を凝視している。
「むしゃむしゃむしゃ。うん? ミーにゃん。どうしたのにゃ?」
「えっ。う、ううん、なんでもないわん」
「むしゃむしゃ。……そうか、判った。ミーにゃんも、おやつが食べたいのにゃ」
「ち、違うわん。そんなことはこれっぽっちも……」
「考えているのにゃん」「……うん」
「これ、食べてもいいのにゃけれども。ミーにゃんは……」
「うん。食べられないの。気持ちだけはありがたく頂くわん」
「そうにゃった。ミーにゃんは、イオラにゃんのくれる霊力だけが栄養源だものにゃ」
「妖精だからね。でも、十分にもらっているから、不都合はないんだけど……。
やっぱり、ちょっとだけミアンがうらやましい気がするわん」
「それは生きものそれぞれにゃんよ。ウチから見れば、『イオラにゃんからなに不自由なく霊力をもらえるミーにゃんは、いいにゃあ』と思うこともあるのにゃ」
「でも、そうやって普通の生きもののように、食べものから霊力を得られるじゃない」
「食べものが安定して食べられるのは、人間が提供してくれるからにゃよ。今はネイルにゃんが、ウチのご主人さまとして食べさせてくれる。ありがたいことにゃと思っている」
むしゃむしゃ。ミアンは美味しそうにおやつを食べている。いつも目にする光景からか、だんだんと、『アタシも食べてみたいなぁ』と、思うようになってきた。
「ミアンはアタシと同じで、霊力を直接取りこむこともできるよね。現に、森に棲んでいた時は、アタシと一緒にイオラからもらっていたし」
アタシが懐かしそうにいうと、ミアンも同じような顔をしてうなずいている。
「そうにゃった。ウチはイオラにゃんに出会えなかったら、霊力切れを起こして、天上界へと旅立っていたかも。イオラにゃんには今でも感謝しているのにゃよ」
「いつまでも、うち(イオラの木がある森)にいればよかったじゃない。アタシも楽しかったのに」
「でもにゃ。やっぱり、ウチは人間といる方が落ちつくのにゃ。特にウチは人間の家庭で生まれたから、その思いは他の猫よりずっと強いのにゃと思う」
「じゃあ、今は幸せなんだ」「そういうことになるかにゃ」
(ミアン。口に出してはいわなかったけどね。本当はアタシ、ミアンが森からいなくなった時、とてもさみしかったんだよ。だってさ。『精霊の間』の中で腰をおろしてアタシを抱いているイオラ。そのそばでうずくまっているミアン。つい何年か前まで、アタシにとっては、それが世界の全てだったから。アタシが『イオラの森』の中を飛びまわるようになってからも一緒だった。だから、アタシはミアンがずっとそばにいてくれる。そう思っていたのに……。だけど、ミアンは今の暮らしがとても楽しそう。やっぱり、これでよかったんだな)
「ぐすぐすっ。このお話のミーにゃん。なかなか可愛いにゃん」
「ぐすぐすっ。けなげというか、さすがアタシだわん」
「はっ!」「はっ!」
《びーっ! びーっ!》
「今のは明らかにウチの方が早かったのにゃけれども……、まぁいいにゃん」
ばたん!
