Begining-覚醒-
「ああ、頃合だろう。それに・・・この他人の心配ばかりしている馬鹿な奴の前で
この学校の生徒――いや、友達が消えたら面白いとは思わないかね?」
そう言って、ケリアは空中に手を突き出す。
龍護は言葉の意味を理解して、右手の痛みに耐えながら
何とか立ち上がり、ケリアを睨みつける。
「ほう・・・すばらしい忍耐力だ、それとも痛覚が麻痺して痛みを感じないか?」
「麻痺してたら、どれだけありがたいか・・・
今から何をするつもりだ?」
「先程の言葉の通りの意味だよ。面白いものを見せてやる。
おい セリカ、お前はもう行っていいぞ。
後は、私が始末する」
「了解しました、ケリア・フリード少佐」
セリカ―偽沙羅が命令に従い、そのまま屋上から飛び降りた。
ここ・・・下手したらビルの5階ぐらいだぞ?落ちたら死ぬんじゃ・・・・
ケリアは飛び降りた部下を気にも留めずに言った。
「さて、ショーの始まりだ。存分に楽しめ。」
次の瞬間、ケリアの右手に黒い光の線が這っていく。
「具幻化、啼け、死鴉・・・」
右手の黒い光が爆発的に輝き、屋上を包み込む。
鴉の鳴き声が、耳に劈く。
まるで、耳元で太鼓が鳴っているようだ。
黒い光が止み、視力が戻ってくる。
見るとケリアはさっき居た場所にはいなかった。
「さて、早く殺ってしまおうか」
上からケリアの声が聞こえてきた。
だが、そこには、異形のものが空中に浮かんでいた。
「なん・・・だよ・・、その姿・・!!」
右手には、規則的な黒い光の線の模様が入っており、
体は、SATが配備している強化具幻化装置を
装備していた。翼、ミサイルポッド、両手には巨大な電子銃を持っていた。
装備が全部、黒一色だからまるで巨大なカラスだ。
「お前・・SATなのか!?」
「ふん、 答える必要はない、だが、この機体の素晴らしさを見てもらってから
お前を殺してやる。」
そういうと、おもむろにケリアは電子銃を構え、引き金を引いた。
ズバァン!!
爆音とともに、弾丸は体育館に吸い込まれていった。
ドオオオオンン!!!
爆風が龍護を襲う、右手の痛みに何とか耐えながら左手で顔を覆う。
風が収まって、体育館を見ると、跡形もなく消し飛んでいた。
「・・・!! 何だよ、これ・・!!」
呆然とつぶやく俺。
なぜなら体育館が、ごっそり削りと荒れたか如く、消滅していたからだ。
朝、授業で体育館を使用していたはずの生徒や教師までもが、
目の前で消し炭になってしまった事が未だに理解できなかった。
ケリアが屋上に降り立ち言った。
「ハハッ、たったこれだけの人数が死んだだけで、何を驚いている?
これからまだまだ人が死ぬというのにな。」
「ふっざけんなあああああああああああぁぁぁぁ!!!!」
頭に血が上って、俺は絶叫を上げた。
「てめえ!! これ以上ここを・・・俺の居場所を壊すのは許さねぇ!」
「ハハハハハッ!!傑作だな!右手をもがれ、無様に地べたを這いつくばっていた
人間が、私に喧嘩を売るか!大したものだ。」
「うるせえ!てめえを1発殴るぐらいなら、右手が無くてもできるぜ!!」
ダッシュをしながら叫ぶ。
せめて1発殴れば、と思い全力で振りかぶる。
だが、
「消えろ、ゴミ。」
次の瞬間、俺は宙を舞っていた。
電子銃で、腹に風穴を空けられたからだ。
地面に叩きつけられ意識が遠のく。
「哀れだったな、お前の友達も、すぐにそっちに行くさ。
私が今から、一緒に逝かせてやる。」
俺に背を向けて、フェンスに縛られた沙羅の元に近づいていくケリア。
やめろ・・・
触れんな・・・
無意識に体が動く。
俺の・・・
俺の大切な人に・・・
触れんじゃねえ!!
