山深(やまふかく)、闇密(やみふかく)
ああ、静かに 静かに
そう、優しく、ゆっくりだ
けして荒立てたりはせず、ただひたすら入念する。
そう、恋人を労るように、綿で包み込むように甘く噛み締めてやる。
つぷり、ぷち、ぐちゅ、
柔肌は絹ごし豆腐と同じと気がついたのは3人目の時だ。
だから殺さないように神経を尖らせて、ゆっくりと与えてやるのだ。
慈愛を
慈悲を
彼女は蕩けたように「あぁ……」と途切れるような声を漏らす、
恍惚の吐息のようにも聞こえるし、諦観の声音のようにも聞こえた。
だがどちらでもいいのだ、わたしはいま彼女と生死を分かち合えている。
彼女という命に触れて、彼女というすべてをこの身で味わい尽くしているのだ。
肉を血で彼女のすべてを五体で感じ取る。
ああ―――素晴らしい。スライスすると熱されたチーズみたいに腕からぱしゃっ、と『ワイン』が溢れ落ちた。
これも贅沢。ああ、勿体無い。だがこれも御恵の賜物、有り難く頂戴しよう。
ぷっくりと実った乳房を噛み締める、声を無くし、感情を無くしてたような少女がついに壊れたように歌い出す。
人は自己崩壊を防ぐために逃避を行うが、自己をもっとも表す部分を破壊されたら耐えられないことを4人目で知った。
大きくふくよかな丸みが抉れて、赤黒いクレーターのようになると、痛みか自己存在の儚さに耐えきれなくなったか彼女が暴れ始める。
ああ、こうなると面倒になってしまう。残念、非情に。
金切り声のような耳障りは歌声に、神経を逆撫でされつい腹部へ長い長い爪を突き立ててしまう。
ふぐぅ、となんとも情けない声を彼女があげると先ほどまでの苛立ちが緩やかに霧散していった。
そう、いとなみは密やかに。優しく彼女に苦しいかい、と耳打ちしてやると何度も何度も彼女が頷きを返す。笑みを浮かべたまま、先ほど突き立てた爪を横へと引き延ばし切開してしまうと彼女の腸をずるり、と目の前に持ってきてやった。
その意図を測りかねるのか彼女が目を白黒とさせるのがとても愉快だった。
腸を押し込むように彼女の口内へと押し込むと言葉を喋らせないように細工する。
むぅ、むぅ、と咳き込むような声が聞こえるが先ほどまでの金切り声よりもマシになっていた。
ここまでは満足感を得ていた私の胸に一点の墨が落ちる。
彼女の目はもはや生を意識しておらず、もう死を待つばかりの活力の光を亡くしてしまっていたのだ。
がっかりだ。またしっぱい。
嘆くばかりだ、これが人間のもろさ。人間の弱さだと理解しながらその上の反応を期待するはしたなさ、恥じるばかりである。
とはいえ食べ残しを許されるわけがない。これはまさしき天上の晩餐。神よりたまわりし優雅な一時なのだから――そう、断ずると勿体無いながらに悔やみつつ、
わたしはおおきな口を開いて最後の尊厳とも言える顔面に牙を立てて、
ガブリ、と
一気に囓り毟った。
意外と血は出ないものだ。どろり、と赤いクリームのような血が溢れ出してもう何者かであった肉片のみが残されている。
詰まらない、詰まらない。はやく切り刻みたい。
この苦界をもたらした奴らにこの晩餐を味わってもらいたい。