「ふぅ。また無益な殺生をしてしまったわん」
「ミ、ミーにゃん……」
「あれっ、まだ生きているわん。でも、虫の息みたいね。どれ、最後になにをいいたいのか聞いてあげるとするわん」
「ウ、ウチは……、
濃厚なたれがかかっている、分厚くて柔らかいお肉が食べたいにゃん。もちろん、しゃきしゃき野菜や、ほかほかおいもも、つけ合わせには添えたいにゃん。
骨つき肉も、これまたいいにゃん。がぶり、とかみついた、あの瞬間がたまらないのにゃん。
獲りたてで身が引きしまったお魚さんが食べたいにゃん。あっ。数日置いて、油がのってきたお魚さんも悪くないにゃよ。
うなぎのかば焼きだって食べたいにゃん。ごはんに乗せれば、たれがしみつき、食がどんどん進んでいくにゃん。
ここまでくれば、揚げ物もやっぱり食べたいにゃん。めんち、ころっけ、とんかつ、えびふらい。各種天ぷら。ううん。しゃべっただけで思わずよだれがしたたるにゃん。
粉ものなんかも食べたいにゃん。焼きそば、たこ焼き、お好み焼きにもんじゃ焼き、ぎょうざの次はしゅうまいと。次から次へと頭の中に浮かんでくるにゃん。
めん類も手強い相手と思うにゃん。先ほどあげた焼きそば以外に、うどん、そば、らーめんにちゃんぽん。ウチを楽しませてくれるものが盛りだくさんで嬉しいにゃん。どれもこれも食べたいにゃん。
おもちもいいと思うにゃよ。焼いてぷぅっとふくれたおもちをにゃ。のりに絡ませ、しょう油に浸して、はい、ぺろり。あんころもちも食べたいにゃん。雑煮もちにゃら、身体はすぐにぽっかぽっか。
お肉と野菜の煮込み鍋、各種いろいろ美味しいにゃん。寒い時期には鍋が一番。
まつたけなんかもいいにゃんいいにゃん。焼いたのも、どびんむしも、最高にゃん。まつたけごはんも美味しいにゃん。何杯でも食べられるから不思議にゃん。
かれーしちゅーやかれーらいす。くりーむしちゅーにゃんかも嬉しいにゃん。すーぷ状でも、べたっとしても。どっちも好きにゃん。食べたいにゃん。
おっとと。でざーとだって食べたいにゃん。
くりやいちご、めろんにゃど、くだものなんかをあしらった、けーきにゃんかも食べたいにゃん。しゅーくりーむ、くれーぷにゃどは、たっぷりくりーむがお好みにゃん。それが無理というのにゃら、せめて菓子ぱんぐらいでも。たい焼きだって忘れちゃいけにゃい。いまがわ焼きも、おつにゃもの。ぺろぺろ飴もなめたいし、わた菓子の、すぅーっと溶ける感じと甘さも嬉しいにゃん。すぅっと溶けると言うにゃらば、『あいす』にゃんかも食べたいにゃん。そふとくりーむにかき氷。種類がどんどん増えている。甘くて美味しく、ウチ好み。
飲みものにゃんかも口にしたいにゃ。果汁入りやあわあわ飲み物。嗜好を求めた飲み物にゃんかもいいと思うにゃ。もちろん、食事に合うよな飲みものも。
ごくっと飲んだら、お次はやっぱり」
「ミアン、そこまで! かあぁぁっと!」
「うん? ミーにゃん、どうしてにゃん。ウチはまだいい足りにゃいのに」
「ながながと喋りすぎだわん。これのどこがきれいな絵になるっていうのよ。黙って聞いていれば、今の村じゃ造ることのできない、異星人から伝えられた食材や料理なんかも出てきたりして。それに、なにが『あつあつ』よ。猫舌じゃない。食べられないわん」
「ミーにゃん。こんなことをいうのもなんにゃけど……。食べたいと思うものが、実際には食べられにゃいものであってもいいんじゃにゃいか? この二つが必ずしも同じものである必要はないと思うにゃ。願うだけにゃら自由な筈にゃよ」
「なぁるほどね。そうかもしれないわん。けどぉ。なんていうか……、本当、未練がましいったらありゃしないわん」
「未練がましいから、こうやって化け猫になれたと思うのにゃけれども」
「ふぅ。ああいえばこういう。こういえばああいう。本当」
「困ったものにゃん」
「誰のことをいっていると思っているの。誰のことを」
「えっ。ミーにゃんのことにゃろう?」
「違……。くそぉっ。いい返せない自分が情けないわん」
「ともあれ、二つのお芝居をやってみて、判ったことが一つあるにゃん」
「えっ。なんなの?」
「ウチらには『一匹おおかみ同士の闘い』にゃんて演出は合わないということにゃ」
「……そうよね。あきらめるわん」
「じゃあ、これにてバトルがらみのお芝居は終わりってことで」
「待って、ミアン」
「なんにゃ? ミーにゃん」
「もう一つやってみたいの。手伝ってよ」
「まだやる気かにゃん……」
「と、その前に」
《吹き荒れる風の中を舞う砂漠の砂。それが撃たれたミアンの身体へと降りそそいだわん。砂の大地は、まるでなにもなかったかのように元の装いを取りもどしていく。
早撃ちの名手と謳われたミーナ。彼女はそんなミアンの最後を見届けることなく、砂嵐の中へと消えていった。……おしまい》