その時、体から異様な光があふれた。
・another view・
~KERIA~
「何・・・だと?」
私は混乱した。
さっき、腹に大穴を開けて、殺した筈の人間が今、
自分の目の前に赤黒い光を出しながら立っていたからだ。
理解できない。
あれだけの手傷を負って、立っていることすら不可能なはずなのに
自力で立ち上がっていた。
「・・・お前、人間か?それとも化け物の類か?」
返事は無い。
こいつ、意識が無いな・・・
そのとき目が合った。
右目の黒目が紅くなり、白目が黒くなっていたのだ。
獣みたいな目をしている。
「どうやら、後者のようだな・・」
そう判断し、電子銃を龍護に向けて、発砲する。
ドオオォン!!
見事に胴体に命中、爆煙が吹き荒れる。
直撃すれば、欠片も残さず消滅するであろう。
「終わりか・・・、他愛も無いことだったな。」
そう判断し立ち去ろうと思い、後ろを向くと、先ほど爆煙の中に飲まれたはずの
龍護が立っていた。
ケリアは驚き、素早く後方に下がる。
あの攻撃を受けてなぜ生きてるか分からなかった。
「化け物が・・・!!」
ケリアが思わず呟いた時、龍護の体から、赤黒い光が溢れ出す。
無いはずの右腕に光が集まって、人の腕の形を生成していく。
完全に再生された腕を、ケリアに向けて突き出す。
龍護から、先ほど感じ取れなかったおぞましい殺気を感じる。
「うああああああぁぁぁぁぁぁぁああああああ!!!!」
耳に劈くような絶叫・・・咆哮を上げる。
一気に光が、右手に収束されていく。
「まさか・・・具幻化?!一般人がなぜ?!」
疑問もつかの間、ケリアはいきなり赤黒い光に、包まれていった。
~RYUUGO~
廃墟が続いている。
自分の知ってる町じゃない。
山の上の展望台みたいなところにいた。
所々、蜘蛛の巣が張ってて、壁はひびだらけだ。
空が赤い・・・まるで燃えてるようだ。
空襲でも受けたかのように、町が黒くなっており、空と妙に合っていた。
ここは・・・どこだ・・?
ケリアって奴に撃たれて、俺、死んだのか?
みんなは無事かどうか心配だ・・・
すると、頭の中に嫌なイメージが湧いてきた。
みんながあの女―ケリアに殺されている、
近くに血だらけの氷室と沙羅が、倒れ伏している。
「氷室!!沙羅!!」
二人に声をかけるが、当然の如く、反応は無い。
守れなかった・・・
大切な人たちを守れなかった。
俺が強ければ・・・
俺が力を持っていれば・・・
虚しさに嘆いていると
「守りたいの?」
声が聞こえた。周りを見渡すが、どこにも人らしき影は無い。
するとまた聞こえた。
「戦いたい?守りたい?それがあなたの望み?」
「誰だよ!!何いってんだか知らねえけど、さっさと姿を現せ!!」
姿の見えぬ相手と喋るのは、少々気持ち悪い。
「いいから、答えなさい、あなたは守りたいのでしょう」
訳が分からない。でも答えなければならない気がした。
「守りたいよ、みんなを。俺の前で誰かが傷つくのは、もうごめんだ」
正直に、思ったことを言った。すると
「わかりました。ようやく、これを渡す時が来たようですね」
いきなり、右腕の手首に黒い腕輪が現れた。
装飾の無い、シンプルな腕輪だ。
「これを着けてる限り、あなたは人を護るだけの力が備わります。
ただし、人を意味無く傷つける事は絶対にしないでください。人としての心を失ってしまいますから」
「おい、ちょっと待てよ、これは一体何なんだよ」
「あなたがこの先、護りたい人達を護る為に必要なものです。」
話しているうちに、だんだんと意識が遠のいていく。
「行きなさい、あなたにはあなたの役目があります。みんなを護り続けていれば、また会えるでしょう」
「おい!!お前、名前はなんて言うんだ?!」
「またお会いしましょう」
「無視かよ!!」
つっこみが届くことが無いのに、何故かつっこんでしまい、そのまま虚しく意識が飛んだ。
~another view end~