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第一章 我、進む道とは 1

 自慢ではないがと、まず断りを入れる。


 誰に対して? などとは聞かないで欲しい。


 これは自分への問い掛けであり、自分を再確認するためのものなのだから。


 そんな自分を冷静に、客観的に見て、かなり優秀な方といって良いだろう。


 生まれは地方貴族の三男坊で、家の歴史は浅く財産と呼べるようなものはない。祖父が文官として成功し、それを父が継いでやがて長兄が継ぐ。そんか家に生まれたお陰で行動の幅は広く、身分に関係なく友人をつくることができた──なんて思える自分の精神はとても柔軟であり、血族主義や家柄でしか自分を主張できないバカどもよりは遥かに健全だろう。


 だからといって作法知らずではない。


 母の家系は代々家庭教師を輩出している一族で、その母も父と結婚するまでの七年間は伯爵の娘の家庭教師を勤め、辞めてからは息子たちに礼儀作法や得意の舞踊を教えていたものだ。


 とはいえ、兄二人は学問に興味を持つ人たちだったので、なにかと自分に押し付けて逃げていたものだ。


 普通、押し付けられたら嫌がるものだが、生憎母の血が多かったらしく、それ程嫌という感情は生まれてこなかった。それどころか楽しく学んでいたような記憶がある。


 確かに作法や舞踊に打ち込み、貴婦人にも負けないくらい上達したが、決して軟弱な男にはならなかった。


 それと同じくらい幼なじみたちと野山を駆け、川では一日中遊んだものだ。街にも出れば街の友人と遊ぶし、対抗一派とは沢山ケンカをして父に怒られたりもした。


 山に行けば山の友人たちと狩りを楽しみ、貴族の子弟たちとは剣の腕を高め合う。街では商売をして金を稼ぐ。毎日が楽しく毎日が勉強だった。


 いつ頃だったかは忘れたが、いつの間にか自分が幼なじみたちの大将となり、大人たちから一目置かれるようになった。


 人を纏める難しさ。皆で助け合う大切さ。喜びを分かち合う一体感。性格が曲がっていたらとても学べることはなかっただろう。


 確か十三になる頃だろうか。帝国院で教鞭を揮っていたアブリート老師と出会い、魔術を習い始めたのは。


 元々そういう才能があったらしく、十六になる頃には魔術師の称号を得られるくらいだとお墨付きをもらい、魔術師試験を受けようとしたその日、『魔術師反乱』などいう歴史的事件により試験はお流れ。なんやかんやで魔術師試験がなくなってしまった。


 正直いってがっかりはしたが、切り替えの良さは天下一品。これは切り札。奥の手だと思えば良いと思ったら直ぐに納得できたものだ。


 それから一年。諸事情で家を出て放浪生活が始まったが、学ぶべきことは多くあり、旅立たなければ体験できないことが沢山あった。厄介事も同じくらい経験した。いろいろな者たちと戦った。なにより多種多様な人たちと出会えたことが勉強になった。


 それは帝都に腰を下ろしてからも同じで、沢山の人と沢山の事件がやってきてくれた。


 危機を乗り越える知恵と機転。最悪を最高に変換できる思考の柔軟さ。自分を高める努力と根気。これだけのものを持つ者はそうはいない。なにかをするには十分過ぎる程の下地だろう。


 そして、残るは外見だが、まあ、優秀とはいえないが、それなりには見られる顔だろう。


 自分としては少々垂れている目をなんとかしたいが、知り合いの女性からは優しい目許だと評価されているし、口許は引き締まってて頼もしい声が出ているので自分としては満足している。


 体つきは戦士や騎士に比べれば細く迫力に欠けるものの鍛えている時間は負けてはいない。対等に、いや、魔術も併用したら騎士団とでも渡り合える自信があった。


 だがと、冷静な自分が異議を唱える。


 どんなに優秀だろうと地方貴族の三男坊に優しい時代ではない。


 大貴族や伝手があるならどこかの騎士団に入り込むこともできるし、領地があるなら分家として細やかに生きて行けるだろう。しかし、そんなものがない地方貴族の子弟には五つしか選択肢がなかった。


 それなりの能力があるならどこかの養子になるか文官になるのかのどちらか。商才があるなら商人に。手先が器用なら職人に。そして、なにもなければ一般人として生きるかだ。


 目指そうと思えば直ぐに手に入るものばかりだが、生憎どれも自分の趣味ではなかった。


 別に貴族に未練がある訳ではない。どちらかといえばなくても良いものだ。ただ捨てないのは面倒なだけ。両親を説得する時間が煩わしいだけ。邪魔な理由ができたら問答無用で捨てているところだ。


 改めて考える。自分はいったいなにをしているのかと。


 いや、考えるまでもない。なにをしているかなど答えは出ている。


「……ただ、この壁の高さに立ち尽くしているだけさ……」

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