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魔力は魔法に必要不可欠な要素であり、だからこそ魔力値が魔法使いの資質を表すものとして扱われる。
しかし、魔力値は生まれつき決まっており、修業や成長でその値が大きく変わることは滅多にない。
現代の魔法の主流である精霊魔術や神聖魔術は、自らの魔力を元に発動するものであり、魔法の技術を磨く努力もさることながら、生まれ持った魔力値こそがものを言うものだ。
だが、紋章術は術者自身の内包魔力ではなく、大気など自然の中に漂う外遊魔力を魔法として発動する魔術である。
術者の魔力が低くてもいい、技術こそがものを言う魔術だ。
誰もが高い魔力をもっているわけではない。
自らの魔力値の限界に頭を悩ませる魔法使いは多く、その悩みとは無用な紋章術だが――その技術を学ぶ魔法使いはきわめて少ない。
何故なのか?
それは、術者にとって最も扱いやすい魔力は、自らの魔力――内包魔力であるためだ。
自らの一部である内包魔力は訓練しだいで手足同様自在に操ることが可能だが、外遊魔力は違う。
内包魔力を使う魔法は魔力さえあれば、ある程度の魔力操作と呪文があれば大抵は発動する。魔力操作に長けた者であれば、呪文を省略――極めれば無詠唱での発動さえも可能だ。
それに対し外遊魔力を魔法として発動させるには、魔力操作と呪文に加え、更に特殊な式を必要とする。
式の形式は、魔術の種類によって様々であり――紋章術はその名の通り式を『紋章』という形で展開して魔法を発動する。
魔力のインクで紋章を描き外遊魔力を凝縮・変換して、魔法を発動させるのだ。
必要とされる紋章は複雑かつ精密に描かねばならず、世間では平らな机の上で集中して描いてようやく発動する魔術という印象を抱かれているため『卓上魔術』などと揶揄されることもある。
動きながらの発動は困難極まりなく、戦闘で使えるレベルまでに至るのは、ひどく困難とされている。
そんな難易度の高い魔術をあえて自らの主流魔術に選び、その教師となったサザーラですら――
「紋章術なんて言うのは、魔術馬鹿か僕みたいな芸術馬鹿しか手を出さないマイナー魔術……そう思っていたんですよ。」
ガルディウスの使う魔法を見るまでは。
魔術⇒魔法を発動させるための術。
魔法⇒あらゆる魔術の総称。魔術によって展開される力。
この話では、それぞれそんな扱いです。




